日吉教官と中山君
腕の傷がズキズキと拍動し、熱を持ったように疼く。身体のあちこちに小さい負傷を抱えていることもあり、上層部から「4時間の仮眠」を命じられたが、結局3時間も眠れなかった。目を閉じれば、瓦礫の下から助けを求める生徒たちの声や、冷たくなった安宅や関内達の顔がフラッシュバックし、意識が強制的に現実に引き戻されるのだ。
熱に浮かされ、苦しげに唸っている桜木を病室に残し、俺はふらつく足取りで廊下に出た。
朝日が昇る前の、刺すような冷気が肌を刺す。ふと廊下の隅に目をやると、小早と関が壁に寄り添うようにして、互いの体温を分け合うように眠っていた。
二人とも、まだ18そこらの子供なのだ。それなのに、あの日、地獄のような惨劇を目の当たりにし、仲間を失い、寄り添うように息をしている。
体にかかっていたはずの薄い布が床に落ちていた。ここは冷える。俺は痛む腹部を庇いながら屈み、二人に布を掛け直した。
……死なせない。お前たちだけは、絶対に
自分に言い聞かせるように心の中で呟き、俺は再び「死者」たちが待つ事務室へと歩き出した。
名簿の作成作業が一段落したのは、その日の昼過ぎだった。
「立川士官学校の中山と申します」
この数時間で何度、この言葉を繰り返しただろう。そして、これからあと何回、教え子の死を報告するためにこの名を名乗らなければならないのだろう。言葉を発するたびに、魂が少しずつ削り取られていくような感覚に陥る。
「中山。とりあえず応援に来たぞ」
聞き覚えのある、重厚で厳格な声。顔を上げると、そこにはかつての俺たちの指導教官であった日吉大佐が立っていた。
「日吉大佐……」
「元教員だ、ここの内情は分かっている。事務的なことは、ここにいた応援メンバーで引き受ける。中山、お前はとりあえず休め」
「ありがとう……ございます……」
震える声で礼を言うのが精一杯だった。大佐の前に立つと、自分がいかに限界に近い「教え子」に戻ってしまうかを痛感する。
「中山。桜木のところで休んでいろ。お前がどこにいるか分かれば、こちらも安心だからな」
「……承知しました。失礼します」
一歩一歩が、鉛を足首に括り付けたように重く、遠い。
桜木の部屋に向かう途中、小早たちの姿を探したが、どこにも見当たらなかった。もう一度探しに行く気力すら今の俺には残っていない。
重い扉を開け、桜木の部屋に入る。
「桜木、起きてて大丈夫か?」
「ああ……これぐらいな。中山、お前こそ今にも倒れそうだぞ。……休め」
桜木の掠れた、けれど確かな声を聞いた瞬間。
張り詰めていた糸がプツリと切れた。重い身体を支えていた精一杯の力が抜け、俺は崩れ落ちるように空いているベッドへと身体を預けた。
視界が暗転する直前、またあの子たちの泣き顔が脳裏をよぎったが、今はただ、隣にいる相棒の気配だけを頼りに、泥のような眠りへと沈み込んでいった。




