混沌
「それがお前らの総意か。」
低い低い声で木田が言い、衿香は思わず体を震わせた。
その肩を睦月の手が優しく包む。
「「「「そうです。」」」」
いつの間にか衿香の後ろにずらりと並んだ生徒会メンバーが声を揃えて答えた。
「分かった。責任はとれよ。」
「祐真に言われるまでもないよ。」
「じじじゃあ、写真、撮りましょう!!」
とにかくこの空気から逃れたい一心で衿香が叫ぶ。
「その前に、祐真、衿香ちゃんに謝ってよ。」
「ええ!?まだその話ですか!?もういいです!!」
「よくないよ。そもそも祐真は衿香ちゃんの事、ちびとか、お前とか、挙句の果てに犬扱いしてたんだよ?」
「い、いぬ?」
それは初耳だ。
「そ、そうですね。犬はともかく、ちび扱いは止めてください。」
「……そっち?」
どんなに頑張っても百五十数センチしか伸びなかった身長は、秘かな衿香のコンプレックスでもある。
「ふうん。」
衿香の様子を眺めていた木田が不意に口端を上げた。
な、なに!?この極悪な笑顔は!?
衿香の顔が引きつる。
「そうか。分かったよ。ちび扱いは嫌だったのか。」
すんなりと謝罪の言葉を口にする木田。
目をまん丸にして固まる衿香。
その手が衿香の髪をひと房すくい取る。
滑らかな仕草で木田はその髪にそっと唇をつける。
「悪かったな。えりか。」
「!!!?」
途端に衿香の顔が真っ赤に染まる。
「だだだだれが名前、呼び捨てにしろって、言ってない…!」
「ちょっ!祐真!誰が色目を使えって言ったの!?」
慌てて睦月が衿香の肩を引っぱる。
抵抗する力を失った衿香の体が、睦月の腕の中にすっぽり収まった。
「あ~!!睦月先輩!!僕のえりりんを返してよ!!」
夏目が慌てて衿香の腕を掴む。
そんなに力を入れているように思えないのに、衿香は夏目の腕の中に移動していた。
「僕も参戦!」
楽しげな敦志も加わり、衿香は三人の腕の中をくるくると移動する。
なに、これ、目が、回る。
気持ち、わる。
「いい加減にしろよ。神田さんが目を回してるだろ。」
ようやく争奪戦が終わったと思ったら、衿香は真田の腕に抱きかかえられていた。
「一番ずるいの信也じゃない!?」
睦月たちは文句を言ったが、衿香の青褪めた顔を見て、それ以上手を出そうとはしなかった。
「神田さん、大丈夫?」
「ああ、はい。なんとか。」
くらくらする頭を真田の胸に預け、衿香はなんとか返事をする。
まるでぐるぐる回る洗濯槽の中に放り込まれた気分だ。
なにが一体どうなったのか、よく分からない。
えーと、木田先輩が訳の分からない行動に出て、会長に後ろから引っぱられて、夏目くんが横から何やら言ってきて……。
ん?今の状況って……。
衿香の頭が徐々に回復してくる。
恐る恐る自分が頭をくっつけているモノから離れ、そろりそろりと視線を上げていく。
「ん?」
「!!!!!」
『至近距離でイケメン爽やかビームを受けて、戦士衿香はダメージを受けた。』
衿香の頭の中で訳の分からないナレーションが流れる。
これって、これって、なんか分かんないけど、攻略成功してるの~~~!?
でも、でも、でも、私、無理かも~~~~!!!
失神寸前の衿香は心の中で絶叫した。
「ふふ。神田さんって可愛いね。僕も衿香ちゃんって呼ぼうかな。いい?」
こここ殺す気ですか。
涙目で固まる衿香に気付いていながら、真田がその耳元で優しく囁く。
ひ~。
ぎぶぎぶ。
もうやめて~~~。
衿香が本気で気を失いかけた時、救いの手が彼女に差し伸べられた。
「それくらいにしたら?衿香ちゃん、仕事にならんやろ。」




