2話:最初で最後の休日
なんの変哲もない路地裏。
ゴミ箱が倒れ、散乱するゴミ。申し訳程度に差し込む街灯。そんな路地裏に2人の少年が対峙する。
「魔術師って何言ってんだ?」
作見は怪しそうに見つめながら言う。
「まぁそうなるだろう……」
海里は呆れた様子言い、その表情は疲れていそうに見える。
暗くて見えにくいが目の下のクマが少し見える程度には黒かった。
そんな海里は息を吐くように言った。
「こっちは名乗ったんだ。君の名前を言うべきなんじゃないか?」
「あーすいません。柏木作見です。それで魔術師ってどういうことすか?」
作見は一礼して謝まり、名を名乗る。
「はぁ〜さっき、自分が自分じゃない感覚にならなかったか?」
海里はめんどくさそうにため息をついて、聞く。
「あーなりましたね」
自分が自分でないと言う感覚とは、己の視界に自分がいると言うことだ。
まるで体から魂だけが弾き出されたかのように。
「一言で言うと――作見、君は乗っ取られかけていた」
「えっ!? そんなことって」
「ないと思うかもしれないが、そんな体を乗っ取ってくる奴はこの世界にうじゃうじゃいる。それと戦ってるのが魔術師だ」
「はぁ〜〜?」
海里がざっと説明してくれた内容についていけず、納得したように作見は返す。
「とりあえず家まで送ろう」
「あぁ、はい」
作間はそう言って、落とした弁当を拾って海里と共に家に向かう。
その道中会話はなかった。
作見は何度も話しかけようとしたが、声が出ることはない。それは海里から滲み出る話しかけるな、というオーラに押されたからだ。
玄関まで着いたところで海里は言う。
「朝方迎えにくる」
「へ?」
作見は咄嗟にそうとしか返せず、海里はすぐに飛んでいってしまった。
(はあ〜なんかいろいろあったな)
そう心の中で呟きながら袋から弁当を取り出す。
布団の上に座って割り箸を割り、掻き込むように弁当を食べる。
食べ終わり、弁当のゴミをゴミ箱に放り投げて電気を消し、布団に横たわって暗闇の部屋の中で見えない天井を見つめていた。
◇
朝が来る。
カーテンから陽の光が差し込み、名前の知らない鳥の鳴き声が聞こえる。最も耳障りなのは始発の電車が通る音だ。
アパートの裏手には線路があり、踏切の遮断機が降りる甲高い音、電車が通る音、これらが朝を知らせてくれる。
そんな多くの音から始まる1日だが、今日は1つ多かった。
午前6時過ぎ、家のチャイムが鳴る。
「こんな時間に誰だよ……」
作見は布団に寝ころびながら呟く。
チャイムは立て続けになり続け、止む気配はない。
立ち上がって、目をこすりながらドアを開ける。
ドアの先には、昨晩に出会った海里が立っていた。
「なんすか?」
目を細めながら作見は聞く。
頭から足元まで視線を送り、昨晩と格好が変わっていないことに気づく。
「朝方迎えに来るって言っただろ」
海里は表情ひとつ変えずにそう言うが、その声からは疲労を感じる。
「また会うのはいいすけど、なんで朝?」
「帰るついでに拾いにきただけだ」
「帰るついで?」
「そう。話があるから、ついてこい」
まだ寝たい気もするが、昼寝をしていたせいか、目は冴えていた。
幸い今日と明日は学校が休みである。暇な作見は海里についていくことにする。
これといった服を持っていない作見は制服を着て海里と歩き出す。
昨晩と同じで会話はない。
だが、前とは違って話しかけるなというよりは疲れている様子だった。
歩いているとだんだんどこに向かっているかわかる。
海里が足を止めた場所は東院高校だった。
「今日は学校休みですよ?」
ここは話すべきだと思い、作見は言う。
「分かってるよ。今から、学校の裏の山を登る」
「まじすか」
「まじ」
こうして二人は裏山を登り始める。
この山は人が登ることを想定していないため、道が整備されていない。
足場が非常に悪く、作見はスリッパで来なくて心底ほっとしていた。
新学期シーズンということもあり、満開の桜を見るには最適な場所ともいえるが、普通はこんな山に登る人はいないだろう。
そして目線の先に見えてくる建物を前にして、作見は絶句する。
「なんで……こんなとこに家があるんだよ!?」
目の前に現れたのは、家というより、旅館に近い。周辺の木は伐採され、ポツンと一軒だけ建っている。
作見は大声を出して驚き、反響する。
海里は建物のドアを横にひいて開ける。
「入ってくれ」
海里はそう言って中に入る。
作見も後に続くが、全てが信じられず、警戒していた。
広々とした玄関で靴を脱いでいると奥から声がする。
「海里帰ってきたかー?」
その声は、靴を脱いで廊下の左から歩いてきた少年のものだった。
海里と同じでスーツ姿だったのだろうが上着を脱いで白いカッターシャツが目立つ。
その短い茶髪の少年は、海里に話しかけて、目線を作見に送る。
「なぁ、海里――その男の子どうしたんだ?」
「……新入り」
海里は、ボソッと言う。
「おぉ! まじか! それはありがてぇ!」
海里の言葉にテンションを上げて茶髪の少年は喜ぶ。
その光景を見ていた作見は頭を傾げて疑問に思う。
少年は作間の前に立って話す。
「俺は、新石司だ。よろしく」
「柏木作見です?」
疑問系になって名乗りながら、握手を交わす。
「立ち話もなんだ。朝飯食いながら話そう」
司はそう言って、海里と廊下を歩き出す。
作見も後を追って歩くと、いい匂いがしてくる。
海里と司は右側に現れた襖を開けて、中に入っていく。
そこにはキッチンがあり、食卓を囲む長方形のテーブルがあった。
作見も中に入ると、キッチンで料理をしている一人の少女が目に映る。
「あの子……どこかで……」
後ろ姿を見た作見は脳内で呟く。
その少女がご飯を装ってテーブルに並べる際に振り向き、作見と目が合う。
「あっ!」
驚いた表情で作見は思い出したように声を上げる。
そこにいたのは、同じクラスであり、前の席の桜花言美その人だった。




