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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第二章
8/8

ランチタイム

ランチタイムだ。俺はディルソンとラシャールと食堂へ向かった。アラウは約束があると言って俺たちとは別方向へ歩いて行った。ん?あれは高位貴族用の部屋のある方向じゃないか?その部屋は二階にあるが、アラウはやはり階段を上って行った。あー、招待されたな、あれは。


俺たちが食事を終えて食堂で駄弁っていると、マガレータがやって来た。

「ベニーモ様、探しましたよ。」マガレータは俺の目の前に座った。俺は悪い予感がした。

「何で探してたんだ?」俺は自分でも顔が赤くなるのが判った。ディルソンとラシャールの視線が痛い。

「決まってます。さっきガンズ先生と擦れ違った時に聞きました。あの、小説の出だしが出来たんでしょ?」マガレータの言葉に俺は頭を抱えた。


学園は身分でクラスが三つに分かれていた。マガレータは平民クラスだ。俺は伯爵家以下の爵位のクラスだし、侯爵家以上のクラスには王家筋の学生もいる。学生全員が寮生活しているが、それも性別と身分で分かれてはいる。しかし、そもそもこの学園は王立の名門だ。学生全体の数自体が少ない狭い世界だ。俺は学生同士の交流にそんなに積極的じゃないが、それでもほんの数日で俺が何かを書いているのが学園内に急速に広まりつつある。どれだけ話題に飢えてるんだ?これが昔ならスマホで俺の書いた紙を撮影してSNSで拡散って感じだな。いや、違う。昔じゃない。この世界にはまだスマホはもちろん写真技術もまだ開発されてない。俺のあの記憶はどこか別の、日本という場所での記憶だ。


「へえー。凄いです。このアリアーナの、その、家名はちょっとどうかと思いますし、豪爵っていう爵位も何だか、その…。あー、面白いですね。」マガレータは俺の作り話を読み終わり、俺に紙を返してきた。

「あー、うん、ありがとう。」俺はマガレータの顔をチラ見した。目を輝かせてニコニコしてる。

「あの。この悪役令嬢って何ですか?これもベニーモ様のアイデア?独特ですよね。なんだかちょっとゾクゾクします。どんな悪事をするんですか?」マガレータは俺の顔を真っ直ぐ見ていた。ディルソンとラシャールがニヤついてるのが判る。うー、逃げたい。

「どんな悪事かは、これから考えるよ。」俺はアラウが食堂に入ってくるのを見た。悪い予感がする。物凄く悪い予感が。


「あら、まだ食堂にいたのね、あなたたち。今日はマガレータも一緒なのね。」アラウはイタズラっぽい目をして言った。

「アラウ様、私、今ベニーモ様の小説を読ませていただきましたの。」マガレータは弾かれたように椅子から立ち上がりアラウに頭を下げた。

「いやあね、そんな礼をしなくてもいいわよ。マガレータ、それ意識し過ぎ。」アラウは肩を竦めた。「それより、もうすぐ次の授業があるわよ。」

「あ、そうでした。失礼します。」マガレータはまた一礼をして食堂を出て行った。


「アラウ。お前、今日別室でランチしてたのか?」ラシャールが立ち上がりながら言った。

「ええ。招待されたの。エンリクって知ってる?あの、侯爵家の。」アラウは軽くため息を吐いた。エンリク?あの遊び人って噂のある?ディルソンがあからさまに口を開けて眉を顰めてる。

「は?エンリクって、アラウ、お前あいつがどんな男か知ってるのか?」ディルソンが立ち上がる。

「ディルソン。ねえ、一応エンリク様は侯爵家よ。あいつ呼ばわりはちょっとどうかしら?」アラウは明らかにディルソンの反応を面白がっていた。

「どうでもいいよ。まさか引っ掛けられたのか?」ディルソンは大真面目な顔をした。

「引っ掛けるって、ディルソン。あの方はそんな感じじゃないわ。ま、あれだけの美貌なら、そんな噂を立てられちゃうわよねえ。まあノリが軽いのは確かにそうね。」アラウはクスクス笑い「そんな方が、あのグレイシア様と並ぶと、そりゃもうね、神々しいって言い過ぎかな?」と食堂の出口へ歩き始めた。

「神々しい?」ラシャールが目を瞬く。「しかもグレイシア様とも一緒だったのか、アラウ。」

「ええ、まあ偶々だったけど、一緒に食事したわよ。」アラウは得意げに顔を反らせた。「それでね、ベニーモ。実は明日のランチにあなたもご招待したいって。」

は?はあああ?俺は正直高位貴族は苦手だった。なのに明日は別室送り?断れないよなあ。俺が呆気に取られて何も言えないでいるとアラウは更に爆弾を俺に落とした。

「豪爵令嬢の話に興味津々よ、グレイシア様。」


授業が終わり、夕方部屋に帰った俺は、ベッドに寝転び自分の書いた作り話を読み直していた。あの幽霊の少女の話をどこまで盛り込むべきなのか。いや、そもそも俺は何であの少女の話を書こうと思いついたのか。気づくと少女はベッドの脇に座っていた。

「今日も来るの早いな。」俺は体を起こし、少女の横に座った。

「そうですわね。あなた、ディナーの時間ではないのですか?」少女はふわりと笑った。

「ディナーは、まあ、後で行くよ。」俺は少女に聞きたいことが山ほどあった。けれど何から聞いて良いのか思いつかなかった。

「その、フィクションの続きはどうなさるの?」少女は俺の手元の紙を見た。

「書くよ、もちろん。でもなあ。なんかこの学園の学生って娯楽が無いのかな?俺なんかの書くこんな話に興味持たれるって、ヘンだよ。図書館に行けば面白そうな話が書かれた本がいっぱいありそうなのに。」俺はまたベッドに寝転がった。

「ねえ、ベニーモ。興味を持たれることは良いことですわ。少なくとも忘れ去られるよりは、ずっと、ええ、ずっとずっと、良いことですわ。」

「そうかな?でも、俺の話は…きっと忘れ去られる側だよ。みんな一時の興味だけで面白がってるだけなんだ。」

「そうかも知れませんね。でも、アタクシは…そうですわね、寂しいですわ。随分と長い間、アタクシを見られる人物は現れませんでしたから。」少女の視線は手元に落ちる。

「なあ。お前、他の同じような幽霊は見えないのか?」天井が俺の視線の先にあった。「死ぬと天に昇るんだろ?何でお前はまだここにいるんだ?」

「ウーディ教ではそう教えますわね。アタクシもそうだと思ってましたわ。」少女は寝転ぶ俺を見る。

「違うのか?」俺は少し体を起こした。

「アタクシには判りません。何しろ、アタクシには他の幽霊と会ったことは一度もありませんもの。多分、アタクシ以外の幽霊は皆、天に昇ったのですわ。それなら、何故、アタクシはずっと…。」少女はベッドから浮き上がり、俺の真上へ移動した。「アタクシが罪人だから?何故?あれは冤罪なのに?」少女の顔は憤怒に染まる。

「うん、それだよ。俺、まだちゃんと詳しくその話聞いてないよ。」俺が完全に体を起こすと、俺の頭が少女の顔を掠めた。

「あなた、急にそんな体を起こさないでくださいませ。びっくりしましたわ。」少女は俺の隣にまた収まった。

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