シーン9 置屋・廊下〜静の部屋 同夜
青井由太:ヒモ男児。聞き込みの天才(ただし深く考えていない)
神無月静:倒幕派の女間者。由太の“飼い主”
(静が帰ってくる。あたりは静まり返っている)
静:
(小さく)
「……ただいま」
(畳を鞘でコツンと叩く音)
コンッ
(しばらく間があり――静の部屋からガタッと音がする)
由太(部屋の中から):
「は、はーい! 起きてます、起きてます!」
(襖が開くと、髪ボサボサ・布団から飛び出してきた由太)
静:
「……“
起きているふり
”とは、もう少し上手くやれ」
由太:
「無理だよ、もう半分夢の中だったんだもん……
でもちゃんと“音”には気付いたでしょ?」
静:
「そこは認める」
(部屋には、温めておいた味噌汁と茶)
静:
「これは?」
由太:
「静さん、最近帰りが遅いから。
冷めないように、ずっと弱火で温めてた。
ちょっと味変わっちゃったかもだけど」
静:
「……飲む」
(一口飲み、ふっと表情が和らぐ)
静:
「……悪くない」
由太:
「さすがに三日目ともなると、静さんの好みもわかってきたよ。
塩は控えめ、出汁は強め、具は少なめ。
“戦場”帰りみたいな顔で飲むからさ、胃に優しい方がいいかなって」
静:
「戦場ではない」
由太:
「どこ行ってるか、聞かない方がいい?」
静:
「聞きたければ聞いてもいい。
ただし、答えるとは限らぬ」
由太:
「じゃ、聞かない。
俺、知りすぎて巻き込まれるのは嫌だから」
静:
「お前、臆病だな」
由太:
「臆病だから、長生きできるんだよ。
……その代わり、“帰ってきた後”の静さんの顔くらいは、
ちゃんと見るからさ」
(由太、まっすぐ静を見る)
由太:
「そういうのが、ヒモ男児にできる仕事だと思うんだ」
(静、少しだけ目をそらす)
静:
「……妙なヒモだ」
由太:
「でしょ?」
(外から、遠くの太鼓や怒号の音が響く。町が不穏にざわめく)
由太:
「……ねぇ、静さん」
静:
「なんだ」
由太:
「この町、これからもっと“物騒”になる?」
静:
「なるだろうな」
由太:
「そんな中でさ……
俺、ちゃんとヒモやってていいのかな」
静:
「いい」
由太:
「即答?」
静:
「お前は飯を作り、部屋を整え、
ここを“帰る場所”にしておけ」
由太:
「……帰る場所」
静:
「刃を振るう者にとって、それがどれほど貴重か、
お前にはまだ分からんだろうが」
(静、由太の頭に軽く手を置く)
静:
「お前は、お前の戦場で戦え。
竈の前で、布団の上で、人の話に耳を傾けながら。
それでいい」
由太:
「……わかった」
(由太、照れたように笑う)
由太:
>こうして俺は、
>“幕末ヒモ男児”としての一歩を踏み出した。
>まだ何もわかってなかった。
>この京都が、
>本当の“戦場”になるってことも。
(京の町の上に、不穏な雲。
遠くで新選組の旗が翻り、浪士たちが暗がりを走るシルエットが重なる)
第1話、お読みいただきありがとうございます。
感想若しくは評価をいただけると光栄です。
よろしくお願いいたします。




