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【情念の画家】フェロモンのおかげか、地味な僕が筆ペンで描くだけで、クールな彼女たちの理性が限界突破している件 ~日常系かと思ったら、昭和レトロな情念バトルが始まりました~  作者: 船橋ひろみ
第三章 四色の『赤』と、蘇る翼

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第22話:静かなる熱気と約束

最寄り駅から電車を乗り継ぎ、ようやくたどりついた競技場は、思った以上の威圧感で目の前にあらわれた。


「それにしても暑いなあ……」


文化祭が終わってもうすぐ冬だというのに、大会当日は季節はずれの陽気で、真夏のような太陽がアスファルトを照りつけていた。

競技場の入口に立ててある「茨城県陸上競技大会」というアーチ型看板に太陽光が乱反射してまぶしい。


ペットボトルの水を一口含みながら、汗を拭う。

着込んだ服と良すぎる天気のおかげで、競技場の最寄り駅からホテホテと歩いてきたものの、汗が止まらない。

乗り場を探してウロウロしたので、シャトルバスの発車時刻に間に合わなかったことが悔やまれる。

今、口に含んだ水も、たまらず自販機で買ったものだ。

陽菜をはじめとした出場選手もこんな天候では本来の力を発揮できるのだろうか。

口の水を飲み下して、入場ゲートをくぐる。

係員の元気な挨拶に会釈で返して、パンフレットを受け取る。場内の案内看板に従って、足早に観覧席へ向かう。

途中、階段下に一般用の通路と選手用の通路が重なる場所があり、選手とその保護者みたいな人たちが談笑していた。

少し離れた場所では、どこかの陸上部が顧問とおぼしき男性を囲んで、話を聞いていた。

志筑高校の陸上部は見当たらないけど、競技場に向かう途中で陽菜から「着いた」と短いメッセージが来ていたから、競技場のどこかでウォームアップでもしているのだろう。


さらに進んで、競技場の観客席に出ると、一気に視界が開けた。

芝生の緑と相まって、トラックの赤茶けた色が鮮やかに見える。


競技場は地元のサッカーチームのホームスタジアムだし、それなりのデカさがあるのはわかっていたけど、実際に目の前にすると、思った以上に広いことをありありと感じる。

トラックや観客席のざわめき、選手やスタッフを召集や会場案内のアナウンス、アップする選手たちのスパイクの音。

競技場から陽炎のように熱が立ち上っているように感じる。

今日の天気とは異質な熱だ。

陽菜たち選手と応援している人々が発する「競技への熱」というべきだろうか。

これはつくばさんや日立先生の作品が発する熱とも異なるものだ。こんな中でのんきにスケッチなんかすることができるだろうか……。


競技場の大きさと熱を感じていたら、後ろから来た人たちが迷惑そうに俺を追い抜いて行った。

通路の真ん中に立っていたんだから、そりゃ迷惑だな、と苦笑して観覧席に向かう。デカデカと俺の高校名が刺繍されたジャージを着た奴らが数人いるので、その周辺が志筑高校の応援スペースらしい。勝手がわからないけど、近くにいれば問題ないだろう。


とりあえず、幼なじみに観客席に到着したことを伝えて席に座ると、遠目に見慣れたポニーテールを見つけた。

ロイヤルブルー、もしくは瑠璃色というべき色のユニフォームを着てアップしている姿が、いつもより凛々しく見える。

その姿は、昨日電話で助けを求めてきた脆さを全く感じさせない、鋭いアスリートの集中力を宿していた。

その周囲では、それぞれの挑戦者が、自分自身との戦いに挑んでいる。

俺が着いたのは少し遅かったようで、すでに開始している競技があった。

必死の形相で走る選手、身体がバネでできてると錯覚しそうな位に跳ぶ選手、見ただけで重そうなものを軽々と投げる選手。

競技場のトラックに立っている選手を見ていると、陸上は団体競技ではないことを改めて実感する。


選手たちは誰もが孤独だ。

それは俺たち美術に関わる者たちにも言えるのではないか。


そんなことを考えながら、しばらく陽菜を遠目から見ていたが、場内アナウンスが三段跳び競技の招集時間が近いことを告げた。

係員がトンボでならしている砂場周辺に、ぞろぞろと選手が集まってくる。

別の係員が点呼と選手のスパイクをチェックしていき、終わった選手が待機スペースに、試技の順番とおぼしき順に並んでいく。

気合の乗った表情で、陽菜はリズムを取りながらぴょんぴょんと跳ねている。

せめてラフだけでも、と思わずカバンからスケッチブックと鉛筆を出したのが、幼なじみの注意を引いたのか、陽菜が観客席に顔を向けた。


目が合う。


少しニコリとした後、小首をかしげてウィンクした瑠璃色のアスリートは、まるで「来てくれたね、ありがとう。頑張るね」と言っているように見えた。

公園での約束どおり、俺はどんな結果でもそばにいる。

そんな気持ちでゆっくりとうなずくと、順番待ちのアスリートは、一瞬安心した表情になったあと、再び気合が満ちた顔つきに変わった。

すべての選手がチェックを終えると、選手が次々と定位置から跳んでいく。

資料には練習試技とか書いてあったものだろう。

陽菜の順番が来て、ダン、ダン、ダンと跳んでいった。

少し緊張しているのか、部活の練習の時より動きが硬いように見える。

陽菜自身も、違和感があるのか、怪訝な顔をして膝を跳ね上げて、フィニッシュジャンプのイメージしている。


「おりゃあっ!」という雄叫びと同時にガシャンとネットにあたる音が、遠くから聞こえた。

投擲種目のファールだろうか。俺の位置からでははっきり見えない。


スケッチブックを開いている俺を怪しげに見ていた視線も、しだいに目の前の跳躍に集まっていく。

それぞれの選手の戦いがこの競技場で並行して機械的に行われていることを感じながら、練習試技の様子をザッとスケッチしていると、係員が腕時計を見ながら手を挙げた。


ついに競技開始だ。

【担当:誉田灯】

「あんな顔をした陽菜を見るのは、いつぶりだろう。

予選は通過した。でも、アイツの中の炎は、今にも消えそうな炭火みたいに弱々しい。

周りの選手が好記録を出すたびに、陽菜が小さくなっていく気がする。

俺は『そばにいる』って約束したのに、観客席からじゃ何もできないのか?

次回、第23話「崩れゆく青、届かない叫び」

……え、西谷? 神栖が俺を呼んでるって、どういうことだよ!?」

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