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【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第五章:未来キャンバスと、素顔の肖像画(ポートレート)

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第87話:墨汁の髪と、震えるファンミーティング

適当な答えをさせて貰える雰囲気ではなかった。


『私は大丈夫です。人を待たせているのでしょう?

私の用件は済みました。もう結構です』


陽菜と横丁デートしたあの日の岩瀬さんを思い出す。

偶然、壁ドンしてしまって、小さな男の子に見つかってから、早く行けと促してくれた。

あの時と同じ、有無を言わさない、ぴしゃりとした口調。


俺は居ずまいを正した。


「……そうだよ。岩瀬さんの言う通り、俺はTorchだ。これで満足かい?」


「やはり……そうでしたか」 


岩瀬さんがうつむく。

テーブルの上に並べられた、俺の作品をプリントアウトした紙を手に取る。

嬉しそうな、安心したような表情で俺を見据える。


「美術室で見たあなたの絵……。

そして、あの横丁であなたが施した塗装の、筆の運び、陰影の付け方……」


パサリ、パサリと手に取っては丁寧に並べ直す。


「私が観察……いえ、あえて簡単な言葉に置き換えるなら……」


俺のアカウント情報が印刷された紙を手に取る。


視線が重なった。

まっすぐに俺を見つめる。


「私の『大好きな絵師さん』のものと……そっくりなのです」


「え……?」


身近なところに、俺のファンがいた。

想定外の言葉と事実に、頭が真っ白になる。


「だから……だから、こんな形で確認する方法しか、思い浮かびませんでした……

申し訳ありませんでした」


図書委員が深々と頭を下げる。

見たことのない、岩瀬さんの行動に頭がバグりそうだ。


「でも……これだけは、誉田くんに伝えたかったのです……

あなたの作品が、大好きです」


下げた頭が震え、墨汁のような漆黒の髪が小刻みに揺れる。


「そして……あなたが、唯一無二の才能を持っている、ということを……」


さらに、予想もしない言葉で追い打ちされ、思考が停止寸前だ。


何から言ったらいいのかわからない。

呆然としていると、俺が怒っているように見えたのか、小動物フェイスを歪めた岩瀬さんが、震える声で言う。


「……いくら、やり方が思い浮かばないと言っても、ご迷惑でしたよね……ごめんなさい」


ガタッ。


図書委員が席を立つ。


「失礼……します」


思わずテーブルに乗り出す。

状況に全く追いつけないけど、ここで彼女を帰したら、俺はずっと後悔する。


「ま、待って!」


「……っっっ!///」


かろうじてつかんだ、白くて細い手。

びくん、と大きく身体が跳ねる。


目を見開いて、俺を見る岩瀬さん。


『ど……どう……いたしまして……///』


横丁で偶然壁ドンしてしまったときの、あの真っ()に固まった岩瀬さんの顔が頭をよぎる。


「あ……謝る必要なんて……ない……ありがとう」


「誉田くん……あの時と……同じですね」


図書委員は、柔らかく笑って、再び席についた。


「……あなたは、あの日も、私に『ありがとう』と言ってくださいました」


俺の握った手を、名残惜しそうにほどく。


「あんなに真っ直ぐに、私のことを肯定してくれた人は……初めてでした。

ありていに言えば……とても、嬉しかったのです」


「……だって、当たり前じゃないか。

岩瀬さんの協力がなかったら、あの時はどうしようもなかった」


岩瀬さんの協力があったから、保土ヶ谷さんの無理難題にも応える事ができたのだ。


「……だから、お礼を言うのは、当然だと思う。

……本当に……ありが……」


岩瀬さんが激しく首を振る。


「やめてください! それ以上言われてしまうと……

整理した気持ちを、またデフラグし直さなければならない……!」


また、デフラグ。


つまり、一度整理した記憶や感情が俺の言葉でばらばらになる。

そうなったら、改めて最適化して整理し直さなくてはいけないのだ。


そのデフラグという言葉の意味は、重い。


「……そうか、そういうこと、なのか。」


ようやく理解ができた。なぜ、今まで俺を執拗に狙っていたのか。

【担当:岩瀬鈴江(図書委員/分析官)】

整理したはずの気持ちが、またデフラグし直されていく 。

あなたの「ありがとう」の一言で、私は簡単に壊れてしまう。

わかっています。あなたの隣には、私では到底、敵わない人がいる。

だから、せめて……。 初めての、男性の「お友達」に、なってくれませんか?


次回、第88話『いわせ すずえの栞と、重すぎる入場料』 私はもう、あなたを「モブ」だなんて呼ばせません。……いいですね、灯くん?

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