あの日
暗い寝室で、重い布団を首元まで引き寄せる。目を閉じると、あの日、立川士官学校の騒がしくも穏やかだった教官室や、中庭の芝生の匂いが鮮明に蘇ってくる。
「神力を例えるなら、箱とホースと水みたいですね」
ふと、安宅の自信に満ちた、けれどどこか落ち着いた声が脳裏をよぎった。あいつはまだ学生だったというのに、本質を見抜く力に長けていた。
人はそれぞれ、神力を蓄える「箱(器)」を持ち、そこに神力という名の「水」を注ぎ込むための「ホース(回路)」を持っている。
器が大きくても、ホースが細ければ水はなかなか溜まらない。逆に器が小さくても、ホースが太ければすぐに満杯になる。だから、神力を使い果たした後の回復速度には残酷なほどの個人差が出る。数時間で戦線に戻れる者もいれば、数ヶ月単位で意識が戻らない者もいる。
私の自慢の教え子だった小早は、前代未聞の「神気タンク」だ。
あの子の「箱」は、今まで私が見てきた誰よりも巨大で、底が見えない。日頃から膨大な量の水を溜めているからこそ、誰よりも長く、激しく動き続けることができる。
ただ、「ホース」の太さは人より少し早い程度。だから、一度その巨大な器を空にしてしまうと、再び満たされるまでには泥のような長い眠りやしばらく強い眠気を感じながらの生活が必要になる。
一方で、桜木や関は、とにかく「ホース」が太い。
あいつらは器自体も大きいが、それ以上に神力を引き込み、循環させるスピードが異常に速い。注ぎ込まれる水の勢いが凄まじいから、小早ほどの貯蔵量がなくとも、常に高出力を維持し、短期間の休息で何度でも戦場へ舞い戻ることができる。
そんな風に、あの子たちの神力の揺らぎや、命の灯火の輝き方まで手に取るように分かっていたというのに。
……これほどまでに見分けていた生徒たちを、俺は死なせてしまったんだな。
安宅、関内、そしてあの日、あの場所で笑っていた多くの若者たち。
教官として彼らの個性を愛し、その「器」の形まで知り尽くしていたはずなのに、その器が砕け散るのを、俺はただ見ていることしかできなかった。
暗闇のなか、指先に残る小早や関の体温と、二度と触れられない安宅たちの冷たい感触が交互に押し寄せる。
逃れられない自責の念に、胸の奥が焼けるように痛む。俺は逃げるように布団に深く潜り込み、冷え切った身体を丸めた。




