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【情念の画家】フェロモンのおかげか、地味な僕が筆ペンで描くだけで、クールな彼女たちの理性が限界突破している件 ~日常系かと思ったら、昭和レトロな情念バトルが始まりました~  作者: 船橋ひろみ
第三章 四色の『赤』と、蘇る翼

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23/42

第23話:崩れゆく青、届かない叫び

集まっている選手は15人弱といったところか。


入場したときに受け取った大会プログラムによれば、予選で8人に絞られてから決勝と書いてある。つまり、約半分は予選落ちになるということだ。

係員の誘導で選手たちは二つの組に分かれた。

予選は約8人を一組にして跳ばせる進行のようで、陽菜は最初の組で試技を行うようだ。

淡々と選手たちが呼ばれて、跳んでいく。

陽菜の出番が近づくにつれ、俺も思わず鉛筆を握りしめる。


「ゼッケン303、志筑高校、神栖陽菜選手」


アナウンスと共に、ロイヤルブルーが走り出す。

力強い踏み込み、流れるような助走、そして踏み切り板へ。


ダン、ダン、ダァン!


力一杯踏み切ったように見えたが、その跳躍は硬く、素人目にも伸びを欠いていた。

記録は10メートル90。「こんなハズじゃない」と言いたげに首を振って、次の試技に備える。

待機スペースに戻る陽菜は、唇を固く引き結び、悔しさと焦りが入り混じった表情を浮かべた。


その顔は、まるでくすぶって赤くなった炭のように見えた。


それでも幼なじみは次期エースの底力を見せ、二回目の試技は11メートル5、三回目は11メートル10と記録を伸ばし、予選8位で決勝に滑り込むと、観客席の前の方で陸上部の男子数人が騒がしく喜んだ。


「あれ、アイツ見たことあるぞ……」


騒ぐ男子部員には、文化祭でアスリートメイドとのツーショットをねだって岩瀬さんに一喝されたヤツも混じっていた。


ジャージの背中に「西谷」と刺繍されている。


西谷たち男子部員の不必要な盛り上がりとうらはらに、俺は心配になってきた。

確かに予選通過は良いことだけど、昨夜、決意を固めたはずの陽菜は、明らかに精彩欠いていた。

普段、聞いている記録に全く届いていない。


まるで彼女の「炎」が弱くなっているようだ。


吹っ切れているはずなのに、何か噛み合っていない。

予選落ちでうなだれて引き上げる選手たちとすれ違いながら、安堵と焦りが入り混じった硬い表情のまま、陽菜は待機スペースで固まっている決勝進出者の輪に入っていった。

中学時代のトラウマは、まだ完全に払拭できていないのかもしれない。


係員がトンボでならしている砂場の近くを長距離走の集団が駆け抜けて行くと、別の係員が待機スペースに向かって「決勝試技を始めます」と宣言した。

8人が係員の指示に従って並び、順番に跳躍していく。


跳躍のたびに、観客席から歓声があがる。


やはり決勝だけあって、11m70や80といった好記録が連発される。

中には陽菜がまだ到達していない12mを超えてきた選手もいた。

名前を呼ばれた陽菜は硬い表情のまま、一回目の跳躍に入るべく、スタート地点に立ち、砂場をにらみつけた。


遠くで投擲種目の雄叫びと、ドスンという落下音が聞こえる。


深呼吸した後、瑠璃色のユニフォームがすべるように動き出す。

予選で少し身体がほぐれたのか、助走にスピードが乗ったように見える。ファールにもならず、砂を巻き上げて着地。


係員がメジャーで測り、砂場近くの電光掲示板に「11m55」と表示された。


予選より大幅に記録が伸びた。

調子は上がってきたが、普段の記録が他の選手と同じ程度の事を考えると、到底本調子とは言えない。


観客席からため息に似た声が漏れる。


待機スペースに戻る陽菜に、チームメイトの西谷が手を叩いて「こっからこっから!」と鼓舞しているが、彼女の様子を見ると、たぶん聞いていない。


「あの時」と同じだ。


中学時代のトラウマとなった試合でも、怪我を押して出たので、最後まで歯車が噛み合わない跳躍になり、最終的に結果なしで順位もつかなかった。

競技は途中の砂場の準備を除けば、選手の点呼から決勝までぶっ続けだ。

長い休憩はないので、気持ちの切り替えが難しい。

そんな幼なじみをよそに、他の選手たちはどんどんと記録を伸ばしていく。

陽菜の前の選手が大きな跳躍をして、砂場に食い込むように着地すると、大きな歓声が上がった。そして、電光掲示板に13m15の記録が表示されると、大きなどよめきが起こった。

西谷たちが、今日のベストなんじゃないか、と騒いでいる。


次に跳躍する陽菜に目を向けると、ユニフォームのラインと同じくらい顔色が白く、いっそう硬い表情でスタート地点に立っていた。

名前を呼ばれ、一回目と同じように深呼吸して走り出す。

助走スピードは上がったが、やはり、跳躍の時に身体のしなやかさがない。


ダン、ダン、ダンッ!


フィニッシュジャンプで放物線を描いた陽菜が、俺には青く燃え落ちた不死鳥に見えた。

砂場近くの電光掲示板には「11m48」の表示。一回目よりわずかだか下回った。

砂場を離れながら、陽菜は顔を覆ったあと、競技場のメインスクリーンを仰ぎ見た。記録と順位が写っている。好記録で各選手がひしめき合っているので、陽菜は大きく差をつけられて最下位に沈んでいた。


うなだれて待機スペースに向かってトボトボと歩いていた足が止まった。


そして、方向を変え、観客席に向かってくる。さっきまでの硬い表情と変わらないが、決然とした眼差しに、わずかな光が宿っている。


口は真一文字に引き結んでいるが、


「私は、ここに負けにきたんじゃない!」


という叫び声が聞こえた気がした。

それは、絶望的な状況でも、諦めずに(あらが)う、幼なじみが宿した不死鳥の気迫だった。

そのままフェンスに近づきながら、観客席を探るように見回す。後ろ側に目立たない席に座っていた俺に視線を定め、フェンス際にいた西谷たちに何か話している。


頷いた西谷が俺を振り返って、ノシノシと歩み寄ってきた。


「誉田ってのは、お前かっ!」


「そうだけど、なんだよ」


「ちょっと来いっ、神栖が呼んでいるんだ」


西谷にグイと腕をつかまれると、スケッチブックがバサリと落ちた。

俺は事態を飲み込めないまま、西谷に引っ張られていく。

【担当:神栖陽菜】

フェンス越しに、ともくんと目が合った。

手を伸ばせば届きそうな距離。西谷くんに怒られてる姿を見たら、なんだかおかしくて、怖かった気持ちがスッと消えていったの。

ねえ、ともくん。『勇気』は、もうここにあるよ。

私の背中、熱いんだ。鳥さんが翼を広げようとしてるのがわかる。

次回、第24話「覚醒、立ち上る赫き炎」

見てて。これが、私があなたに見せたかった『あかい炎』。

――行きます!

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