小早、倒れる
安宅を乗せた車が、朝靄のなかを静かに去っていった。
家族の元へ帰る教え子の後ろ姿を、俺と関、そして小早の三人は、言葉もなく見送っていた。
不意に、隣にいた小早の足が止まった。
「小早……? どうした?」
声をかけた瞬間、あいつの身体が糸の切れた人形のように、ふらりと地面へ向かって崩れ落ちた。
「小早!!」
咄嗟にその身体を抱き止める。
すぐに、数日の間に空いたばかりのベッドの一つへ、あいつを運び込んだ。
抱き上げた瞬間、心臓が冷たくなるような感覚に襲われた。
あの日――襲撃の最中、神力の副作用とショックで朦朧としていたあいつを背負った時よりも、その身体は驚くほど軽く感じられたのだ。
まるで、実体という重みを失って、このまま空気の中に溶けて消えてしまいそうな……そんな、言いようのない危うさがあった。
過酷な任務の疲労、そして何より、自分を導いてくれた班長・安宅を失ったことによる凄まじい心労が、あの子を内側から食い荒らしていたのだろう。
それからの一週間、小早はベッドの上で、これまで見たこともないような蒼白な顔をしたまま、深い眠りの淵を彷徨い続けた。
時折、うわ言のように誰かの名前を呼んでは、苦しげに眉をひそめる。
カーテン越しに聞こえる機械的な呼吸音だけが、彼女がまだこちら側に留まっていることを辛うじて証明していた。
だが、そのあまりにも弱々しい寝顔を見ていると、今にも安宅の後を追いかけていってしまうのではないかという恐怖が、俺の胸を絶えず締め付けた。
「……行くなよ、小早。お前まで居なくなったら、俺は……」
あの日散った多くの教え子たちの冷たさと、腕の中に残る小早のあまりに軽い体温。
生き残ってしまったことの呪縛に囚われながら、俺はただ、消え入りそうなあいつの手を、壊れ物を扱うように握りしめることしかできなかった。




