家を建てよう
お客様でなく村人となっても、美波の毎日は大きな変化もなく穏やかに過ぎてゆく。
ランプや冷蔵庫を作り、秋祭りに向けてお菓子のレシピを試す。ハクは相変わらずべったりだし、他の子供達とも仲良しだ。
生活の目処が立ち、日々の暮らしも安定してきたので、かねてから考えていた事をギンとリンに相談する事にした。
「そろそろ自分の家を建てて、一人暮らしをしようかと思うんだけど、どうかな?」
「一人暮らし?私達は別にいつまで居てくれても良いのよ。ハクも寂しがるわ。」
「そうだぞ美波、遠慮する事ないぞ。」
二人とも引き留めてくれたが、この家での暮らしに不満がある訳でも、遠慮している訳でもないのだ。
けじめというか、自立した大人として責任を持ちたいという気持ちの方が強い。
自分の家を持つという事は、この先もこの村の一員として生きていくという決意表明の様なものだ。
二人にそんな想いを説明すると、納得してくれた。
「わかったよ、お祖父様に相談して許可をもらおう。但しハクが寂しがるから家の近くにしてくれよ。あと、たまにはハクにお泊まりさせてやってくれ、すっかり美波と一緒に寝るのに慣れてしまっているからな。
食事もだぞ。招待するし、してもらわないと。」
温かいギンの言葉に感謝する、この世界で初めて心を通わせたのはハクだし、ギンとリンもまるで妹の様に接してくれた。
正直、離れて暮らすのはやっぱり寂しいのだ。
「もちろん。しょっ中遊びに来るし、二人もハクもいつだって大歓迎だよ。」
その後、シロガネ様の許可をいただき村人達にも報告を済ませた美波は、ギンとリンの家の近くに自分の家を作る事になった。
ハクに大泣きされた事を除けば、全て順調だ。いつ遊びに来てもいいしハクの事が大好きだと、納得してくれるまで抱っこしてあやし続けた。
何とか涙目のハクが納得してくれたところで、新居のデザインを考える事にする。
村人達は森の木材で家を建ててくれるつもりだったのだが、美波には試してみたいアイデアがあった。
ドームハウスだ。ボールを半分にして地面に伏せたような、アレである。
そこまで大きい物を作った事はなかったが、中に何かを包み込まねばならないという制約を、ドームハウスならばクリア出来ると考えている。
成功すれば村の他の設備にも応用できそうだし、試してみる価値はあるはずだ。
そんな訳で、次の休日に建設する事にした。
そして休日、建築予定地はギン達の家のすぐ隣、村の東側である。
土地の地ならしは村の男達がしてくれた。
「では、始めますね。」
村人達が見守る中、初めての作業を開始する。
集中して頭の中にイメージを描く、白いドーム型、壁には断熱効果を持たせ、防水防カビ効果も付けよう。
大きさは一人暮らしなので直径十メートルもあれば充分だろう、風に飛ばされたりしないよう、壁の下に幾つか杭を作り地面に突き刺すようにして下へ降ろした。続けてドアを作り、窓を作る。
一つ息を吐き力を抜くと、目の前には純白のドームハウスが出現していた。
「できた、かな?」
「すげーな美波。このサイズでも問題なしかよ。」
クロが感心と呆れの混じったような顔で肩を叩く。
「うん、サイズは関係ないみたい。自分で作った外枠の中なら、多分中も壁とか作り付けの棚ならできる気がする。」
最近はあまり驚かなくなっていた村人達を、久しぶりにびっくりさせて美波は笑った。
細部が完成したらお披露目しますね。と約束し、大半の村人はそれぞれの家へ帰っていった。
残ったのはギン、リン、ハク、そしてクロとミチルだ。五人の見守る中、ドアを開けた美波は部屋の内部の仕上げに取り掛かる。
床は靴を脱いで生活するつもりなので、フローリングをイメージして、ダークブラウンのコルク板の様な素材で仕上げた。ついでに床暖房の機能を持たせる。
玄関スペースを一段低くして、靴箱として腰の高さの棚を左右に一つずつ出現させる。
次にロフトを作り、壁に沿わせて階段を作る。ロフトは床面積の半分くらい、ドームハウスは高さがあるので、ロフトでも歩けるくらいの高さは確保できる。ここはベッドルームにするつもりで、クローゼット用に作り付けの棚をつけたスペースを区切り、明かり採りのための天窓も幾つかつける。
一階に目を戻し、リビングとキッチンを仕切る高さ一メートル程の壁を出現させる。
玄関を入って左側の奥をキッチンに、仕切りの向こうに流しとコンロを作り、食器等を置くための作り付けの棚と作業台を、ドームハウスの壁に取りつける。更に冷蔵庫を作り壁際に寄せた。
リビングスペースの壁には腰の高さの棚を一面に作り、玄関を入って右手の奥にはトイレとバスルームを作る事に。それぞれを壁で仕切って気合いを入れる。
バスタブを作るのだ!ルリのお陰でこの村の家にはシャワールームが完備されているが、バスタブは無い。お風呂に浸かりたいという欲求が日々募っていた美波にとって、いわばメインとも言える作業なのだ。力も入るはずである。
バスルームは、壁一面をライトブルーの細かいタイル風にコーティングし、撥水効果と防カビ効果を付けておく。
バスタブも同色同素材で、贅沢に長さ二メートルくらい、半身浴用の段差もつけた。
長方形のシンプルなデザインだ、後は石鹸を置くための棚を作れば完成だ。
元の世界なら色々と問題があるデザインかもしれないが、異世界仕様という事で大丈夫なはずだ。
水回りやコンロは、後でルリに魔方陣を書いてもらい、給水の為の配管や排水の浄化設備も頼むことになっている。
何しろ魔石は自作なので、使いたい放題だ。
「ふぅ、とりあえず大まかな所は完成かな。
ベッドとかテーブルなんかは作ってもらう事になってるし、クッションなんかの小物はその後だね。」
「今更だけど、すごいわね美波。見たことないデザインだけど、凄く素敵だわ。」
ミチルは気に入ってくれたみたいだ、他の大人達も口々に褒めてくれる。目を見開きびっくりして固まっているハクに、しゃがんで目線を合わせて話しかけた。
「ハク、あそこの階段を登った上にベッドを置こうと思うんだけど、一緒に見に行かない?
お泊まりの時、ハクも使うでしょう?」
目一杯しっぽを振りながら、ハクは美波の手を引いてロフトへ上がり、大人達も付いてきた。
「わぁっ!広いねお姉ちゃん、この窓夜はきっとお星さまが見えるよ。綺麗だろうなぁ。」
ぴょんぴょんと跳び跳ねるハクの姿に、思わず笑みがこぼれる。ロフトの縁に手すりを付けて正解だ、あのはしゃぎっぷりでは今にも落ちそうだ。
まぁ、仮に落ちたとしても例のバリアで跳ね返るだけなのだけれど。
とりあえず一段落だ、引っ越しはもう少し先になりそうである。




