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第103話 大事な話と昔話

ドワーフの集落でぐでんぐでんに酔っ払った獣人の女性を送り届け、エルフの集落に帰ってきた頃には辺りは日が落ちて暗闇状態となっていた。


幸い魔物の肉を誰かに盗まれない様にと見張っているエルフ族が、持っていた松明で地面を照らしながら長老の家まで送り届けてくれたおかげで其れほど迷わずに帰ることが出来た。


此処まで送ってくれたエルフ族の男性に礼を言って家に入ると、今度は中々帰ってこない俺を心配していたメレスベルが皺くちゃな顔を更に皺くちゃにして叱られてしまった。


聞けばもう少し遅ければ、捜索隊を出して森を探す準備をしていたのだという。

その後、時間を掛けて何処で何をしていたかを洗いざらい説明したところで夕食となった。


本日のメニューも昨日までとほぼ変わらない、各種フルーツの盛り合わせに森の果樹園で採れた果物の搾り汁を和えた野菜サラダという菜食主義的なものだった。

毒抜きの作業が上手くいっていれば肉料理も追加されたのにと、ラウラさんが此処に居ないセルフィに対して恨みつらみをぶちまける。


此処で漸くセルフィがいない事に気が付いた俺が夕食の時間になっても部屋から出て来ないセルフィを呼んできましょうかと言うと。


「あの娘は火の当番の際に眠りこけて大事な釜の火を消してしまったので、食事抜きの罰を与えているんですよ。なぁに心配しなくても、1食抜いたぐらいであの子は堪えませんよ」

「それでは神子様も無事に帰って来られたようですし、夕食を頂きましょうか」


今この食事の場に居るのはメレスベルと御付兼、娘であるラウラ(セルフィは部屋で不貞腐れている)なので、俺の事を神子様と呼んでいる。

これは制定の儀の後で決まった事なのだが俺の事を神子だと知らない者の前では普通に呼び、あの時会議場に居た人物が居る時だけの場合には、神子様と呼ぶ事になってしまったのだ。


精霊と契約したと言うだけで俺の何倍何十倍も長く生きてきた人物から様付をされてる事に何処か違和感と、心苦しさが頭に残る。


「森の精霊様に頂きし糧に感謝をこめて……」


メレスベルの森の精霊に対する祝詞のりとが紡がられると、やっと各々が手づかみで果物を手に取って食事を開始した。


俺もゆっくりと食べ物を口に運ぶが、森の数少ない食料を俺が来た所為で更に少なくしてしまった事に心が痛んでいた。


「神子様、どうかなさいましたか? もしや御口に合いませんでしたか」

「いや、結構おいしいですよ。ただ俺が森に来た事で唯でさえ少ない食料を更に少なくしてしまっている事を考えると心が痛んでしまって……」

「神子様、そんな事を仰らないでください! 森には神子様を邪魔だという者は居りません」

「そうですぞ。それに神子様は、我が友であり今は亡きバヌトゥの無念を晴らしてくださいました。食料なんぞは人数の増減に拘らず、いつかは無くなってしまう物。仮に明日、無くなってしまったとしても誰も神子様を責める者は居りません」

「それに神子様からは森に多大な支援を頂きました。明日にも獣人の森を訪れてみてください。皆、神子様に感謝の気持ちで一杯ですので」

「俺は此処に居て良いんですか? 人間の街を冤罪でありながらも追い出された事で、もしかすると大迷惑をかけてしまうかもしれない身ですが其れでも迎えてくれますか?」

「神子様さえ宜しければ、何十年でも何百年でも森に居て下さって結構です。いえ、むしろ森から出て行かないでください!」

「あ、ありがとうございます」


俺は長命なエルフとは違って、人間の身なので何百年とまでは生きられないだろうけど……。


「さっ、湿っぽい話はここまでにして食事を済ませてしまいましょう。理由もなく食事を残してしまうと、それこそ森の精霊様達から罰を受けてしまいますよ。明日からはまた毒抜きの為の薬草の採取で忙しいんですからね」


暗く沈んでしまった場を元に戻そうと声を発したラウラの一言で食事は再開されて夕食は終了した。


途中、唯一家族でありながらも夕食の場に参加しなかったセルフィが、空腹に耐えかねて果樹園に侵入し、見張りの者から罰を与えられたのは言うまでもない事だろう。


本当に何処までも残念な存在だった。



そして自分に与えられた部屋で目を瞑り夢の世界へと旅立った俺が、誰かの俺を呼ぶ声で目を醒ますと其処は懐かしい、精霊との契約をした神殿だった。


「マスター、急遽お呼び立てして申し訳ありません」


神殿で椅子に座った状態で俺が目を醒ますと、椅子に座っている俺に対して片膝をついて跪いている白い布を身に纏っている輪郭がぼやけた人物と、さらにその後ろに赤、青、緑、黄色の布を身に纏った人物が同じように片膝をついて跪いていた。


