シーン4 土佐藩士の宿
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
武市半平太(35)
土佐藩士。京で活動する尊王攘夷派の中心人物の一人。
由太は宿の前に立つ。
緊張する。
由太:
「……怖いな」
一歩下がる。
由太:
「帰ろうかな」
もう一歩。
静の顔が浮かぶ。
由太:
「……駄目だ」
中へ。
番人:
「何者だ」
由太:
「青井由太です」
番人:
「何用」
由太:
「武市半平太さんに会いたい」
番人:
「帰れ」
由太:
「ですよね」
帰りかける。
止まる。
由太:
「いやいやいや」
番人:
「何だ」
由太:
「神無月静が捕まった」
番人の表情が変わる。
由太:
「武市さんなら知ってると思う」
番人:
「待て」
中へ走る。
しばらくして。
武市半平太が現れる。
武市:
「君が青井由太か」
由太:
「知ってるんですか」
武市:
「静から聞いている」
由太:
「何て?」
武市:
「妙な男を拾った、と」
由太:
「それだけ?」
武市:
「炊事だけは使えるとも」
由太:
「ひどいな」
武市:
「今はその話ではない」
由太:
「静さんは?」
武市:
「捕らえられた」
由太:
「どこに」
武市:
「分からん」
由太:
「またそれ?」
武市:
「こちらも探している」
由太:
「誰が捕まえたの」
武市:
「土佐藩内の反勤王党派だ」
由太:
「なんで」
武市:
「私の動きを探るためだ」
由太:
「じゃあ静さんを餌に?」
武市:
「……そう考えるのが自然だ」
由太:
「助けに行かないの?」
武市:
「行けば罠にかかる」
由太:
「だから行かない?」
武市:
「多くの同志を危険にさらすわけにはいかん」
由太:
「……」
武市:
「分かってくれ」
由太:
「分かりません」
武市:
「由太」
由太:
「静さん、武市さんのために働いてたんでしょ」
武市:
「そうだ」
由太:
「なのに?」
武市:
「だからこそだ」
由太:
「俺には無理」
武市:
「何が」
由太:
「大勢のために一人を諦めるとか」
武市:
「政治とはそういうものだ」
由太:
「俺、政治家じゃないから」
武市:
「……」
由太:
「ヒモだから」
武市は思わず眉をしかめる。
由太:
「だから一人を助ける」
武市:
「どうやって」
由太:
「それを考えます」




