表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【情念の画家】フェロモンのおかげか、地味な僕が筆ペンで描くだけで、クールな彼女たちの理性が限界突破している件 ~日常系かと思ったら、昭和レトロな情念バトルが始まりました~  作者: 船橋ひろみ
第三章 四色の『赤』と、蘇る翼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/39

第25話(第三章完結):羽ばたく赫き翼、空を掴む飛翔

「陽菜の言っていた「鳥さんが燃えている」って、こういうことなのか……?」


思わずつぶやいた俺を西谷が怪訝な顔で見つめるが、無視した。

俺の不死鳥の絵が燃え立つ様子は、陽菜にしか見えない。

それはアスリートの彼女が持っている、普通でない集中力と感性だと思っていた。


しかし、同じ現象であろう事が、少し先にいる幼なじみに対して起きている。

俺に何か人より優れている感性があるというのだろうか。

俺は食い入るようにスタート地点に立つ瑠璃色のアスリートを見ていた。


燃え盛るような陽菜は、ぴょんぴょんと小さく跳ねたあと、ゆっくりと深呼吸をする。

小さく何か呟くと、引っ張ったゴムが弾けたように走り出した。

助走スピードは、これまでのどの試技よりも速く、風を切る音が観客席にまで届くようだった。


ダダダダっ!


陽菜の助走は、俺が見た中でも一番早いのではないか。

素人目でも、身体の動きがしなやかに噛み合っている。


二回目まで見えていた力みは、今は消えていた。


恐れも、焦りも、全てが消えていた。


そこにあるのは、陽菜の持つ純粋な力と、遠くに跳ぶという信念だけだ。


足の回転が早い。スピードに乗った自校の選手に観客席から歓声が上がる。


「神栖っ!いいぞっ!」


フェンスにかぶりついて西谷が喚くが、全く気にならない。

俺は何も言えず、ただ、幼なじみの気迫のこもった姿に見とれていた。


ダダダダっ!


踏み切り板を目指して、燃え輝くアスリートが疾駆する。

まるで松明を背負っているかのように炎が尾を引いているように見えた。


タン、タン、タン、タンっ!


トップスピードのまま、瑠璃色のユニフォームが(あか)い炎を引きながら踏み切り板へ突っ込む。


ダンッ、ダンッ!


ホップ、ステップ。しなやかでバネのある動作は継ぎ目が見えない。

まるで、見えない階段を駆け上がっていくような、重力を無視したリズム。


そして、最後の跳躍。


「はぁぁぁぁっ!!!」


ダァァァン!


気合の声とともに、陽菜の身体が空中に弾き出される。

その瞬間、俺の目には時間が止まり、そして確かに見えたのだ。


弓なりに反った陽菜の背中から、瑠璃色から赫にグラデーションした美しく輝く翼が飛び出て、彼女の身体をさらに高く、遠くへと押し上げるのを。


重力を自分のモノにしたような、永遠にも感じる滞空時間。

それはまさしく、灰の中から蘇り、大空へ羽ばたく不死鳥そのものだった。


ドサァッ!


突き刺さるように着地して砂煙が高く舞い上がる。


「きゃあっ!!」


勢いがつきすぎて、瑠璃色の不死鳥は前方にゴロゴロと転がった。

係員が寄り添って助け起こす。砂場の電光掲示板に記録が出た。


観客席の陸上部の部員から大きな歓声があがった。

仲間たちの歓声を聞いて、電光掲示板を覗き込んだ陽菜は、砂まみれのまま、信じられないと言いたげに顔を覆う。


そこには「12m05」と表示されていた。幼なじみが壁を破った瞬間だった。


西谷が興奮して俺の肩を掴んでグラグラと揺する。


「すげぇ!神栖!自己ベストじゃねぇか」


今まで越えたことがなかった、12mの壁。何度も跳んで、そのたびに弾き飛ばされた壁だった。

そして、この跳躍は、陽菜を最下位から暫定4位に押し上げたのだった。


「やった……」


小躍りして他の部員と騒ぎ出した西谷からそっと離れた俺は、ようやく言葉を絞り出した。

フェンスにめり込むように近づいて、幼なじみを見つめる。

壁を越えた驚きが実感に変わり、そして歓喜がやってきた。

泣き笑いのようなくしゃくしゃの笑顔は、やがて晴れやかな笑顔に変わっていく。


砂が落ちていないその笑顔は、小さい頃に砂場で遊んでいた時の彼女にそっくりだった。


しばらくして夕方近くなると、全種目が終わり、閉会式となった。

三段跳びは、13mを跳んだ選手が優勝し、暫定4位だった陽菜は後続の選手に抜かれて、最終的に5位に終わった。

表彰された選手に拍手を送る幼なじみの顔は、自分力を出し切った、満ち足りた顔であった。


閉会式も終盤にさしかかり、大会役員の挨拶が始まる頃には、競技場の熱は、徐々に醒め始めていた。長々しい話をBGMに多くの観客が帰り支度を始めている。

陽菜は陸上部の仲間と帰るだろう。俺自身、彼女をねぎらう気持ちを表現できる言葉が思い浮かばないし、いっしょに帰るのは何だか照れくさいから、これで良い。


片付けをして競技場を出る前に、俺は、誰もいない観客席、そして夕焼けに照らされたトラックの赤茶けた地面、孤独な砂場を、スケッチブックに静かにデッサンした。


その絵には、誰もいない。競技という熱が完全に冷め、静寂に包まれた、ただの箱が描かれていた。


一通りのスケッチを終えると、競技場整備のスタッフさんが数人、芝生で作業を始めていた。確か明日は地元のサッカーチームのホームゲームだったはずだ。きっと、今日よりすごい「熱」がこの競技場に充満するのだろう。


「さて、そろそろバス、空く頃かな……?」


俺は、スケッチブックを閉じ、誰に声をかけられることもなく、一人、バス停に向かった。

担当:日立先生(絵画教室主催/産学連携プロジェクト総監督)

「灯くん。君に見せたい『景色』があるんだ。 学校の美術室でも、陸上のトラックでもない。 モールの裏側、重い鉄の扉の向こうに隠された、琥珀色の『秘密』さ。

そこには、現代いまが忘れた『熱』と、人工の夕焼けが広がっている。 さあ、入っておいで。……ただし、一度足を踏み入れたら、ただの高校生には戻れないぞ? ようこそ、『昭和ノスタルジー横丁』へ。

次回、第四章開幕。 第26話『倉庫の中の夕焼けと、秘密の招待状』 ……フフ。君の腕を見込んでの招待さ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