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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第一部 魔法編 プロローグ
1/56

1話:500年後の邂逅

 ――この本を読むあなたへ。


 人の行動の要因とは何だと思う?


 環境や心理、または個人的な要因があるだろう。


 あなたがもし、心の中で好奇心と答えたのなら――今すぐ読むのをやめて本を閉じなさい。


 あなたはきっと抜け出せなくなるから。   


 ユグナ・クレイドより――


                      ◇

 家の図書室に1人、同じ本を毎日読みに来るフキはこれしかすることがなかった。


 他の家と比べてもなかなかの数の本を有しているのにも関わらず、ある一冊の本だけを耽読している。


 その本には魔術師について書かれている。


 室内にある机に座り、ページを捲る音だけが静寂に包まれる室内に響く。

 

 今まで何に対しても興味を持たなかったフキは、生まれて初めて”知りたい”という感情に陥る。

 

 最早日課となり、毎日考察しているのだ。


 その時、勢いよく図書室のドアが開かれる。


 「何をしている!!」

 聞き飽きた父の怒鳴り声が今日も耳に入る。


 俺は構わず読書を続ける。


 「もう何度も注意したはずだ!! 魔術師に興味を持つのはやめろ!」


 父は鬼の形相で起こっている様子だったが、その怒鳴り声からは若干焦りを感じた。


 フキは本を置いてため息を吐いて即答する。


 「嫌だ」


 これまで楽しいことがなかった人生に初めて色がついた気がした。そんな魔術師に惹かれたんだ。


 それを手放すなんてことは俺には考えられなかった。


 父は目を細め、拳を強く握りながら、俺を見下す。


 「……わかった。お前を境の山脈に追放する」

 そう言い放った瞬間、父の側近達が、図書室に入り、俺を捕まえる。


 抵抗する気はなかった。何度も忠告を無視したから、そろそろ何かしてくるとも思っていた。


 「連れていけ」

 父は側近にそう告げる。


 そして、フキは魔獣が生息する境の山脈に放り投げられることになる。


 抵抗しなかったのは、この過酷な山脈での生活に耐え、父を見返す気でいたからだ。


 でもまあ、この世界の人は魔術師を嫌っている。これだけ魔術師に興味を持っているのは俺くらいかもしれない。


 魔術師。

 この世界の禁忌とされる存在であり、500年前に実在し、魔法の頂点を極めた5人の英雄、エレメントマスターをたった1人で壊滅させた存在でもある。


 まぁ、まずは山脈での生活に慣れよう。


 密生した木々が広がり、日中でも薄暗い。中に進むと冷たい風が通り、フキの黒い髪を揺らす。


 歩いていると開けた場所に出る。その中心には一本の立派な木が生えていた。

 

 「ここを拠点にするか……」


 右手で撫でるように気に触れながらフキは呟く。


 すると後ろからガサガサと音が聞こえてくる。


 振り向くとそこには、鋭い牙を持った四足歩行型の魔獣がフキを凝視していた。


 「あれが魔獣ってやつか」

 本で何となく知っていたが、実際に見るのは初めてだった。


 どうする?逃げるか?いや、ここでの生活に耐えるって決めはずだろ。


 こんなやつくらい倒せなきゃなんのために決心したかわからない。フキは額に汗を浮かべながら両手に風の魔法を纏う。


 魔獣は一目散に飛びかかり、牙を向ける。


 両手を魔獣に向けたフキは飛びかかった瞬間に風を放ち、魔獣は風の渦に飲み込まれて後ろの木に打ちのめされた。


 「倒せたか?」

 

