お祝い当日
約束のお祝いの当日。
俺は、先にセットを終えた関のいる待合スペースで、主役の登場を待っていた。
隣に立つ関を見やると、髪をビシッとセットし、先日桜木が店に連行して作らせたダークネイビーのオーダースーツに身を包んでいる。肩幅や背筋の引き締まった体躯に見事にフィットしており、あの世間知らずでヘロヘロだった男とはとても思えないほど、見違えるように凛々しく仕上がっていた。
だが、本人は緊張のあまり顔を強張らせ、何度もネクタイの首元に指をかけては「……はぁ……」と生唾を飲み込んでいる。
まったく……戦場じゃ度胸満点なくせに、腹が据わらないやつだな。
俺が苦笑いを浮かべていると、奥のドアが静かに開く音がした。
「——おい、関。準備はいいか?」
桜木の声に、関が弾かれたように直立不動になった。
ゆっくりと姿を現したのは、ミッドナイトブルーのドレスに身を包んだ小早だった。同僚の女教官に施してもらった控えめなメイクと 、桜木の手によって完璧に結い上げられた髪が、彼女の可憐さを極限まで引き立てている 。
ただ……慣れないヒールに悪戦苦闘しているらしく、その歩き方は少し危なっかしい。
そんな小早の手を、隣についた桜木が大きな手でそっと引き、エスコートするようにこちらへ歩いてくる。かつて「小動物みたいに縮こまっていた」と評したあの少女が、まるで本当の娘のように桜木に手を引かれ、一歩一歩踏みしめてくる姿は、見る者の胸を強く打つものがあった。
そして、その姿を目にした関といえば——。
「…………っ」
声すら出なかった。
口を半開きのまま、ただただ小早の姿に目を奪われ、魂が抜けたように凝視している。まるで世界に自分と小早の二人しか存在していないかのような見とれようだった。
「ふふ……関、どうかな……?」
桜木の手を離し、関の目の前に立った小早が、上目遣いに恥ずかしそうに尋ねる。照れくさそうにドレスの裾をキュッと握りしめる小早の仕草。恋人同士である前に、元々は互いの背中を預け合ってきた大切な同期だ。だからこそ見せる、等身大の素直な照れ顔だった。
関は、茹で上がったタコのように耳まで真っ赤になり、喉を鳴らしながら、ようやく壊れた蓄音機のように言葉を絞り出した。
「……っ、す、凄く綺麗だ……」
絞り出すような、けれど心からのその一言。
小早はぱぁっと顔を輝かせ、「えへへ、よかった……!」と嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。
その二人のやり取りを横で見つめながら、俺と桜木は思わず顔を見合わせ、同時にふっと温かい微笑みを漏らした。
あの日々を……乗り越えてよかったな。
あんなにも暗く冷たい底を這いずり回っていた子どもたちが、今、こうして綺麗に装い、互いを見つめ合って笑っている。
「よし、二人とも最高の仕上がりだ」
俺は物腰柔らかく声をかけ、二人の背中をそっと突いた。
「さあ行こうか。今日は20歳のお祝いだ。とびきり最高の日にしよう」
「はい、中山教官!」
「……はいっ!」
不器用で、けれど何よりも愛おしい教え子たちの新しい門出。
咲き誇るスノードロップの刺繍を胸に宿した小早の横顔を見つめながら、俺は親のような深い愛おしさと誇らしさを胸に抱き、彼らと共に新しい未来への一歩を踏み出した。




