第40話 KESHIMURASAKI
僕の誕生日以降、
花菜と会う回数は一見してわかるほど
少なくなった。
自分の勉強量が少ない事が一番の要因だが
胸を張って花菜を誘える自信がなくなっていた。
また、おこられるのではないか、と内心考えてしまう。
そしたら嫌われてしまうのではないか、
そう臆病になってしまっていた。
花菜と学校で目が合ったときや
花菜から連絡が来た時だけ応じるようにしていた。
先日の事だけが原因ではない。
それを引き金にふと思い出してしまったのだ。
僕達の冬の時代を。
そんな事を考えてばかりで
結構受験勉強の進みは悪く
ボンヤリしていたら、
吉田が話しかけてくる。
「いよいよ最後のイベントだな。
中にはこんなタイミングでやんなよって奴も
いるんだろうな。」
「えっ?」
「校外学習だよ、校外学習」
「あ、あぁーー!
そうだよなー。受験近いもんな。」
「俺はいいと思うけどな。
受験勉強してるからこそ
こんなタイミングだけでも息抜きの時間ある方が」
「そうだよな。高校生活最後まで楽しまなきゃだよな。」
「そう、その意気だ。楽しもうぜ。」
吉田に言われたことで思い出した。
今週校外学習があるのだった。
いっても、近場の歴史巡りってだけだが
高校3年のイベントとしては最後になる。
僕は依然悩んでいた。
通例としてはカップルは終了後
その場で落ち合って
デートするなり、勉強するなり、
アフターイベントがあるのだが
そこに誘っていいものか
会いたい気持ちが強く
強ければ強いほど
花菜の本心を聞けずにいた。
ついこないだまでなら
何も考えずに誘えてたものが不思議な話だ。
今頃になって志望校別模試を受けなかった事も
ほんの少しだけ後悔した。
きっと僕なりに精一杯受験に焦っていた。
そういう事なんだと思う。
ようやく机に向かっても
体感で半分の時間は花菜の事を考えていた。
そんな日々を数日過ごし
校外学習の前日の夜を迎える。
結局答えも出せないままだった。
濃いピンクの通知灯が目にはいる
少しだけ息を整えてメールを開く。
【校外学習のあと、どうする?
何もなければ勉強しに行くけど】
どちらが本心か今の僕には分からなかった。
僕は
【カップルは結構デートとか勉強とかしてるよね。
花菜の都合に合わせるよ。だからどっちでもいいよ】
最大限本心を隠した返信をした。
【どっちでもいい。って、うーーん。
そんな言い方なら友達と勉強しに行こうかな。】
僕は失敗した。とすぐに理解した。
【ごめん本当は会いたい。
でも花菜が勉強大事なら、
優先してほしいっていう気持ちも嘘じゃない。】
弁解のメールを書く
はじめからそうしとけば良かった。
【うん(笑)会お。】
【ありがとう、楽しみにしとく】
【わたしも】
楽しみまで書いてほしかった。
なんて細かい欲すら湧いてしまうほど
僕は花菜を求めていた。
だが、なんとか会う約束ができた。
校外学習当日
全体集合があったあと
事前に決まっている班で行動する。
僕達の班は
事前に決めたルートを足早に周り
証拠写真を取って早々に学習を終わらせた。
その後は持ってきた私服に着替え、街の方に移動する。
少しの罪悪感と背徳感がより楽しみに変わっていく。
だからといってしたいことはなく
カラオケとゲーセンでダラダラと時間を潰すだけだった。
ただ、皆受験勉強に疲弊していたので
久々の遊びにテンションは最高潮だった。
そんな中でタカヤが話しかけてくる。
「最近、上田とは仲いいの?」
「うん、まぁぼちぼちって感じ
でも、しくじっちゃって、若干気まずい。」
「あー、やっぱり。
上田と移動教室の時に会って
ちょっと話した時に何か変な感じだったから。」
「悪いのは僕の方なんだけどね。
そっから気持ちに素直になれないっていうか。
なんかモヤッとしちゃってる。」
「まぁ、2人は結構長いし、そういう時もあるよな。
受験も控えてるし、不安定なんだろうな。
耐え時というか、さ。」
「耐え時、か。耐えられるかな。」
「大丈夫じゃないの?好きなんだろ?」
「僕は好きだよ。でも花菜の気持ちまで分かんないから。」
「いつになく、弱気だな。
この後会うんだろ?
ちゃんと話したほうがいいんじゃない。」
「逃げてちゃダメだよな。頑張るよ、ありがとう。」
こうやって親身になってくれる友達がいるのは
とてもありがたい。そう思う。
そんなこんなで再集合の時間になる。
僕達は律儀に着替え、集合場所に戻る。
全体の終礼が終わり。
寄り道するなよ。と釘を差されながら
シレッと家とは逆方向の電車に乗り込む。
花菜とメールをしながら、
車両を移動して落ち合った。
「おつかれ、久しぶりだね。」
とりあえず平静を装い挨拶をする。
「おつかれさま、ひさしぶり。」
いつも通りの笑顔で花菜が返事をする。
「どこ行ったの?」
「〜と〜かな?そっちは」
「ささっと予定のとこ周って遊んでた」
「相変わらず男子はー」
そういって花菜は笑う。
「この前は最後ごめんね。
あれからさ、気持ち切り替えて頑張ってみてる。」
「そう、だよね。
連絡とかも少なくなったし会う頻度も減ったよね」
「花菜のためっての勘違いしてたんだと思う。」
「そっかー。お互い頑張ろうね!」
いつもの花菜に戻った気がした。
そこからはデートを楽しむ。
男子とも行ったけど、
本日二度目のカラオケや普段来ない街をブラブラする。
「受験終わったら、もっと花菜とこうやって遊びたいな。」
「そうだね。遊びたいね。」
「でも花菜と会うと楽しくて嬉しくて
一瞬受験がどうでもよくなる。」
「それはダメじゃん」
そういって花菜は手にしてたココアを一口飲む。
「勉強の調子はどう?」
花菜がそう聞いてくる。
「うーん、ま、なんとかなるんじゃないかな?
高校受験も何とかなったし」
「そっかー」
花菜は僕のまだ綺麗な参考書を
フと見た気がした。
僕は視線をそらさせるために聞く
「花菜はどう?」
「もうずーっと不安だよ。
やってもやっても足りない。」
「端から見ても花菜頑張ってると思うし、
きっと大丈夫だと思うけどね」
「そうかな、でも周りもすごい頑張ってるから」
僕は少しだけ胸がキュッとしまる感じがした。
「僕も頑張るよ」
「うん、一緒に頑張ろ」
「花菜、大好きだよ。なんてね」
「急になに?(笑)わたしも、なんてね」
「今日は帰ろっか。
私はちょっと勉強してから帰ろうと思う。」
「僕も塾に寄ろうかな。」
「うん、それがいいよ。」
そう言って方向が変わるまで一緒に帰る。
「じゃあ、またね」
そういう花菜は何かを心で決めた
そんな表情をしてた。
僕も勉強頑張ろう。
そんな表情をしているつもりだった。




