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狼の牽くソリは、雪の上を行く

三日後、ソリとハーネスが完成した。

地球の犬ゾリと違って指示を出す人間が必要ないので、ソリから直にロープが伸びてハーネスが付いている。

とりあえずの試作品第一号なので、ソリのサイズはシングルベッド位で、衝撃を緩和するため美波作のクッション材が使われている。

これを四人で牽いてみるらしい。


「準備はいいか?いくぞ!」


村人達が期待に満ちた目で見つめる中、ミナトさんとイツキさんを先頭にして、後ろにギンとクロが続く。

広場の入口からスタートしたソリは、みるみるスピードを上げて一周して戻ってきた。


「どうでしたか?ハーネスは痛くないですか?」


美波の問いに四人は口々に興奮気味に答えた。


「問題ないぞ、凄く滑らかだ。」


「あぁ、ソリもいい感じだ。初めてにしては良い出来だ。」


村人達も興奮しているようで、あちこちから歓声が上がっている。


「よし、次は荷物を積んだ時を想定してやってみよう。何人か乗ってくれ!」


ミナトさんの指示で、男達が六人乗り込んだ。


「いくぞ!」


先程よりは重そうだが、すぐにスピードにのって走り出す。皆さん二メートル近いマッチョさんなので、一人当たり九十キロとしても五四〇キロだ。

悠々と戻ってきた四人によると、このくらいなら二人でも充分牽けるらしい。

すごいぞ、狼。


「よし、大丈夫そうだな。

じゃあ少し森の中を走ってみよう。」


狩りの獲物の運搬に使えるかのテストだ。

発案者特権で、美波も乗せてもらう事になった。

ミチルも加わったので、トータル八人。これで大丈夫なら大物の三角牛も余裕で運べるらしい。


「いくぞ!しっかり掴まれよ!」


クロに言われて、美波はソリの縁に手をかけた。

隣にいるミチルが腰に手を回して支えてくれているので、落下することは無いはずだ。


「わぁ、速い!思ったよりスピード出るね!」


今日も防寒対策で着ぶくれている美波だが、風をきって走るソリの上は体感温度が低い。

今は興奮しているので、あまり感じていないようだが。


「そうね、これなら帰りに獲物を運んでも余裕で走れるはずよ。」


先頭を行く二人も後ろの二人も、この森を知り尽くしている。雪に覆われた森の中を、ソリはどんどん進んでいく。

あっという間に、秋にピクニックした川のほとりに辿り着いた。


「美波、どうだ?犬ゾリってのはこんな感じか?」


イツキさんが茶色のしっぽを揺らしながら振り返る、全力疾走したせいか舌を大きく出して、ハッハッと息を吐いている。

狼姿もかっこいいけれど、いつもの渋いおじさんとのギャップが、ちょっと可愛い。


「はい!完璧だと思います、思ったより揺れないですし。これなら安全に運べるはずです。」


しっぽの揺れが一際大きくなる。美波のイラストのみで作り上げた試作品が大成功だったのが、よほど嬉しいらしい。

しっぽは時に、言葉よりも雄弁だ。


その後広場に戻って、他の男達も交替でソリを牽いた。女性や子供はソリに乗って、楽しそうに声を上げている。


大はしゃぎをしている子供達を見て、美波はイツキさんに子供用のソリを作ってもらえないか聞いてみた。

小さな雪山を作って、すべり台みたいにしたら絶対に楽しいはずだ。快く了解をもらえたので、こちらは見習い職人さん達のスキルアップのためにも、若手に作ってもらう事になった。

ミニサイズのソリで子供達が遊ぶのもすぐだろう。


「美波、これ楽しいな!スピードなら絶対に馬よりこっちだろ。人狼族以外にも自力で牽ける種族はいそうだよな。凄い発明だ!」


ユーリは相変わらずのハイテンションで、美波の肩をバシバシ叩く。


「発明っていっても、私のアイデアじゃないんだよ。元の世界では犬ゾリって割とメジャーな物だからね。」


今回の事で再確認したが、別に能力を使わなくてもアイデアを提供するだけで役に立つ事は沢山ありそうだ。

問題はどの知識が有用か分からない点なのだが。


「いいんだよ、それで。こっちにも専門の職人はいるんだ、美波の世界の当たり前を再現して利用する事が出来れば、百年、二百年の進化が一瞬で可能になる。

エルフの存在意義と同じさ、膨大な知識を共有するんだ。先人の知恵を生かさなきゃ、進化は無いんだから。」


「ユーリ…珍しくまともな意見だね。今、不覚にも一瞬尊敬しそうになっちゃったよ。」


だいぶ失礼な感想である、しかし普段のユーリを見れば無理もないかもしれない。


「失礼なヤツだなぁ。俺だってエルフの端くれだぞ、長命種の存在意義は知識の蓄積とその利用にあるんだ。

ま、俺はまだ小僧だけどな!」


真理である。地球の人類においても同じだろう、そのツールがエルフではなくて本だったり、インターネットだったりするだけだ。


「そうだね、私一人の知識なんて大したことないけど、利用できる物は使わなきゃね。」


美波は決意を新たにした。

しかし、当面の目標は子供達のソリ遊びと、出来たら子狼達の犬ゾリだ。


大きい子達が牽いて、ハクやユキちゃんが乗ったら絶対に可愛いはず!!


良い話だった筈なのに、小さくまとまるのは最早お約束だろうか……

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