王都・ドラゴンと国王
投稿ちょっと遅くなりました。
エルフ達が治める、この国の中枢王都。
上空から見下ろすと背後には広大な森林地帯、更に奥には急峻な山々が聳え、森の中に点在する湖は日の光を受けて煌めいている。
王都の入口へは、国中に張り巡らされた街道が一つに集約し、穏やかに流れる大河を幾艘もの船が行き交う。
王都を守る城壁は、戦を想定した物々しさとは無縁で、優雅な曲線を描いている。
大門を入れば城下町だ、同じ意匠の建物が放射線状に並び、道は王宮から同心円を描き張り巡らされている。
王宮も町も城壁も、全ての色彩は純白。
中でも王の住まう王宮は、一切の穢れのない白だった。
その王宮の王の私室に、ハクロウ村から戻ったローザの姿があった。
王宮は全て純白の木材で作られており、大きな柱には繋ぎ目は一切見えない。
優美な曲線を描く柱には精緻な蔦の彫刻、壁面にも自然をモチーフにした装飾が所々に施されている。
あくまで控え目な、実に上品なデザインだ。
「陛下、いかがいたしましょう。雪が降る前にハクロウ村へドラゴンを派遣して頂ければ、今年の冬の雪対策は随分楽になるはずです。」
国王の手には美波の作ったレンガとシール、たった今ハクロウ村での視察の報告を受けたところだ。
「そうだな、興味深い。是非とも雪が降る前に設置を終えて、冬に備えたいものだ。
誰に行ってもらうかだが……」
王は出窓の縁に腰掛ける、長身の男性に視線を移す。瑠璃色の瞳に映るのは、ドラゴンの長で王の友人でもあるコクガの人化した姿だ。
身長は二メートルを超えているだろう、厚い胸板と太い腕、腰の位置は高く、全身を被う筋肉は戦うために鍛えられたものだ。
漆黒の短髪に同じく黒い瞳、野性的ではあるが美しいといって良い容貌の中、彼が人でないと知らしめるのは縦に長い瞳孔、黒の中心で金粉が煌めいている。
「当然俺たち夫婦だろう、レオン。
こんな面白そうな事を若い連中に譲れるものか。
二人で行くぞ、ハクロウ村へ。」
テーブルを挟んで王の右側に座っていたコクガの番ソウキは、黒にも見える濃紺の髪を揺らし夫を見詰めている。
真紅の紅をさした唇は笑みの形、サファイアの瞳は抑えきれぬ好奇心に輝いている。
「レオン、私も行くわ。」
国王レオンハルトをレオンと呼ぶこの番のドラゴンは、王がほんの小さな子供の頃から今と同じ姿で、ドラゴン達の長だった。
年齢はもはや、誰にも分からない。
「そう言うと思っていたよ。
ローザ、ハクロウ村へ小鳥を飛ばしてくれ。
レンガとシールを作ってもらわねばな。出発は四日後にするように。ハクロウ村までコクガとソウキなら一日だろう、小鳥が手紙を運んだ二日後に着くようにすれば準備も出来るだろう。」
王の答えにソウキは椅子を立ち、コクガの元へ向かいその腰に手を回す。
「楽しみだわ、コクガ。久し振りに退屈を忘れられそう。」
長身で細身ではあるが、女性的な肉体に儚さとは無縁の意志の強そうな眼差し。
ドラゴンの番は、実に絵になる美男美女である。
手早く手紙を書き上げ、窓から小鳥を飛ばしたローザは改めて三人に告げた。
「では四日後に出発いたしましょう。
今日は、一足先に美波の世界のお菓子を召し上がって下さい。
ここへ来る前に料理長にレシピを渡してきましたので、そろそろ出来上がる頃です。」
「ほう、それは楽しみだ。何が出てくるのかな?」
王もやはり甘党のエルフらしく、新しい味が気になるらしい。ちなみにドラゴンも甘い物は好物である、ついでに大酒のみなので、アルコールを使った大人味スイーツは確実に心を掴むだろう。
「アイスクリームは機材がないので、本日はプリンと琥珀酒漬けの干しぶどうを使ったバターケーキを焼いてもらっています。
ちなみにこのバターケーキ、時間がたってしっとりしたものも美味ですが、焼きたては外側はカリッと内側はフワフワでアツアツ、また格別らしいのです。私も焼きたては未体験なので楽しみです。」
相変わらずのテンションである、写真と共にメニューに載せられそうなコメントだ。
「まぁ、楽しみ。持ち帰ったレシピはお菓子だけなのでしょう?
ハクロウ村へ行けば、肉や魚を使ったメニューも食べられるのよね。
コクガ、飛びきりのワインを持っていきましょうね。」
もはや食べ歩き目的のツアーである。
ローザはツアコンか、苦労する未来は確定らしい。
「そうだな、ソウキ。秘蔵のワインを持っていこう。」
コクガは愛妻を抱き寄せ、旋毛にキスを落とす。
「それで、ローザ。その美波とやらはどんな人間なんだ。この世界の脅威にはならないか。」
一転して厳しい眼差しで、コクガが問う。
「いいえ、コクガ様。美波はとても善良な人間です、この国の役に立ちこそすれ、脅威になる事などあり得ません。
彼女の国も過去に戦争を経験しています、実体験で知らずとも[写真や映像]でその悲惨さを知っています。
現在も他の国では戦争が起きていて、平和を維持するのがどれだけ困難な事か、よく理解しているようです。
己の能力を悪用すれば何が起きるかを把握した上で、人々の役に立ちたいと願っているのです。」
暫くローザの目を見詰めて、コクガは視線を外した。
「そうか、人を見る目のあるお前がそう言うなら安心だな。」
「いずれは王都に招く事もあるだろう、今は二人の目で彼女の本質を見極めてくれ。」
王が告げるが、国のトップの集まりにふさわしい空気はメイドのノックで打ち破られた。
ティータイムの始まりである。
その後、プリンを一人三個ずつ食べ、焼き立てのバターケーキの虜となった四人には威厳など皆無であった……
どうやらドラゴンによる面接の前に、美波はパティシエールとしては合格をもらったらしい。




