犬?ゾリを作ろう!
初雪から数日がたつと、外はすっかり冬の装いである。レンガのない部分は美波の太ももまで雪が積もっていて、雪かきをせずに歩くのは無理そうだ。
村人達は狼姿なら問題なく動けるのだが、人型での行動は難しく、人間の冬場の移動が困難なのは無理もない。
本日は久し振りの狩りの日で、男達が仕留めてきたイノシシを村人総出で処理している。
ちなみに、美波は戦力にならないので子守り係である。
「お疲れ様、クロ、ギン。大きいイノシシだったね。」
森で仕留めたイノシシにロープをかけて、力任せに引きずってきたので、若い男達はちょっとお疲れモードだ。
「今日のは大物だったからな。夏は荷車があるけど、冬は持ち帰るのが大変なんだよな。」
クロの言葉にギンも頷いている。
「そうなんだ。まぁ、犬ゾリって訳にもいかないもんね。」
何気なく言った美波に、二人ともきょとんとしている。
「犬ゾリって何だ?」
今度は美波が首を傾げる番だ。
ソリを使わないのは、狼の誇りとかデリケートな理由があるものと思い込んでいたのだ。
「え?犬ゾリっていうのは小型のソリにロープをつけて、ハーネスを着けた犬が牽くやつの事だけど…
狼だからそんな犬みたいな事できるかっ!ていう理由で使わないんだと思ってたんだけど。
違うの?」
驚いた事に、こちらの世界には犬ゾリが無いらしい。ソリと言えば大型の馬が牽くものを指し、他の動物が牽く事はないそうだ。
お互いに当たり前と思っていた為に、大きな勘違いをしていたようだ。
暫しの沈黙の後、ギンが口を開いた。
「えーと、つまり、まとめるとこういう事か?
美波の元の世界には、小型のソリを犬が牽く犬ゾリっていうものがあった訳だな。
この村でそれを使わないのは俺達が人狼で、犬みたいにソリを牽くのを恥ずべき事だと考えているせいだと思っていたと。」
「うん。てっきりそうだと思ってたよ、冬になったら町へ買い出しに行けないって言ってたから。」
ギンとクロは顔を見合わせて、美波を連れてミナトさんとイツキさんを探した。
その後、公民館のテーブルを五人で囲むことになった。
「美波、今の話は本当なんだな?その犬ゾリというのを使えば、狼型になってソリを牽き、荷物を運べるんだな?」
ミナトさんの問いに、美波は頷いた。
「はい。ソリのサイズやそれを牽く犬の数や力にもよりますが、八頭程の犬が人間と割と大きな荷物を運ぶのを、映像で見たことはあります。」
え?何なのコレ。そんな重大な事件みたいに言われても……美波は内心ちょっとしたパニックである。
「あの…何かまずいこと言いましたか?」
ビクビクしながら言えば、四人とも溜め息をついた。
「そうじゃないんだ、美波。むしろ凄い発見にびっくりして、言葉が出ないんだよ。」
ミナトさんにポンポンと頭を撫でられて、美波はようやく力を抜く事が出来た。
「あのな、美波。俺達が冬にコザクラ町へ行かないのは、狼でなら行くだけなら行けるけど、荷物が運べないからなんだよ。
荷物が運べるなら狩りで仕留めた獲物の肉を売りに行けるし、町で買い出しも出来るんだよ。
今の美波の話は、俺達の冬の生活を根底から覆すような一大事って事だ。」
イツキさんに言われて、漸く事の重大さに気付いたらしい。
「あっ、そういう事なんですね。私にとっての常識と、この世界の常識が違っていたせいで、お互いに今まで気付かなかったと……」
ここでやっと美波にも理解出来た。
彼等は誇り高い人狼族だけれど、ソリを牽く事を恥だとは思っていないし、むしろこの発見を喜んでいるのだ。
「よし、美波。その犬ゾリとやらをここに描いて見せろ。クロ、ギン、女達に説明して二人くらいここへ呼んでくれ、ハーネスってやつも作らないとな。
大急ぎで作るぞ!犬ゾリ、いや、狼ゾリ?
何でもいいか、とにかく早く試したいんだ。
行ってこい!!」
イツキさんに言われて二人が駆け出す。
その後、美波はイツキさんとミナトさんに問われるままに、ミニホワイトボードに犬ゾリのイラストを描いて見せた。
何度も質問を繰り返し、イツキさんがそれを持って木工工房へ消えると、続けてハーネスの説明も行う。
だいぶあやふやな記憶だが、首が絞まらないようにして走るのを妨げず、体に触れる部分にクッション性を持たせて、痛くないようにしたりしていたはずだ。
何とかイラストを描き上げると、裁縫上手の女性達も大急ぎで作業を始める。
思いがけず大掛かりな事になってしまったようだ。
「あの、ミナトさん。何だかすみませんでした、私がもっと早く気付いていれば、今日の狩りも楽でしたよね。」
申し訳なさそうに言えば、逆に謝られてしまった。
「びっくりさせてすまないな、美波。
皆嬉しくて張り切ってるんだよ。上手くいけば村の生活に革命が起きるぞ!」
いつも冷静なミナトさんの珍しいハイテンションに、改めて皆の期待を感じてしまう美波だった。
上手くいく事を祈ろう、村の皆の為にも…
成功したら、犬ゾリならぬ狼の牽くソリに乗れるかもだし!!
最後の一言は余計である。
色々と台無しだ。
本人は気付いていないが、ユーリに負けず劣らず残念な女である。




