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【夢、実現いたします】  作者: 石田あやね
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第4話『願い事』

 見ているだけで寒気が走り、両肩を手で擦る。


「あの木、まだあったのね」


 美由紀の言葉に、鐙子は少し不満げな表情を浮かべる。


「それじゃなくて、隣よ!」


 そう言われてはじめて気付く。杉木の横に、当時は無かったはずの見慣れない箱。ポストのように真っ赤な箱が、木で造られた台の上に置かれていた。


 それを見て、今朝娘の梨花が話していたことを思い出す。


「全く……よりによって、この場所に変なもの置いてくれちゃって! 嫌がらせもいいとこよっ」


 鐙子はカツカツと音を立てながら、その箱へと近寄っていく。美由紀はも躊躇いながらも彼女の後を付いていった。


 よく見ると、箱が置かれた台には貼り紙が一枚。真っ白な画用紙に赤い文字で、こう書かれていた。


 【夢、実現いたします】


 台の上には願い事を書き込む用紙と鉛筆が一本置かれている。子供には魅力的に映るだろうが、美由紀には不気味としか感じ取れなかった。


「この下に遺体が埋まってるなんて知りもしないで……ほんと、気味悪いっ」


「鐙子っ!」


 台の下に引かれた()の子を軽く爪先部分で蹴る鐙子の腕を焦るように掴む。


「誰も聞いちゃいないわよ!」


 鬱陶しいと言いたげに、美由紀の手を振り払い、嫌な笑みを浮かべてこちらを見遣った。


「それとも何? ()()()が聞いてるって?」


「やめてよ……思い出したくもない」


 おぞましい映像が目の前に再現されたようなリアルさで蘇ってくる。


「ニュースは見たんでしょ?」


 鐙子は鞄から煙草を取り出すと、直ぐ様火を付け、一口吸う。わざとらしく煙を箱に向けて吐き出すと、質問に答えずにいる美由紀へ視線を戻した。


「谷山和真……尋実(ひろみ)の息子」


「知ってるわ。それよりも、確かめたいことってなんなの?」


「息子が死ぬ前の日に、尋実から電話が来たのよ。和真がここで“夢”を書いたってね」


 だから、何だというのだろう。


 尋実の息子がここで夢を書いたからといって、なんでわたしが来たくもない場所に来なきゃいけないんだろうか。


 不満を抱きながら、鐙子に先を促す。


「それで?」


「書いた願い事ってのが……“お金がたくさんほしい”だったんですって」


 今時の子がいかにも書きそうな事だ。だが、所詮それはただの願い事に過ぎないと美由紀は半笑いを浮かべた。


「普通の人なら、そういう反応になるわよね」


「違うの?」


「願い事を書いた次の日の朝、息子の部屋一面に万札が散らばってたんだって」


「へぇー、すごいじゃない」


 素直に感心したわたしに対し、突如、鐙子の表情は険しくなる。


「けど、その三日後の昨日……息子は死んだ。あんな死に方だったから、尋実と旦那は殺人容疑で警察に連れていかれて災難よねぇ」


 美由紀は妙な緊張感を覚え、ごくりと喉を鳴らした。今も尚、呼び出された目的が掴めない。それでも、鳥肌が立つほどの恐怖を美由紀は感じていた。


「これに夢を書いたら……死ぬとでも言いたいの? そんなバカなことあるわけないじゃないっ」


 今自分を取り巻く感情を必死で振り払いながら告げる。死んでしまった和真くんには悪いが、犯人は尋実と旦那。ただの殺人事件だと思いたかった。なのに、そんな考えを鐙子はあっさりと切り捨てる。


「これは、千佳子の呪いよ」


 すっかり短くなった煙草をなんの躊躇もなく地面に落とし、靴で磨り潰すように踏みつけた。


「呪いって……そんなの現実にあるわけないじゃない」


 小説や映画の中でしかない未知なる現象。非現実的な事であって、現実には起こり得ないと美由紀は信じたかった。だが、身体は正直な反応を示す。さっきから指先の震えが止まらない。


「わたし、面白い話も尋実から聞いてるのよ」


「面白い?」


「夢が現実になってからの二日間、息子が変な夢を見るようになったって……」


「変な夢?」


 美由紀が聞き返すと、鐙子は箱へと視線を向ける。


「一日目は石段から突き飛ばされる夢……」


 一瞬にして、喉が締め付けられるような息苦しさを感じた。指先だけの震えが、次は足にまで広がる。


「二日目は土の中で藻掻き苦しむ夢」


「それって……」


「喉を掻きむしって、血塗れだったらしいわよ」


「まさかっ」


「千佳子……あの時はまだ死んでなかったのよ」


 心臓が止まるかのような衝撃に、美由紀はその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。


「でもっ……千佳子の呪いだったとしたら、殺したいのはわたし達の筈よ!? なのに、なんで和真くんがっ」


「だから確かめに来たんじゃない。本当にこれが千佳子の呪いかどうかをね」


 鐙子の言いたい事がなんとなくだが分かってきた気がする。同時に、嫌な予感がした。

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