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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第二章
9/9

殺人未遂だっけ

「殺人未遂だっけ?」俺はため息混じりに言った。

「ええ、そうですわね。アタクシは自作自演だったのではと思っておりましたわ。あの女に毒を盛ったところで、このアタクシには何の利もございませんもの。と、申しますか、あの田舎娘が死んだところで、どうなるというの?」少女はうんざりした表情をする。

「自作自演ね。毒を盛ったと思われたんだろ?その、聖女とかいう平民の、田舎娘に。そんな事が何で起きたんだ?」

「知りませんわよ。」やれやれという風に少女は首を振りかけて真顔になった。

「でも、何かの目的があったんじゃないのか?実際にその田舎娘は毒で死にかけた。そうだろ?」

「そうですわね。アタクシは、あの田舎娘がアタクシを陥れるために自分で毒を呷ったのではと考えましたわ。でも、実際にはあの田舎娘、アタクシを庇ったと言うではありませんか。白々しい。」少女は拳を固く握る。

「あれ?その話は今聞いたな。そうなのか?庇ったのか、お前を。」俺は少女の顔を覗き込んだ。少女は目を瞬き苦笑いした。

「そうでしたか?まあ、あの田舎娘は聖女だそうですから、そういう振りをしたんでしょうね。でもアタクシの婚約者だった王子は違いました。アタクシがあの田舎娘を害したと思い込み、婚約解消をアタクシに迫りましたの。いいえ、一方的に破棄されましたわ。」

「あー、なんだ、その、舞踏会でか?」俺は立ち上がり机へ向かった。

「は?何故、舞踏会で?そんな訳ありませんわよ。あなた何をおっしゃってるの?」少女はふわりと立ち上がった。

「そっか。そうだよな。お前がそのドレス着てるから、何となくそうかと思ったんだ。」そうだ、断罪イベントだ。そんなものがこの少女に実際に有ったとは限らない。俺は紙を取り出しペンを持った。

「あら、これからフィクションの続きをお書きになるの?」少女は俺の頭上に浮き上がる。

「創作メモかな。」俺が紙にペンを走らせようとしたその時、ノックの音がした。ディルソンだな。


俺がディルソンを部屋に入れると、少女はすっと部屋の壁を通り抜け消えた。

「お。早速続き書いてんのか?」ディルソンは机の上の紙に目を留めた。

「まあな。高位貴族様が俺のこんな作り話に興味持たれたみたいだし。」俺は肩を竦めた。

「はー。お前急に人気者だな。」ディルソンはニヤニヤしていた。

「モノ好きだよね、みんな。何でだよ。おかしいよ。」俺は机の椅子に座った。ディルソンはさっき迄少女が座ってたベッドに座った。

「いや、そりゃだって珍しいだろ?自分で話を書く奴なんて、少なくともこの学園の学生には他にいないんじゃないか?俺には無理だよ、そういうの書くの。」

「そうか?」

「まあ、ガンズ先生は作家だし、本もあるよな。」

「え?ガンズ先生ってそうだっけ?」俺は少し体が冷える気がした。

「何言ってるんだよ。あのバルック・ガンズだぞ。」ディルソンは呆れた顔をした。

「え?あ?あれ?バルック・ガンズって、あの?」バルック・ガンズはフラリアーツの現代文学の第一人者として知られていた。俺は今更ガンズ先生の凄さに慄いた。

「お前なあ、一番最初にガンズ先生自己紹介してただろ。まあ先生は自分の著作の話は全然してなかったけど。普通判るぞ。お前ヘンなところがヌケてるな。」ディルソンはクスクス笑った。

「そ、そうだよな。うん。流石、王立学園だよな。」俺は目眩を覚えた。

「だよなあ。ガンズ先生、ちっとも有名人って雰囲気ないし、すごく気さくだから油断するよな。」ディルソンは俺の様子を見て愉快そうな顔をした。


ディルソンと食堂でディナー後、俺は部屋に戻った。部屋に少女がいるかと思った俺は、誰もいない室内が少し寂しかった。少女は普段はどこにいるんだろう?墓場?まさかな。

俺は聖女の事を思った。あの少女の言う田舎娘のことじゃない。俺の記憶にある元農夫の娘だ。天啓を受け、聖女となり、しかし最終的には火刑で死んだ聖女。名前は…何だったかな?まあいい。あの少女の言う聖女とは全く違うだろう。俺の記憶にある火刑で死んだ聖女はかなり有名だった。でもフラリアーツには、いや、ウーディ教にはあんなに有名な聖女はいない筈だ。


俺は机に向かい、紙にペンを走らせた。




アタクシを悪役令嬢とお呼びになる方々がいる。それを耳にしたのはいつ頃の事でしたでしょうか?アタクシには不可解で御座いました。アタクシが下位貴族のご令嬢や平民の娘をいじめているとか?何の話で御座いましょう?そもそもアタクシにはそのようなご令嬢や娘をいじめる理も利も御座いません。娯楽?娯楽でしたらアタクシ十分足りておりますわ。この学園にアタクシがおりますのは、学問はまあ、そうですわね、当然と致しまして、人的交流が主な目的で御座いますのよ?不当に身分が下の者をいじめてどうなりますの?アタクシが態々野に下ってまでする事がいじめ?おかしいとはお思いになりませんの?それに、いじめているというその具体的な内容が聞こえて来ないのが何故かとは、お考えにならないのですね?

よろしいかしら?先ずアタクシが下位の貴族や平民の方々に会うだけでも大変ですのよ?滅多にありませんが、アタクシに侍従が付かない場合は確かに御座います。しかし、必ず護衛の騎士は最低一人は付きますわ。アタクシ、要人ですのよ。今は王太子殿下の婚約者という立場も御座います。そう易々と、そうですわね、思いつきで行動なんて無理ですの。ですから、仮に身分が下の者をいじめるとすれば、アタクシ自身が直接いじめるのではなく、どなたかにいじめを依頼することになりますわ。そんな手間をかけてまで身分が下の者をアタクシがいじめるとおっしゃるのでしたら、そうする事で何かの利がアタクシに有ると、アタクシを悪役令嬢とお呼びになる方々は考えてらっしゃるのかしら?寧ろ利が有るのはアタクシを悪役令嬢とお呼びになる方々の方ではないかしら?




「そうよ、そうなのよ!」俺の頭上で少女の声がする。

「あ、来たんだ。」俺は首を上げ少女を見た。

「来ましたわよ。なるほど、悪役令嬢という言葉はそのように使うのですね。」少女は俺の作り話をじっと見ていた。

「うん、まあ。どう?」

「よろしいんではありませんか?事実、淑女は体面を重んじますわ。それに、社交が大事ですのに、アタクシに平民をいじめている暇などある訳が御座いません。」少女は真面目な顔だった。

「でも噂を立てられた。そうだよね?」

「そこが不可解なのです。あり得なさ過ぎるのです。あの田舎娘が聖女を自称していたのと関係があるのでしょうけど、もうアタクシには解りません。あなた、何か思い当たること御座いませんの?」

「今はまだ、何も無いね。ま、これは俺の作り話だから、何とでも。」俺は肩を竦め、微笑んだ。

「そうでした。これはあなたのフィクションでしたわ。どんな理由をお書きになるのか、期待してますわ。」少女のため息混じりの微笑みが俺の隣に降りてきた。

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