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【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第四章:黄昏の職人と、捏造された昭和

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第54話:データ収集の鬼と、昭和のオーパーツ

「いらっしゃいませ! 懐かしの揚げパン、揚げたてですよー!」


「あー!なにこの床屋さん!ヤバーい!」


「え……黒潮電気……この青……えぇっ?」


「ああ……来夢来人ってバー、昔あったなあ」


人工の夕焼けに照らされた路地を、大勢の人々が行き交っている。

彼らの笑顔が、俺たちがエイジング塗装を施した壁や、苦労して設置した看板を、単なる「街のセット」から「活きた街」へと変えていた。


かつて、この土地に(かすみ)百貨店が建っていた頃。

週末になれば、家族連れや恋人たちがこうして肩を並べ、買い物やデートを楽しんでいたに違いない。

屋上の遊園地からは子供たちの歓声が響き、食堂からは洋食の匂いが漂って……。


「今は、モールがその役割を引き継いでいるんだな、きっと」 


俺は、独りつぶやいて、トートバッグを抱え直した。


俺たちが作ったのは、過去の幻影だし、存在しない()()の街だ。

でも、ここにある賑わいとお客さんの笑顔は、間違いなく()()だ。

かつてここにあったはずの風景と、今目の前にある風景が重なり合い、時を超えてリンクする。


「……さて、行こう。待っているだろうから……」


俺は喧騒の中へと足を踏み出した。

この街の「職人」として「住人」として、甘い砂糖を届けるために。


柊珈琲店へ向かうため、俺はメインストリートの人波を縫うように歩いた。


みんな、笑顔だ。


人工の夕焼けに照らされた横丁は、どこを見ても笑顔と喧騒で溢れている。


おもちゃチェーンが出店しているテナント「おもちゃの兵隊さん」の前を通りかかった。

ブリキのオモチャや昔からのロングセラーのオモチャが並べられている。

子供はもちろん、年配の人も子供のような目で品定めしていた。


ショーケースの前に、黒山の人だかりができているのが見えた。

店員さんが、ショーケースをガラガラと開けて何かごそごそとして、ピシャンと閉じた。


「皆さま、申し訳ございません!

こちらの『ミライ・スコープ』ですが、当時の貴重な品でして……

展示のみの非売品で、販売しておりません!

どうかご了承ください!」


おいおい、冗談だろ。


いくら塗装をしたとしても、あれは電源を入れたら赤と黒の世界が広がる、平成のゲーム機だ。

保土ヶ谷さんのケンカを買った、俺と銀さんがでっち上げた昭和のオモチャじゃないか。


「すいません! このスコープ、いくらですか?

うちの子が欲しいって聞かなくて」


近くでは、子供連れのお母さんが店員さんに聞いていて、非売品と聞かされたけど、復刻版はないのかと食い下がっている。

その光景が信じられなくて、近寄ってショーケースを覗く。

でっち上げた昭和オモチャの前には、マジックで書かれた真新しいポップが飾られていた。


『 昭和の貴重な資料につき、非売品(Not for Sale) 』


隣の宇宙人のソフビが何だか恥ずかしそうで、振り上げているトレードマークのハサミで顔を隠しているように見えた。


「おや……懐かしいなぁ。

ワシが子供の頃、こういうのが欲しくてたまらんかったんだ」


ショーケースに近づいたおじいさんが、孫に向かって目を細めて語っているのが聞こえる。


俺の心臓がドクリと跳ねる。


懐かしいはずがない。

それは平成生まれのゲーム機で、昭和には影も形もなかったものだ。


「……見事な『心理誘導』の成果ですね、誉田くん」


「うわっ!? 岩瀬さん!?」


声に振り返ると、腕に『記録』という腕章をつけ、岩瀬さんが俺を見て眼鏡を光らせていた。

メモ帳片手にショーケースを観察している。

資料室であったときと同じ格好をしている。

性懲りもなくどこからか衣装を調達してきたらしい。


「見てましたらですね、あの『ミライ・スコープ』を買いたいというお客さんが後を絶たないんです。『懐かしい』

『昔持っていた』

『孫に買いたい』

……とね」


「えっ……ウソ?

だってアレ、実在しないだろ?

『懐かしい』って……」


俺が困惑すると、岩瀬さんは口の端をニヤリと釣り上げた。


「人間の記憶なんて曖昧なものです。

あなたと鎌ヶ谷さんが施した『昭和っぽい塗装』。

私が作った『それらしい箱』。

そして『周りの空気感』。

……これらが揃うと、脳は勝手に記憶を改竄(かいざん)して、『過去に見たことがある』という事実を作り出してしまうのです」


岩瀬さんは、飾られたばかりの『非売品』のポップを満足げに見上げた。


「つまり、貴方の『塗装技術』と、私の『緻密な計算による情報』が、人々の記憶を()()()()()したということです。

……フフ、最高のデータが取れました」


「記憶をハッキングって。

……人聞きが悪いなぁ」


俺は苦笑いしながら、ショーケースの中の「昭和のオーパーツ」を見た。

俺たちがついた「本気の嘘」は、どうやら今日、「伝説のオモチャ」に昇格したらしい。


俺たちが施した塗装と、捏造した外箱の能書きが、おじいさんたちの記憶の底にある「憧れの科学オモチャ」のイメージと結びつき、存在しないはずの思い出を補完してしまったのだ。


「ところで、誉田くん、先日の実証実験の続きなのですが。

……鎌ヶ谷さんから聞いていませんか?」


さっきとは違う意味で、心臓が跳ね上がる。


「し……知らない。何それ……?」

【担当:岩瀬鈴江(資料編さん(志筑高校から参加))】

「誉田くん、ついにあなたの「作品」の持つ力が人々を魅了していきます……。

さあ、あなたの正体を突き止めるための実証実験にお付き合いいただきますよ!!

外箱作成の報酬として、鎌ヶ谷さんから許可頂いたのです。

ああっ、どこに行くのですか?」


次回、第55話『モダンガールの微笑と、秘密のサイン』ハチさんの口上なんて聞いている場合じゃありませんっ!


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