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【情念の画家】フェロモンのおかげか、地味な僕が筆ペンで描くだけで、クールな彼女たちの理性が限界突破している件 ~日常系かと思ったら、昭和レトロな情念バトルが始まりました~  作者: 船橋ひろみ
第三章 四色の『赤』と、蘇る翼

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第24話:覚醒、立ち上る赫き炎

あかは、赤の中でも最も劇的であり、炎や太陽のように、光と熱が共存する色を指す。これは、画家の筆致が、運命の瞬間と交差する時、奇跡的に現れる色である。

赫の色は、孤独な努力と外界からの祝福が融合した時にのみ発色し、描く者と描かれる対象の命運が結びついた証となる。その色は、勝利という名の赫き《かがやき》を反射し、すべてを照らし出す。ゆえに、この赫を扱うには、その瞬間にすべてを賭ける、劇的な覚悟が要る。」

— 狩野 宗玄『色彩の情念:日本画における感情と技法』より


なんだなんだ、なんなんだ。

わけもわからず、西谷に腕を引っ張られる。周囲の視線が痛い。


「おい、誉田!こっちだ!」


「痛いな、そんな引っ張るなよ」


「頼む、神栖がお前を呼んでるんだ!あいつがまた失敗したら、俺もお前も困るだろ!」


西谷が文化祭で陽菜とのツーショット写真をねだった際、岩瀬さんに「神栖さんの競技人生に多大な影響を与えた場合、全責任取れるのか?」と一喝されたことが現実になりつつある。

今回のことが「競技人生に多大な影響を与えた」ことになるかはわからないが、陽菜がこのまま最下位で終わった場合、結果を知った岩瀬さんが何をしでかすかわからない。


困るのは俺よりアンタだろ、と言い返したいのをぐっと堪える。

今は陽菜のSOSが最優先だ。

半ば引きずられるように観客席からフェンス際へ連れてこられると、フェンスを隔てて手を伸ばせば届きそうな距離に、陽菜が立っていた。


瑠璃色のユニフォームと相まって、彼女の顔は、白く蒼白で、絶望の色を帯びていた。

しかし、諦めきれない気迫が宿るその瞳を見た瞬間、俺の心臓は、激しく脈打った。


俺の姿を認めた陽菜は、西谷に「ありがとう」とだけ告げ、フェンス越しに俺をまっすぐ見つめた。


「ともくん……」


陽菜の声は、今にも途切れそうなほど震えている。近くで見る彼女のその瞳は、涙で潤み、まるで溺れている者が、最後の浮き輪を見つけたかのように、切実な光を放っていた。

そして、陽菜が俺をこう呼んでいたのは、お互いが小さいころだった。

確か小学校の高学年くらいに、はやし立てられるのが恥ずかしいので、名前で呼ぶようにする、と陽菜本人から宣言されたのを思い出した。


「……ひ、ひーちゃん……」


俺もつられて小さい頃の呼び名で返す。

幼なじみのただならぬ苦境が、この呼び方ひとつで理解できた。

いたたまれず思わず手を伸ばした時、西谷にガッと腕を掴まれて引き戻された。


「よせ、バカッ!選手に触ったら競技妨害でホントに失格になっちまうんだぞっ!」


苦笑しながら、いきり立つ西谷を制すると、陽菜はフェンスに一歩また一歩と近づいた。

観客席と競技スペースとは、フェンス一枚隔てている。近くて遠い、そして薄くて分厚い境界線。


俺は、フェンスに顔を近づけ、彼女の潤んだ瞳を、真正面から見つめた。競技妨害というルールがなければ、手を伸ばして励ましてあげたい。

俺は、なんと言葉をかけるべきか迷った。慰めも、根性論も、今の陽菜には届かないことは分かっていた。


口下手な俺が、気の利いた言葉を即座に考えつくわけがなく、どうしたものかと言葉に迷っていると、先に幼なじみが口を開いた。その表情を見て、小さい頃の陽菜の顔に戻ったような錯覚に陥る。


「ともくん……公園の約束、忘れてない?」


「当たり前だろ、だから、こうして話してる」


「ともくんの勇気、……もらえる?」


「ひーちゃんに、とっくにあげたよ」


フフッと笑った幼なじみの瞳の潤みが澄んでいく。そして、白い顔が赤くなった。

赤みを増していくその顔は、陽菜のうちに宿る炎を現すような「(あか)い」というべきものだ。


「んんっ……///」


胸に手を当てた幼なじみは、武者震いのように身体をびくんと震わせる。

その時、見計らったように、係員が陽菜に呼びかけた。


「神栖選手、そろそろ順番です」


「はい、今行きます」と落ち着いた口調で呼びかけに応じた幼なじみは、俺たちにクルリと背を向けて歩きだした。


「じゃ、跳んでくるね」


「笑顔で戻ってこい」


凛々しい背中に俺の精いっぱいの気持ちを投げる。

振り返ることなく、ゼッケン303が待機スペースに戻っていった。

最終試技を終えた選手が、競技場の電光掲示板を眺めて、順位に一喜一憂している。

陽菜の前に跳躍する選手は、二回目の試技で13mを超えた余裕か、最終試技は少し流したのか、12m50という記録で競技を終えた。


「ゼッケン303、志筑高校、神栖陽菜選手、最終試技です」


ゆっくりとした足取りで、スタートラインに立った陽菜を見た俺は目を疑った。


佇まいが、それまでの試技と明らかに違う。


彼女のユニフォームの色は瑠璃色だが、その周囲から、「赫い炎」が立ち上っている。

瑠璃色から赫へグラデーションを描いて、まるで太陽のプロミネンスのように燃え輝いていた。


何度見ても、炎は消えない。むしろ、勢いを増していく。

【担当:神栖陽菜(幼なじみ)】

「聞こえる。風の音も、心臓の音も。

ともくんがくれた勇気が、身体の中で熱くなって、背中を押し上げてくるの。

もう怖くないよ。私は一人じゃないから。 見ててね、ともくん。

これが、私と、あなたが描いてくれた『不死鳥』の本当の姿。

第25話「羽ばたく赫き翼、空を掴む飛翔」

今度こそ、あの空の向こう側まで……跳ぶっ!」

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