『精霊神殿』というキーワードが頭に浮かんだ時点で此処に居る人物が俺と契約している精霊エスト、サラ、ラクス、フィー、ティアの4人である事は確定しているのだが。


「例によってマスターの精神体だけをこの地にお呼びいたしましたので、マスターの御身体は聖域の地に於いてゆっくりとお休みになられています」

「此処に来るのはティア、ラクスと本契約して以来だな。今日は如何したんだ?」


俺のその問いに答えたのは何処か迷っているような感じのエストだった。


「これからお話しする事はマスターにとっても可也重要なことになります。本当は何も知らせずにいた方が良いのではと思いましたが、遅かれ早かれ分かる事なので意を決してお話しします」

「それを聞く前に教えて欲しいんだけど、今から聞く事は俺にとって良い話? それとも悪い話?」

「聞き方によってはどちらにも捉えることが出来ます。それで話しても宜しいでしょうか?」

「あっ話の腰を折ってゴメン。続けて」

「と言っても其れほど長い話ではないのですが、心して聞いてください。マスターは私達と契約を結んだことにより不老となられました。申し訳ございません」


そう言ってエストを始めとする5人は両足両手を床に付けた状態から頭を下げる所謂土下座の姿勢で俺に謝ってきた。


エストはなんて言った? 不老? 不労ではなくて?

大体は俺の考えている通りだと思うが念の為に聞いてみる事にする。


「えっと『ふろう』って……」

「マスターは私達精霊と完全契約した事で、この世界の創世の頃より存在している私達の力を受け継ぎ、老いない身体を手に入れてしまったんです。勘違いしてしまわれないように言っておきますが、あくまで『不老』であって、『不死』ではないので御注意してください」

「ちょっと待て! それじゃあ、俺はこのまま齢を取らないで生き続けるって事か!?」

「誰かに殺められたり、自らその命を絶ったりした場合は死んでしまわれますが」


やっぱり『不老』か……喜ぶべきか、悲しむべきか。


「先に申し上げました通り、いずれ分る事でしたが意を決して話させて頂きました。罰は如何様にも」

「エストが悪いわけじゃないから謝らなくて良いよ。元はといえば俺が古代遺跡で不注意に壁の宝石を触ってしまった事が原因なんだから。もし誰かを責めるとしたら俺自身の罪だろうから」

「そう言って頂けると心が休まります」

「まてよ? 不老だって言うんなら、此れまでの契約者はどうなったんだ。前回の契約者は何処かに封印されたって言ってたけど、精霊との契約を解いたら止まっていた時間が動き出すとか?」

「いえ精霊との契約が解除される時は契約者が命を落とす場合だけとなります。此れまで私達のマスターとなられた方々は何れも誰かの手で殺められたり、自ら責に耐えられずに命を落したりしました」


そういえば『不死』ではないと言ってたな。致命傷となる傷を受ければ普通に死んでしまうという事か。


「ちなみに今までの契約者って、どんなだった?」


俺の口元を綻ばせながら発したその言葉に未だ頭を下げている4人は勿論、説明していたエストまでもが体勢を崩してコケそうになっていた。


まさに今の空気を読めと言わんばかりに皆が皆、俺に顔を向けてくる。


「え、えっと、マスター? 不老に成るんですよ? それってつまり齢をとらなくなるって事何ですよ!? もっとこう……この世の終わりみたいに思わないんですか?」

「別段、何とも思わないかな。この世界にエスト達以外の家族は居ないし。同じ冒険者のイディアとかジェレミアさんの事は気になるところだけど……死ぬときは皆、孤独だからね。何かがあって一家心中するって言うんなら別だけど」

「マスター……そんなので良いんですか?」

「まぁ気にしない気にしない。それに如何あがいても結果は変わらないんだから、精一杯生きてみるさ」

「ハァ、もういいです。それで前の契約者について聞きたいんでしたね。私達は創世の頃より生きているので、それこそ今までの契約者は星の数ほどいました。その中から最も印象に残っている方を選ぶとすると、今から約27000年前の契約者ですね」


2万7千年前って……。


「この方は世界の謎を紐解く学者でした。この方もマスターと同様に『不老であるならば、研究のし放題だ!』とよく口にしてましたね。実際に私にも歴史書に書かれていた内容の真実を聞いてきたりもしてましたから」

「考古学者にとっては垂涎すいえんの存在って事だったか。でもそんな存在が研究をそっちのけで自ら命を絶つとは考えにくいな。最後は如何だったんだ?」

「本人の御家族から、当時のマスターが齢を取らないのは魔物が彼に化けている所為だと思い始めた事で、所謂いわゆる魔女裁判に掛けられて執拗な尋問、拷問に掛けられた挙句、牢の中で命を落としました。亡くなってから遺体を魔物専門の研究者達が解剖して調べましたが、何処にも魔物と証明できる物は見つかりませんでしたが、当時の指導者たちが不老の秘密を研究しようとして当時のマスターの身体をバラバラにし、その血肉を喰らい、家族・親族の身体をも研究対象に仕立て上げて、後に名を本に記す事をも許されない狂王国と呼ばれるまでになりました」

「狂王国……狂った王の国って事か? それとも王国自体が狂っていたという事か」

「そして当時の狂王国はというと、年を重ねるごとに名を変えて形も変えて現在はこう呼ばれています。帝国グランジェリドと……」


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