国民になります
店を出て町を歩く、約束の時間はもうすぐだ。この町に常駐しているエルフの役人に、異世界転移について説明して、国民になる手続きをしてもらうのだ。
重厚な石造りで、他の店の倍くらいの広さをもつ建物、ここが役場だ。近くの村人達の手続きなどを全て行う行政機関だ。?
シロガネ様の手紙を手に、ミチルと二人扉をくぐる。転移してすぐにシロガネ様が使いを出していたので、大まかな事情は了承済、今日は正式な手続きの為の訪問だ。
「こっちね、行きましょう。」
ミチルに促され窓口へ、役場のトップであるエルフのフェラリーデ様に取りついでもらう。
案内されたのは大きな窓に白いレースのカーテン、濃紺の絨毯の敷かれた上品な部屋だ。
正面のダークブラウンの執務机にいたのは、目を見張る麗人だった。金の長い髪に白い肌、細長い耳にスリムな長身、性別不明のその人は言葉に表しがたい美貌の持ち主だった。
「ようこそ。佐々木美波さん、ミチルさん。
フェラリーデと申します、お掛けください。」
柔らかなテノールに男性だと気付く、淡い紫色の瞳に見つめられ、一瞬現実を忘れる。
「はじめまして、佐々木美波と申します。
シロガネ様からの書状です。」
手紙を手渡し、フェラリーデ様が目を通すのを待つ。
「確かに。大変でしたね美波さん、我が国にようこそ、あなたを国民として受け入れます。
久々の異世界からの客人、我が君もあなたの世界に興味を持っています。この先長い年月のどこかで、ぜひ王都へもお越しください。
今日はハクロウ村の住人として、あなたを登録しますね。」
そう言うと、彼は空中に指で何か文字を書いた。一瞬の発光、残像を残し光の文字は消えた。
「これで終了です。何か質問はありますか。」
「ありがとうございます。今日までに元の世界の知識とスキルを使い、色々な物を作ってきたのですが、持ち込んではまずいものなどはありますか?
自分の中ではこの世界の自然を損なわず、人々の仕事を奪わず、皆が楽しくなったり喜んでくれる物だけを作りたいと考えているのですが。」
フェラリーデ様は優しく微笑んで告げた。
「そこまで考えているなら充分です。あなたの思う通りになさい、我が君もそれを望んでいます。」
ほっとして美波はミチルの手を握る。緊張がようやく解けた。
「ところで美波さん、噂の照明とやらを私にも見せてもらえませんか?シロガネ殿から伺ってはいるのですが、現物を見てみたくて。」
フェラリーデ様は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「もちろんです。自信作はイツキさん達と作ったランプですが、新しいデザインのランプを作ってみますね。」
集中した美波が作り上げたのは、青から白へのグラデーション、水底から水面へ向かう気泡をイメージした、繊細で美しい卓上ランプだった。
「ほぅ、これは美しい。」
思わず、といった感嘆の声が漏れる。
「気に入っていただけると良いのですが。
音声でON・OFFと、光の強さを変えられます。よろしければ使って下さい。」
机の上にランプを置くと、フェラリーデ様はさっそく点灯してみた。淡い光がとても美しい。
「素晴らしい…本当に頂いてもよろしいのですか?」
「もちろんです。ご無礼でなければ後日、王様にも国民として受け入れて頂いたお礼に、何か献上したいと思っています。
ご相談してもよろしいでしょうか。」
「もちろんです。一度ハクロウ村へ伺いますのでその時に、我が君もさぞ喜ばれる事でしょう。」
フェラリーデ様に再会を約束し、役場を後にする。




