第18話 セロシア 〜希望の灯〜
力が上手く出せない。自分の身体じゃないようだ。
百合を早く助けないと。
それなのに何処かがおかしい。
視界が狭くなっていく。
もう直ぐ家に着くというのに。
あと少しだというのに。
もう少しーーー
「蓮ちゃん……? ちょっと大丈夫!?」
この声は、柚樹さんだ。
俺の膝は落ち、立っていられなくなる。
残り僅かの力を振り絞り、柚樹さんに背負っている百合を渡す。
「後は……頼み……ます」
俺は意識を手放した。
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ーーーーー
ーーー
冷んやりとした何かが、俺のでこに置かれている。
ゆっくりと目を開けると見飽きている天井。俺の部屋だ。
俺はどうしたんだ。何で寝ている。
何か、忘れてーーー
「百合!!」
咄嗟に起き上がり辺りを見渡す。
すると俺の寝ているベッドに、もたれかかる様にして寝ている百合の姿があった。
俺の大声に反応したのか、柚樹さんが部屋に入って来た。
「あら、やっと起きたわね。丸一日寝てたのよ?」
(丸一日? そんなに俺は……)
柚樹さんは俺のでこに手で触れた。
「熱は引いたようね! 良かったわ~」
頭がまだぼんやりとしている。
すると、百合がゆっくりと目を開ける。そして飛び跳ねる様にして起きた。
「蓮! 良かった……! 本当に良かった!」
百合は涙目になりながら、俺の腕を両手で掴んで離さなかった。
その手は震えていた。
まるで、何かに怯えている様だった。
「花子ちゃん、ずっと心配してくれてたんだから!」
その言葉に耳を疑った。
え? 花子? 百合じゃないか。
「あの……実は……」
百合は俺と柚樹さんの両方の顔を伺いながら、申し訳なさそうにしている。
「花子ちゃん、こんなにべっぴんさんになっちゃって~。蓮には勿体無いわね!」
「柚樹さん……」
「蓮ね? 花子ちゃん大好きで、昔から私に恋愛相談してたのよ~」
「柚樹さん」
「で、二人はもう付き合ってるの!? どーなのよ~」
「柚樹さん!!!」
部屋中に響き渡る怒号。
二人は身体をビクッとさせると、驚いた顔で俺を見て、そのまま硬直した。
部屋が静まり返る。
「すみません……今日はもう……帰って、もらえませんか?」
少し震えた声で言うと、二人は何も言わず、いや何も言えずに、そのまま帰って行った。
悲しい顔をしていた。何やってるんだ俺は。
部屋にある花に水をあげる。
何時もならこれをしていると、心が少し安らぐのに、今日は一向に安らがなかった。
俺は全ての花に水をあげ終えると、ベランダに出た。
手すりにもたれる様にして空を見上げる。すっかり夜になっていた。
今日の月は欠けていて、半月になっている。
「百合ちゃんから聞いたわ……」
声のする方へ目をやると、俺の隣には柚樹さんがいた。
俺はそれを確認すると、また空を眺める。
「ごめんなさい。蓮ちゃんの気持ち分かってあげられなくて……」
「いや、こちらこそすみません。カッとなっちゃって……」
「知らなかった。その、花子ちゃんが……」
「それ以上は、言わないで下さい。分かってますから……」
すると、柚樹さんは俺の背後に立ち、抱き締めた。
まるで母が子を撫でる様な、優しさに包まれた。
「何で、私が最初に花子ちゃんの事言った時、言ってくれなかったの?」
「言えなかったんです……何より言いたくなかった。言ってしまうと、もうそうなってしまいそうで……」
泣きそうになる。上を向いて、涙を堪えた。
「こんな時は泣いても良いのよ。私しかいないんだから」
その言葉に俺は甘えた。
花子、俺はこんなにも泣き虫になってしまったよ。
けど、もう泣いて悲しむのはお終いだ。
「もう一人、謝らないといけない人がいる」
「なら、行ってきなさい」
玄関で靴を履いて、俺はそのまま走った。
俺、いつの間にか百合の事ばかり考えている。百合の事が好きになっている。
百合、俺を待っていてくれた。
百合、出逢ったばかりなのに信じてくれた。
百合、君に会いたい。話していたい。
「百合!!」
百合の背中を見つけ、声を掛けた。
百合は振り向いた。
「蓮!? どうしたの?」
「さっきはごめん!」
百合は面食らった様な顔をしている。
「私が悪いの。花子さんじゃないって言い出せなくて……」
百合の優しさから起こった事なんだろう。仕方がない。
俺は前から言おうとしていた事を口にした。
「そんな事より! 俺と一緒の高校に行かないか?」
百合は面食らった顔で硬直している。
「勉強してテストを受けるんだ! 」
少しぐらいなら俺でも教えられるだろう。この提案は話をした時から考えていた事だ。
「でも、蓮に迷惑かける訳には……」
「百合の役に立ちたいんだ! それぐらい、いいだろ?」
百合は少し考える素振りを見せる。
そして、決意の目になった。
「よろしくお願いします!」
「あ、ああ! よろしく!」
かくして、俺と百合の高校受験に向けての猛勉強が始まった。




