襲撃事件から1週間
あの日から一週間。隣のベッドで眠り続ける小早の顔は、日に日に生気を失い、見たこともないほど蒼白になっていた。
時折、浅い呼吸の隙間に漏れる呻き声を聞くたび、俺の胸は抉られるような痛みに襲われる。安宅や関内(弟)を失ったこの地獄で、たった一人生き残ってしまったあの子の細い糸が、今にもプツリと切れて、先に逝った仲間の後を追いかけてしまうのではないか。
その恐怖を振り払うように、俺はひたすらペンを動かし続けていた。
「立川士官学校、教官の中山です……。ええ、息子さんの最期は……」
鳴り止まない電話。そして、積み上がる死者名簿と報告書。
あの子たちがどこで、どのように、誰を庇って命を落としたのか。その凄惨な事実を一つひとつ無機質な文字に変換していく作業は、俺自身の魂を少しずつ削り取っていく。
「中山。ちゃんと寝ているか?」
背後からかけられたのは、日吉大佐……いや、日吉教官の重厚な声だった。
「……大佐。大丈夫です、休憩は適宜いただいています」
ふと時計に目をやると、朝の6時を回っていた。結局、一睡もせずに夜を明かしてしまったらしい。
日吉教官は鋭い眼差しで俺のやつれた顔を見つめ、静かに首を振った。
「今は大変な時だが、お前まで倒れるなよ。……今日はもういい、半日休め」
「ですが、まだ名簿が……!」
「大丈夫だ。状況は落ち着き始めている。今日からは桜木たちも少しずつ動けるようになるから、お前の仕事も楽になるはずだ」
「……分かりました。ありがとうございます」
教官の命令に逆らう気力もなく、俺は重い腰を上げた。
限界なのは、俺だけじゃない。周囲を見渡せば、怪我を押して対応にあたっていた教官や職員たちが、まるで糸が切れたようにバタバタと倒れ始めていた。
応援が来ているとはいえ、教え子たちの詳細を知る俺たちにしかできない仕事は山ほどある。そして何より、小早のケアを疎かにするわけにはいかない。あの子を一人にすれば、本当にどこかへ消えてしまいそうだった。
とりあえず、シャワーを浴びて……1時間、いや2時間だけ寝たら、すぐに小早の様子を見に行こう
自分にそう言い聞かせ、一歩踏み出した、その瞬間だった。
ドクンッ、と。
心臓が、まるで内側から鋭利な刃物で握りつぶされたような、異様な拍動を刻んだ。
「――っ、が、あ……っ」
突然の激痛に視界が火花を散らし、膝から崩れ落ちる。
肺に空気が入ってこない。どれだけ大きく口を開けても、喉の奥に鉛を詰め込まれたように息が詰まる。
「はぁっ……はぁっ……っ!」
心臓が、早鐘のように、しかし不規則に暴れ、全身の血液が冷たくなっていくのが分かった。
ストレス性の心不全。限界まで酷使した精神と肉体が、ついに悲鳴を上げたのだ。
「中山!」
遠くで、日吉教官の叫び声が聞こえる。
駆け寄ってくる足音。誰かの呼ぶ声。
けれど、それらすべてが水の中に沈んでいくように遠のいていく。
……すまない、小早……。まだ、行かなきゃ……いけないのに……
薄れゆく意識のなかで、俺は最後まで、蒼白な顔で眠り続ける教え子の姿を追い求めていた。




