作戦失敗
朝食を終え、食後のコーヒーをすすりながら、俺たちは他愛もない会話を交わしていた。
そんな微笑ましい光景を眺めながら、俺がコーヒーカップを置いたときだ。
隣に座っていた桜木が、手にしていたマグカップを静かにテーブルへ置き、横目でチラッと関の顔を見やった。
「……関」
「はい、桜木教官」
ピシッと背筋を伸ばす関に対し、桜木は周りに聞こえないほどの低い声で、ボソッと呟いた。
「お前……酒、そんなに弱くねぇな。……今度、二人で飲みに行くか。美味い店を知ってる」
「えっ……! 教官と、二人で……ですか!?」
関の顔が、一瞬でパッと明るくなった。
昨夜は小早の様子や高級ホテルの雰囲気に飲まれてヘロヘロだったが、本来の関は士官学校を優秀な成績で卒業した根っからの軍人だ。尊敬する大先輩であり、あの厳格でめったに人を誘わない桜木中佐から「男同士で飲みに行こう」と誘われたのだから、嬉しくないわけがない。
おいおい……桜木のやつ、またそうやってコソコソと……
俺が呆れ半分、苦笑い半分で二人を見ていると——。
「……あ!!」
なんと、そのヒソヒソ話をバッチリ聞き逃さなかった人物がいた。
落ち込んでいたはずの小早が、ピンと耳を立て、驚いたように丸い目をさらに見開いたのだ。
「桜木教官! 関だけズルいです! 私だって行きたいです!」
「お前は酒禁止だと言っただろうが」
「お酒は飲みません! ウーロン茶でいいです! 私も一緒に行きます!」
昨夜「一生忘れない」と泣きながら関に抱きついていたあの子が、いまや自分だけ仲間外れにされそうになって、必死の形相で桜木の袖を引っ張っている。
さらには、俺の方へバッと振り返り、助けを求めるように叫んだ。
「中山教官! 行きたいですよね!? 中山教官も行きましょう!!」
「え、俺も!?」
突然巻き込まれた俺は、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。
「私と中山教官も一緒に行けば、4人でお出かけになります! 私、ジュースでいいですから!」
「……声がでけぇよ小早。極秘任務の打診だぞ」
桜木がぶつぶつと文句を言いながらも、その口元は隠しきれない苦笑いで緩んでいる。関も関で、小早に「俺だけズルい」と突っかかられてドギマギしつつも、嬉しさを隠しきれずに鼻の下を伸ばしている。
やれやれ……本当に、賑やかな子どもたちだ
俺は「やれやれ」と肩をすくめ、残りのコーヒーを飲み干した。
「サシ飲み」で大人の男の語らいを決め込もうとしていた桜木の計画は、あっけなく失敗に終わったらしい。けれど、結局のところ、この4人で過ごす時間が一番居心地がいいということは、ここにいる全員が一番よく分かっているのだ。
「分かった分かった。じゃあ今度の非番は、桜木のおすすめの店で『4人の飲み会』決定だな。小早はソフトドリンク飲み放題だ」
「はいっ! やったぁ!」
ぱぁっと花が咲くような笑顔で喜ぶ小早と、それを見てどこか誇らしげに胸を張る関。
悲惨な過去を乗り越え、様々な想いを胸に抱きながら、こうして4人で笑い合える「今」がある。
不器用で、けれど世界で一番愛おしい俺たちの――。
騒がしい朝のダイニングで、俺は温かい満足感に包まれながら、次の休日の「飲み会」を心から楽しみにしていた。




