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【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第五章:未来キャンバスと、素顔の肖像画(ポートレート)

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第84話:柊珈琲店の事情聴取と、半分この約束

「ええぇっ! すごいじゃん!!……あ///」


思わず立ち上がって周囲の視線を集めてしまった陽菜は、顔を真っ赤にして革張りのソファに座り込んだ。

目で「話の続きをどうぞ」と促されて、俺は再び話し出した。


「……陽菜だから言うけど、俺、断ろうと思ってるんだ」


「……どうして?」


「失敗したら取り返しがつかないよ。

そもそもだ……今の俺の中途半端な技術じゃ、塩浜さんのあんなに重い想いに応えられない。

……自信がないんだよ」


俺は逃げるように、冷めかけたコーヒーを口に含んだ。


塩浜さんから依頼を聞いた数日後。

学校帰りのショッピングモール内の「柊珈琲店」に、俺たちはいた。

俺の様子がおかしいことを心配した陽菜に、放課後、「話を聞かせろ」とお店に「連行」されたのだった。


銀さんはいなかったけど、柏木さんがいた。

「あら?」という顔をした後は、なにかを察したのか、そっとしておいてくれた。


抑え目のBGMが流れ、コーヒー豆の香ばしい匂いが漂っている店内。 

   

「……ともくん……そりゃ悩むよね。

……夜の返信も遅いし、学校でもふわふわしちゃうわけだわ」


俺の話を遮る事なく聞いた陽菜は、紅茶の入ったカップを両手で包み込み、居ずまいを正して俺を見つめた。

 

元県議会議員が日立絵画教室の生徒ということ。


亡くなった奥さんのこと。


俺にしか描けない「人間」を描いてほしいと言われたこと。


そして、あのボロボロのスケッチブックのこと……。


塩浜さんの寂しげな横顔を思い出す。


陽菜は黙って紅茶を啜る。

何か言いたいことをまとめているように見える。

その沈黙が、今の俺には少しだけ怖かった。


かちゃり。

恋人は、俺の目を見て言う。


「……うーん、なんて言ったらいいのかな……三段跳びだってね……

失敗するかもって思ったら跳べないよ」


幼なじみは俺の顔を覗き込み、形の良い眉を少しだけ下げた。


「それに、私、知ってるよ。

灯くんが横丁の壁をあんなに必死に塗ってたの、私は見てたもん。

あの『汚れ』に感動したおじいちゃんの気持ち、私にはわかるよ」


「陽菜……」


恋人がスッと背筋を伸ばした。


「……誉田くん、とても大事な質問です」


「え……?」


その瞳は、大会のスタートラインに立つ時のような、射抜くような真剣さを宿している。


「私、あなたの……なんでしたっけ?」


有無を言わさない圧。

俺は思わず息を飲み、ビロードの椅子に深く沈み込んだ。


「……え、あ……えっと……」


「は……や……く!」


「……か、彼女……です」


絞り出すように答えると、陽菜は満足げにうなずいた。

うっとりと顔を緩ませ、手を伸ばす。


きゅっ。


テーブル越しに俺の手を握る。


「んん……///」


ぴくん、と吐息をもらした恋人の身体が震えた。

どんどん顔が赤らんでいく。


「……だ……よね? だったら、悩んだり、困ったりしたときは……

半分こ、しよ///」


握られた手のひらから、彼女のしっとりとした体温が伝わってくる。


「もう、一人で抱えちゃダメだよ///」


俺はうなずく。


そうか。

俺は独りじゃなかった。


赤らんだ恋人が、手を重ねたまま聞いてくる。


「……それにさ、ともくん」


「え?」


「断ろうと思ってるのに、なんでそんなに『描きたそう』な顔してるの?」


「えぇっ……!?」


心臓が大きく跳ねた。

図星だった。


俺のリアクションを見て、陽菜がドヤ顔になっていく。


「わかるよー。ともくん、難しいことに挑戦する時、いつもそういう『困ったなぁ』って言いながら、目がキラキラさせるんだよ……昔から」


ドヤ顔のまま、俺を見据え、握った手に力をこめる陽菜。


「……大丈夫。ともくんなら描ける。私が保証する」


「……根拠ないだろ。俺、肖像画なんて、ちゃんと描いたことないんだぞ」


きゅっ……ぎゅっ。


「あるよ。『私の好きな人』だもん。間違いなしだよ///」


困惑する俺を見ながら、陽菜はいたずらっぽく笑った。

重ねた手から伝わる、恋人の暖かい想い。

心なしか、コーヒーとは異質の、甘やかな香りも漂う。


「がまくんも……かえるくんがそばにいると安心でした」


「あ……」


陽菜がつぶやいた言葉は、少し前に俺が彼女に伝えたものだった。

いつも不安げながまくんをかえるくんが優しく、でも力強く支えていた、あの関係。


「……なんて……ね///」


陽菜は自分の言葉が恥ずかしかったのか、紅茶のカップに視線を落とした。


「……きっと大丈夫。ともくんの隣には、私がいるんだよ」


「ひ……な……」


「最強の『かえるくん』が保証するんだから、ともくんは安心して描いていいんだよ」


俺は、重ねた陽菜の手に自分の手を重ね、ゆっくりと撫でた。

身じろぎする幼なじみ。


「んっ……くすぐったい///」


「ありがとう……心配かけて、ごめん」


恋人がうなずく。

そのはにかんだ顔は、夜明け直後のような、柔らかな朝日を連想させた。

【担当:神栖陽菜(陸上部/灯の恋人)】

「断ろうと思ってるのに、なんでそんなに『描きたそう』な顔してるの?」

ともくん。あなたは昔から、難しいことに挑戦する時、目がキラキラするんだよ。

大丈夫。私が保証する 。

悩んだり、困ったりしたときは……半分こしよ。

だって、私はあなたの……「彼女」なんだから 。


次回、第85話『研ぎ澄まされる五感、街灯の下の色彩』 ねえ、ともくん。……ぎゅっとして? 私、もっとあなたの熱を感じたいの 。

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