六、無知なる子ども
ルーエンの怪我を治して、レオを落ち着つかせて。
なんだかんだと、ルーエンもネグやカロズと同じく、色々と訳あってこの国や祈りの家と距離を置いていることを聞いた。
敵視と言っていいくらいの様子を見るに、聞いた話以上に複雑な理由があるのは明白だし、ヘクタに対して特別思うところもあるような言動が見られるけれど、そこまで込み入った話は遠慮させてもらう。
ということもあって、自分のことを言っても然程問題ないのでは、ということでネグの時と同じように話してしまうことに決めた。
お互いに秘するべき事があるなら軽々とは漏らさないだろう、という思惑もあって。
さらに言うのなら、慌て損とまでは言わないけれど、あの時の気持ちのほんの些細な仕返しの意を込めて、唐突に打ち明けるような流れになった。
体をどうにか起こすルーエンを見つつ、ネグと話した内容に近い話を済ませる。
「……大丈夫ですか?」
「あー……はは」
だいじょぶ、と少しも問題ないようには思えない返答が上の空で返ってくるのを見て、レオと二人で顔を見合わせながらそっとすることにした。
私の所為な気がしなくもないけれど、気にしてはいけない。
「それで、レオはどうして泣いていたんですか」
「ぃん。にいちゃ、もうあえないって」
「お兄さん?」
「ぅい。めーにぃちゃ」
「めー……、メート、メラクト?」
「ん!めーにぃちゃ、てよんでって。なんか、おわかれだって。ネスお姉ちゃんをたよってがんばれって」
「はぇ……」
よく分からなかったけど寂しくて悲しい、と再び顔を埋めにきたレオの頭を撫でていた手が止まった。
あまりの事態に固まった体に反して、そのレオの言葉で半ば強制的に動かされる思考が嫌な方向へと突き進んで行く。
まさか、まさか。
この後に及んで何も知らない子どもを放っていくなんて、そんな、そんなひどい事。
するわけない、よね……?
顔を埋めたままのレオに感謝しつつ、顔を顰めているだろう自分と、そんな様子を心配そうに見るルーエンにまでは気が回せそうになかった。
*
どれくらい経ったか、そろりと上げられたレオの瞳は不安で揺れていて、そこには酷く歪んだ笑みを浮かべる私が居た。
純粋で、可哀想で、可愛い可愛い愛すべき子ども
手放すのことも、手放されることも知らない
無垢で無知なる、可愛い子ども
「ぁ……」
あなたは だぁれ?
真っ白になった頭の片隅で、首後ろにぽたりと落ちた冷や汗がそのまま背筋を伝っていく感覚だけが浮かび上がる。
小さく握られたレオの手がまるで繋ぎ止める鎖のように思えて。
優しく、けれども力強く肩を掴む手は、いつの間にか音もなく立ち上がっていたルーエンのものだった。
固まってしまった体のまま視線だけで二人の瞳を覗き込めば、そこには先ほどの不気味な笑みとは違って、自分でも心配になるほどに顔を青くした私が居た。
けれども、何度瞬いてもあの歪んだ顔が瞼の裏に浮かび上がって、誰だという自問自答がひたすらに頭に響いて吐き気がした。
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