 魔獣は動かない。恐る恐るフキは近づいて確認する。


 魔獣は頭を強く打ち絶命していた。


 その光景を見たフキは安堵と不快感が込み上げてくる。


 初めて殺生をしたフキにとっては言葉にし難い体験だった。


 しかし、そのような考えではこの山脈での生活を耐え凌ぐことはできない。


 フキは大きく深呼吸をして、その覚悟を受け入れた。


 幸い近くに川がある。水分に困ることはない。問題は食糧である。拠点に着くまでに木々を見ていたが、実がなっている様子はなかった。


 そしてフキは渋い顔で倒れる魔獣を見下ろす。


 「食べれるかな?」


 もうすぐ日が沈む。それまでに食料を確保したいフキにとって、もう選択肢はなかった。


 その場で座り、両手を魔獣に当てながら風を放出し、毛を剥いでいく。


 毛を処理し終わった頃には、暗くなり始めており、フキは急いで火を起こした。


 風の魔法で魔獣をバラしていき、焼いていく。


 「こんなけ焼けば流石に食えるよな」

 慎重になりながら木の棒に突き刺した魔獣の肉を一口運ぶ。


 「おぇぇぇっ!!!」

 酷い味だ。硬いし、バサバサする何かが口内を駆け巡る。


 すると気づく。ひっくり返すと焦げた毛が大量についていた。


 真顔になりながらも、毛の処理したじゃんと心の中で愚痴をこぼす。


 味はきっと毛のせいだと思い、毛を払ってもう一口食べる。


 さっきほどの強烈な味はしない。旨くもないが食べれないほどではない。


 「これなら最低限の食糧にはなるか...」


 フキの山脈での生活が本格的にスタートする。

 

          ◇

 最初の一週間は生き延びるだけで精一杯だったが、三か月も経つ頃には、魔獣の動きが読めるようになり、毛を処理するのも上手になっていた。


 「もうすぐ三ヶ月経つってのに迎えがくる気配がしない……」


 一ヶ月もすれば心配になって迎えにくると思っていたフキは、捨てられたのかと疑問に思う。


 そこまで魔術師について触れてほしくないのか。


 もうフキにはわからない。


 「寝よう」


 拠点の木の太い枝に腰掛け、目を瞑る。


 眠りに入って数時間が経ったその時――ドォン、と大きな音が鳴る。


 フキは慌てて目を覚まし、周囲を確認する。


 「こいつか……」


 フキのいる木の下に3m程の大きな魔獣が木を押し倒そうとしていた。


 その音に釣られて四足歩行型の魔獣が大量に押し寄せてくる。


 「クソ……ありかよこんなの」


 小さく文句を言いながらフキは風魔法で飛行してその場を離れる。

 

 だが、四足歩行型の魔獣は追ってくる。


 「逃げ切るのは無理そうだな……」


 しかし、木を揺らしていた魔獣は追ってきていない。


 フキは空中に留まり、四足歩行型の魔獣はフキの真下に密集しながら見上げている。


 両手を下に向けて魔力を集中させ、フキは全力で風を地面に放つ。


 竜巻のように荒れ狂い魔獣達は切り刻まれ、周囲の木々も全て吹き飛ぶほどの威力だった。

 

 魔法によって月明かりが綺麗に照らす空間が出来上がり、魔獣の姿は見当たらない。


 地面に降り立ったフキは、疲労が一気に全身に回る。


 「何とか倒せたか」


 息を吐くようにつぶやいて、その場で座り込む。


 すると、先ほど木を揺らしていたでかい魔獣が目の前に飛び降りてきた。


 「なっ!?」

 フキは大きく目を開けて魔獣を見上げる。


 「……振り切れて、なかったのか…」

 内心そう思い、フキは小さく絶望する。


 魔獣に見下ろされ、心拍がだんだん早くなり、息切れを始める。


 俺は――死ぬのか。


 「どうして……こうなった。ただ……知りたかっただけなのに」


 魔獣は拳を握り、フキの顔面目掛けて振りかぶる。


 その瞬間フキは目を瞑り、自分の運命を悟った。


 その時だった。


 別の大型魔獣がものすごい勢いで吹っ飛んでくる。


 それが目の前の魔獣に激突し、爆散するようにバラバラになった。


 「――な、んだ?」

 目の前の光景が理解できず、フキは唖然としながら声を漏らす。


 「あれぇ〜この辺だと思ったんだけどな〜」

 右奥から1人の少年が軽口を言いながら姿を現す。


 全身黒い服を纏い、淡いクリーム色の髪をした少年はこう言った。


 「おっ! やっと見つけた! さっきの竜巻は君がやったのか!?」


 少年は笑みを浮かべながらフキに問う。


 「君は――何者なんだ?」


 こんな山脈の奥深くに人がいるはずがない。フキは警戒するが、その少年になぜか目を奪われていた。


 「俺は西早星一(にしばやせいいち)()()()だ!!」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

良ければ応援していただけると嬉しいです!!

時間は未定ですが毎日投稿します!

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