36 文化祭準備
――放課後。
クラスの教室では、文化祭の準備のためにざわざわとした賑やかな空気が広がっていた。
「じゃあ、役割決めるよー!希望ある人、挙手!」
クラスの中心で仕切っているのは学級委員の後藤だ。レトロ喫茶の運営にあたり、やはり大きく分けて調理と接客の二つに分かれることになった。
「調理やりたい人ー?」
教室内にパラパラと手が上がる。佐々木も、山本も、そして真理子も手を挙げた。吉川もそっと手を上げる。
「お、結構多い。全員が調理ってわけにもいかないし……よし、ジャンケンで決めよう!」
やっぱりか。そうして行われた熾烈(?)なジャンケンの結果――。
「「負けた……」」
吉川と真理子が敗北し、接客担当になった。
「やったぁ!吉川と早川はメイド服ね!ちょうど二着あんのよ」
清水がにっこり笑って宣言する。
「は?吉川はともかくなんで俺まで!?」
思わず叫んだが、その声は真理子にしか届かない。
「絶対いやだ!清水が着たらいいじゃん!」
「女が女の格好してもつまんないでしょ。それに君達二人、絶対似合うから。保証してあげる」
周りの女子だけでなく男子までも、清水に賛同の声を上げる。
「お前ら諦めろってー。ジャンケンに負けた不運を恨むんだな。にしても俺、やっぱ今日運よすぎじゃね!?」
山本がニヤニヤしながら二人の肩に手を回した。
「……お前、帰り道は車に轢かれないよう気をつけろよ」
吉川が頬を膨らませて物騒なことを言う。しかしその表情すらちょっとかわいい。
案の定、山本に頬をつつかれてさらにリスのようになっている。
――いや、吉川は確かに背も低いし顔も可愛い系だからメイド服姿も容易に想像できるけど、俺はないだろ。身長も百七十三センチあるんだぞ?
しかしもう決定事項となってしまったようだ。真理子が申し訳なさそうに見つめてくる。
「いや……気にしないでください。真理子さんのせいじゃないですし」
だが、責任を持って文化祭までは真理子に入れ替わっていてもらおう。
騒ぎつつも、役割分担は決まったため、皆で準備に取り掛かる。家庭科室へ調理器具を借りに行く班、装飾用のポスターを作る班、買い出しリストを作成する班――教室のあちこちで、様々な作業が同時進行していた。
「クレープってさ、甘いのとしょっぱいの、どっちが人気あるんだろ?」
「お菓子系は定番だけど、惣菜系も意外と男に人気ありそうだよな。ツナとかチーズ入れるやつ」
「うわ、それ優勝」
「メニューに絶対入れよう」
そんな話をしながら、どんどん準備は進んでいく。やがて、大まかな準備が終わり、後藤が手を叩いた。
「よし、今日はこのへんで解散!続きはまた明日ねー!」
そうして、クラスは片付けを済ませ、帰宅モードへと移った。
「……ふぅ、なんか思ったよりもバタバタしてたな」
「でも、みんなでやると楽しいね。去年は僕のクラス、フリーマーケットだったから、準備とかほとんど無かったよ」
帰り道、四人(正確には五人)は連れ立って歩いた。電車に乗ると、途中で山本と吉川がそれぞれの駅でおり、気づけば真理子と佐々木と和也の三人だけになっていた。
空は薄暗く、街灯の光がぽつりぽつりと点滅し始める。
「ねえ……」
ふと、真理子が口を開く。
「ちょっと、寄り道しない?」
佐々木が横目で見やる。
「……どこに?」
「公園」
佐々木は一瞬、考えるように視線を逸らしたが、結局「いいけど」と短く返した。
二人は静かな公園へと向かい、和也もふわりと浮かび、二人の後を追いかける。ベンチに腰掛けると、真理子はゆっくりと口を開いた。
「……実は、話さなきゃいけないことがあるの」
真理子は意を決したように佐々木を見つめ、静かに続きを語り始めた。
「私は、和也くんじゃないの。――あなたのお母さんよ」




