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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第五章
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そんな時

そんな時ですわ。アタクシの元に正体不明の書簡が届いたのです。無論、アタクシが直接受け取ったのではありませんわ。朝の支度をしていた侍従の一人が学園の通路に落ちていたそれを見つけたのです。アタクシの名前がその封筒に書いてありましたの。けれども差出人の名は記されておりません。怪し過ぎますわ。ですから、先ず学園長自らがその書簡の内容を確認したと聞きましたわ。その内容が聞いて呆れます。アタクシがあのミリアに敵意を持ち排除しようと画策しているというのです。

そうですわね。排除とまではアタクシ考えてはおりませんでしたけど、不審には思っておりますわ。ミリアに関して判らない事が多過ぎるんですもの。しかしながら、ミリアを学園に迎え入れたのは王太子殿下ご自身です。ミリア排除の決定権は、この時点で王家にあります。アタクシの一存ではミリアを排除など無理でございます。それにアタクシ、敵意を持つほどミリアの事を知りませんわ。アタクシ、これでも分は弁えておりますの。

アタクシがミリアの情報から遠ざけられていたから?だからアタクシがミリアに敵意を?ミリアは正式に認定された聖女でもありませんわ。そもそも聖女認定など、教会の本部が許す訳がございません。アタクシにとってはミリアは正体不明の平民の女でしかありませんわ。ミリアの顔すら見た事ないのですよ?そんな女に敵意?アタクシ、そこまで愚かではございません。




「おおー。これって怪文書だよな。」ディルソンは俺の作り話の続きを読み終わった。ラシャールはその横で難しい顔をしている。俺の部屋へ朝やって来た二人は、俺のベッドに座って原稿をじっと見ていた。

「そうだね。ちょっと陰謀っぽいだろ?」俺は椅子に座ってそんな二人を眺めていた。

「つまり、貴族の誰かが裏で動いてるって事なんだな?」ラシャールは原稿から顔を上げ、ニヤリとした。

「え?どうして?」ディルソンはラシャールの顔を見た。

「いつの時代かはハッキリしてないけど、こういうのって平民には無理だよ。先ず、字が書けないよ。この学園にいる平民の学生はエリート中のエリートだって、忘れたか?」ラシャールはやれやれという風に肩を竦めた。

「あ、そうかあ。今でも文字読めない平民だらけだもんなあ。下町の店の看板なんて未だに絵しか描いてないよな。」ディルソンは俺に原稿を返して来た。

「だろ?ベニーモ、この怪文書は貴族が書いたって設定だろ?」ラシャールはニコニコしていた。

「そうだよ。そもそもこの話の学園には貴族しかいない設定だよ。舞台はルミナール・フィディレテ学園じゃないから。」俺はそんなラシャールの表情が可笑しかった。ディルソンは目を逸らせた。

「あ。そうか、そうだった。」ラシャールはベッドから立ち上がった。朝食タイムだ。


午前中の一つ目の授業はガンズ先生だ。授業が終わった後、案の定ガンズ先生は俺のところへやって来た。教室中の視線が俺に集まるのが判る。俺は平静を保とうとした。俺の隣のアラウは俺を肘でつついた。

「ね、持って来てるでしょ?ガンズ先生も楽しみにしてるんじゃない?」

「持って来てるよ。あーもう、何だよ、この雰囲気。あ、先生、その、先日は…。」そう俺が言いかけるとガンズ先生はニヤニヤしていた。

「うむ。サンドリーニ先生から聞いてるよな、ベニーモ。同じ場所、同じ時間だ。」ガンズ先生はウィンクした。ガンズ先生ってこんな感じだっけ?

「ベニーモ、お前…。」ディルソンもニヤニヤしていた。

「それより続き見せてよ、ベニーモ。」アラウはまた俺を肘でつついた。




その後、アタクシ宛てらしき書簡がまた学園内で見つかりましたの。今度もやはり学園長が内容を先ず確認し、アタクシに報告が届きましたわ。そこには王太子殿下がミリアと密会していると書かれておりました。密会?有り得ませんわ。アタクシがそうであるように、いいえ、アタクシ以上に王太子殿下にそんな自由は御座いませんわ。厳重な監視下にあると言っても差し支えない程ですの。仮に密会が事実だとして、王太子殿下がミリアと密会する意味は何ですの?ミリアが王太子殿下が殺害されるという予言したから?だとしても、密会する必要がどこにあるというの?それ知らせる書簡をアタクシ宛てにするのは、どういう意図がありますの?まさか、アタクシを嫉妬させようとしていますの?浅はかですこと。王族の婚約を何だと思ってらっしゃるのかしら?




「はっはっは。なるほど。」ガンズ先生は俺を満面の笑顔で見て「ま、詳しくは後でな。」と言うと教室を出て行った。アラウはため息を漏らしていた。

「何?バイオレンスが無いから面白く無いって?」俺はそんなアラウを見て笑いを噛み殺した。

「はあ?バイオレンスは、まあ、ある方が…て、そうじゃなくてえ、もう。」アラウは苦笑いしながら首を振る。

「あれだろ、話があんまり進んで無いからだろ?」ディルソンが頷く。

「そうよ!この…えーと、豪爵令嬢だっけ?この女、いつ悪役令嬢になるのよ?」アラウはまたため息を吐いた。

「この女じゃなくて、アリアーナだよ。」俺もため息を吐いた。「確かに、まだ悪役令嬢にはならないな。今はその準備段階。」俺がそう言うとアラウは不満そうに頬を膨らませた。それを見たディルソンの頬は微かに赤くなる。

「準備長く無い?もっと、こう、ストレートにミリアとバチバチさせなさいよ。」アラウは俺が原稿をカバンにしまうのを見ながら、また俺を肘でつついた。


昼食後、ディルソンとラシャールと俺は食堂でいつものように駄弁っていた。そこへマガレータがやって来て、早速俺の作り話の続きをせがんだ。

「なるほどなるほど。怪文書が物語の推進力になるんですね、ベニーモ様。」マガレータは話を読み終わったと思ったら、また最初から読み始めた。

「いや、そんなに熱心に読まなくても…。」俺はその様子に何となく怖気付いた。

「この、怪文書を出した貴族って…私の勘だと王太子殿下その人では?」マガレータは真顔で言った。いや、ちょっと待って。何でそうなるの?傍にいたラシャールが吹き出したじゃないか。

「ねえ、マガレータ。王太子殿下にそんな事はできないよ。ベニーモも書いてる通り、監視下にあるんだよ、王太子殿下は。それを書けたとしても夜中だろうし、その夜中に書簡をさり気なく学園の通路に置こうとしても、絶対警備の騎士にみつかっちゃう可能性の方が高いよ。」ラシャールはそう言って腕を組んだ。

「そういう事じゃ無いです、ラシャール様。もちろん書簡を直接は王太子殿下は書いたりしていないでしょう。もっと違う目的ですよ、これは。あ、ごめんなさい、ベニーモ様。こんなのは…その…。」マガレータは突然何かに気づいたように口に手を当て、俺に頭を下げた。

「ええ?いや、面白い考察だよ。俺には思いつけない。良いヒントになるよ。」俺がマガレータの顔見ると、マガレータは真っ赤になっていた。ディルソンとラシャールがそれを見てニヤニヤするのは、定番の流れになるかもしれない。そんな事を俺は思っていた。

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