第二十二話 お願い
『お願い…』
眠っていたユウガの頭に響いた声は五カ月ほど前に一度聞いたことがある声だった。
ユウガは今、ある空間にいた。前にも来たことがある。
そう、世界の狭間だ。
そして、前に来たときと同じように、その場所には金髪の女性が立っていた。
「久しぶりだな。」
ユウガは今までここに来たことを忘れていたが、今この瞬間、思い出した。
だが、最初にいた神殿のことは思い出していない。
「お久しぶりです。ユウガ。」
その声は絶対に聞いたことがある。その顔も絶対に見たことがある。なのに誰なのか分からない。顔を見ても今は白いモヤがかかっていて、うまく認識することができない。
声もだ。しっかり聞き取れる。なのに誰の声なのかが分からない。
「お前はなんでまた、俺をここに呼んだんだ。」
「私は、あなたに、ユウガにお願いがあるのです。」
世界の狭間にいる人がユウガにお願いをするなど、どうせまたとんでもないことになる。
そう思った時、その人は話始めた。
「神殿を巡って欲しいのです。世界各地にある神殿を巡ることは、決して簡単なことではありません。ですが、どうしてもあなたにお願いしたいのです。」
その人はどうやら真剣な様子だった。真剣にユウガに頼んでいるのだ。それを聞かずに無視するような人ではユウガはなかった。
「神殿を巡るのはいいが、どうして巡らないといけないんだ?」
今分かっていることはその人が凄く真剣だということだけだ。それだけではあまりに危険を犯す理由がたりない。
「神殿を巡ってあんたにいいことがあるのか?」
「はい。私だけではありません。あなたにも、そして、世界にも。」
「俺にも、世界にも?」
「はい。どんな事があるのかはまだ言えません。」
なぜユウガが神殿を巡らなければならないのかはまだあまりよく分からないが、その言葉に嘘はない。不思議とそう思えた。
だからユウガは決めた。
「いいぜ。全部の神殿に行ってやるよ。任せとけ。」
「ありがとう。ユウガ。」
彼女はどこか安心したような、優しい声でそう言った。
その瞬間、彼女の顔が見えた。優しい笑顔でほほ笑んでいた。その顔をユウガは知っている。
だから声を出して彼女の名前を呼ぼうとした。
だが、名前を呼ぼうとした時には既に目を覚ましていた。
「え…」
目を覚ましたユウガは神殿を巡らなければならない。そのことだけを覚えていた。
ユウガが起き上がり、宿の外に出た。
空を見つめるとまだ夜だった。外には誰一人出歩いていない。
「神殿を巡らなきゃな。」
なぜそう思ったのか、ユウガには分からない。
だが、絶対に巡る。なぜか、その考えが心に刻まれていた。
「ユウガ?」
後ろには、長く薄い金髪の少女エリスがいた。
「どうしてエリスがここに?」
「それはこっちのセリフよ。変な時間に目が覚めたらユウガがいなくなってたんだもん。」
「悪い悪い。」
エリスは少し間を空けて聞いた。
「どうして神殿を巡るの?」
エリスはさっきのユウガのつぶやきを聞いていたのだ。
「分からない。だが、巡らないといけない。そんな気がする。」
「私も。なんだか、そんな気がするの。」
「なあ、エリス。神殿ってなんなんだろうな。」
「そうね。不思議な存在だもの。私にも誰にも分からない。」
「そっか。」
ユウガとエリスは少し話した後宿に戻った。
明日は神殿を巡ることをあの二人にも話そう。そう思った時だった。
「■▲◯□◯■✕▽◎▷▣⦿▲✕▶◎□▲▣◯□■◀✕⦿。」
「なんだ。この声。」
何か分からない音。それをユウガはなぜだか誰かの声だと認識した。
一体何だったのだろう。そう思った時、ユウガは世界の狭間ではない別の空間にいた。
そこには禍々しい何かがいた。
「▣⦿▲✕▶■✕▽◎▷⦿◀▣。」
何言ってんだ。そう思った時だった。
「そうだったね。この言葉は君には分からないんだったよ。」
禍々しい何かはユウガの分かる言葉で話し始めた。
「君にお願いがあるんだ。」
は?お願い?ユウガがそうしゃべろうとした時、声が出なかった。
「君に世界の狭間の住人を殺してほしいんだ。」
禍々しい何かは淡々と話し始めた。
意味がわからない。なんだ、世界の狭間の住人とは。コイツは一体何を言っているんだ。
「そっか、覚えていないんだったね。じゃあこのお願いは次の機会に頼むよ。次のお願いはね、君に、オガミ・シュウを殺して欲しいんだ。」
意味がわからない。なぜユウガが師匠を殺さないといけないんだ。
「君にはね、素質があると思うんだ。いつか俺の元へおいでよ。その時にまた、話をしよう。そういえば、『オガミ・シュウを殺す』このお願いは絶対だから。君に拒否権はないからね。じゃあね。またいつか。」
禍々しい何かは淡々と話していたが、どこか機嫌がいいように見えた。
そして、ここでの出来事も目を覚ましたユウガは覚えていなかった。




