(上)
此処は真っ白い砂のように冷たい綿みたいな物が大地を包み込んで、あの、高い空にさえその綿が手を伸ばすかの様に見渡す限りが白い静寂に包まれた何もない、何にもない
冬の世海………
真っ白に包まれたこの場所に僕はたった一人小さな山小屋の中で暮らしている。
深々と降り続ける白い綿は音も発てずに積もっていく。
静かなこの場所で、僕はたった一人ぽっち………
僕の住む山小屋の中で一人、静寂の中の沢山の音を聴く。
耳をそばたたせれば聴こえてくる、外で降り続ける雪が自らの重さに耐えかねてぼたっ、ぼたっと落ちる音それから吹きすさぶ風がビューッービューッと吹き付けて、この小さな山小屋をキーッ、ミシッ、と軋ませる。それから僕の傍の暖炉からはチリチリ、パチパチッと暖かい熱を発散しながら小気味良い音を起てている。
それらの音を聴きながら僕は一人の寂しさでこの山小屋のように胸が軋んでキリキリと痛むんだ。
一人ぽっちになる前はこの静寂が気持ち良くて、静かに満ち足りた日々が過ぎていくのが当たり前だった……
なのに、それなのに、当たり前に過ぎていくのだと思っていた日々は今は遠い、過去とまではいかないものの、あの、暖かい日々を思うと“キリキリ”と痛む。たった3月前まではいつも僕の隣には大好きなおじいちゃんがいて寂しいなんて感じたことなんてなかったのに、おじいちゃんがいなくなってからというもの、外の世界も山小屋の中も色褪せたように錆びれて仕舞った。
僕はベッドの上で布団を被って丸くなり瞼を固く瞑って長い長い夜が過ぎ去るのを耐える。
そしてまた、次の日を向かえるのだ。
朝になれば僕はまた昨日までと同じ事を淡々とこなす。もっと前まではおじいちゃんと一瞬にしていたことも全て一人でこなさなければならない。
僕は山小屋を出て近くの川辺で水をバケツ一杯に掬い入れそれを持って帰り、生活用の水を入れておく壺に継ぎ足し、暖炉に火をくべその上でお湯を沸かしご飯の準備をする。お湯が沸くまでにお湯を少し取って顔を洗う。そうしたら小屋の奥の倉庫から残り少ない食材を取り出しで鍋に材料を入れてそこにお湯を流し入れゆっくり混ぜれば芋粥が出来る。
味気ないご飯を済ませると今度は畑に出て、雪を掻き分け芋を掘り起こす。
冬の間、僕に出来る事はたったこれだけ、これだけしか出来ない……
おじいちゃんみたいに山に出て狩りをする事も、木を切り倒して器用に家具や道具を造り出す事も出来ない、僕は一人では何も出来ず、おじいちゃんの思い出が多いこの小屋に一人で居るのはとても辛くて、昼の暖かい間は外に出て行く事が多くなっていた。外に出て雪原の中を歩けば真っ白い綿に包まれた木々や小さな生き物の姿を垣間見ることができる。それらを見つけると心が少しだけ軽くなる気がする。
でも、やっぱり一人は嫌で、僕は一際拓けた雪原の真ん中に寝そべって、真っ白な真綿を両手一杯に抱き締めて、顔を埋めて……
「ワァ―――ッ、ァ―ッ――………」
おもいっきり叫んで両手の雪から顔を上げて空を見上げる
「ハァ、ハァ、ハァッ………―スンッ……」
空を仰ぎながら息を整える。乾いた喉が張り付き鼻がひくひくして、目が潤む、潤んだ瞳で見上げる空はまるで、海の底から太陽を観ているみたいだ……
高くて、遠い空に散り散りにして太陽に架かる雲が細波のようで、空からはチラチラと煌めく雪が降る。
静かな静かな海の底で僕は空を見つめる
瞳に溜まる水を落として仕舞わないように力一杯開いた瞳に、雪が降る
雪は瞬く間に溶けゆき水が溢れ…
雫が伝う……
水は堰をきったようにつたい流れていった
瞳から伝う雫を止めることが出来ず
ただただ、小さな嗚咽と共に海を見詰め続け
終にその言葉を口にする
「…ッング…―ッ…ッひ、ひと、りは、やだよッ…―ッ…」
“一人は嫌だ”いままで言わなかったその言葉は音になって始めて、とてつもない破壊力で僕の心を押し潰す
「ッ、一人は嫌だッ…くッ、るしいよッ…―ヒグッ」
(そうだ、一人は嫌だ)
心の中で同意すると、なんだか僕が二人いるみたいだ。泣き続ける僕を僕自身が少し離れた所にいて宥めている…そんなきがした。
「…ッ一人は、寂しいよッ―」
(そう、一人は寂しい…寂しいよ……)
また、心の中で同意する。そうするとなんだか少しだけ軽くなった気がするけど、軽くなった分だけ、泪が流れていく。
「…―ッグ一人は…イタイよぅ…」
(…痛い、心がイタイよ、おじいちゃん……)
認めることの出来なかったその言葉を口にしてやっと、寂しかったのだと、痛くて苦しかったのだと
言葉がしっくりとはまった。
「…―ッ、………」 歯を噛みしめて、この辛さを和らげるにはどうすれば良いかをかんがえた。
何でもいい…
何でもいい…
気休めでいいから一人ではないと思いたいんだ……
(……友達、が、欲しいな………)
起き上がり黙々と一心不乱に雪をかき集める。滴り落ちる泪も気には留めず、手の中で雪と一緒になった。
そうして、作り上げたのは大きな雪だるま
僕はそこでやっと泪を拭い、自分の手袋と帽子を雪だるまにあげた。
「……できた…僕の友達…君は……“スマイル”だ。」
不思議と達成感なのか安堵からなのか笑みがこぼれた。




