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安定した生活ー完ー

 岩石地帯で俺とにらみあっているのは、ライオンの頭と体をもち、体から羊の頭を生やした四つ足の魔獣、キマイラ。


 その異様な姿は、ゴブリンやオーガに慣れた俺でもちょっと嫌悪感を覚えるほどだ。


 ライオンの口は火を噴き、羊の口は頭に響く嫌な超音波を出す。そして、爬虫類系のしっぽは触れると麻痺する毒成分を持っている。


 そんな相手をわざわざ倒しに来たのは、レベル上げのため。

 レベル28になった俺は、もうその辺の魔物を数匹倒しても意味がない。


 命を落とす危険は大きくなるけど、魔物の領域に入り込み、強い魔物を倒していかないと、レベル30まで届かない。


「まろん、つばさ、頼む!」


 炎が全身を包んでいる小さなハツカネズミ、火の妖精まろん。

 緑色の翼を持つ大きなワシ、風の妖精つばさ。


 2匹の連携技は、市街地や森の中では使えない。

 つばさが出した風を吸収して、まろんは自らの体を大きな炎へと変化させる。そこへ今度はつばさが突っ込んで行って、大爆発を起こす。 


 大爆発に巻き込まれたキマイラは毛皮が焼け焦げ、羊の方は気絶している。キマイラは殺意に満ちた顔で俺たちに咆哮を放ち突進してきた。


「くっ!」


 ライオンの牙と爪の攻撃を回避し、キマイラのしっぽ部分を氷の剣で攻撃して切り落とす。大きな体をしているくせに、キマイラの動きはかなり素早い。


「ななみ、足止めしてくれ!」


 茶色の毛並みをしたウサギ姿の土の妖精にキマイラの動きを封じるように命令すると、キマイラの足場を粘土質の土に変化させ、体に絡みつけたあとで一気に乾燥させる即席のトラップを発動してくれた。


 火の妖精まろんが「あ、これは私の出番!」とばかりに、キマイラごと乾燥した土を高温火力で焼いたことで、拘束されたキマイラは完全に身動きが取れなくなった。


 うなりながら俺に向かって火を噴くキマイラの首を跳ね飛ばし、ライオンの胴体から羊の頭も切り離す。


「お、レベル上がった! 皆ありがとう」


 討伐に協力してくれた妖精たちに感謝しつつ、このキマイラのオブジェをどう処理したものかと悩む。


 ななみの粘土をまろんが焼くと、釉薬を使ってないのにかなり頑丈な仕上がりになるのは、2匹に協力してもらって食器を沢山作ったから知っている。


「ななみ~。大きな穴を掘って、キマイラの死体全部埋めちゃって!」


 土の妖精に後始末をお願いして、その間に火傷したところを光の妖精ももかに治療してもらう。


「ももか、治癒魔法頼む」


 真っ白な長毛ペルシャ猫系、もふもふ担当のももかちゃんが全身を光らせて治癒魔法を発動してくれたので、ヒリヒリしていた火傷はすぐに治った。


「さんきゅ」


 トントン、と足の甲を叩かれたので足元を見てみると、ウサギのななみが「おわったよ」と教えてくれた。この子も毛はもふもふしているけど、あまり触らせてくれない。


「じゃあ、帰るか。あおいー」


 水の妖精あおいは、水の体を持つ馬。しっぽの先からひずめまで、全部ウォーターボディの駿足娘。俺を乗せて走ることもできる芸達者。


 ただし、妖精の姿は契約者にしか見えないので、他人に見られたらとてもシュールな光景になってしまうため人里近くでは絶対に騎乗できない幻のお馬さん。



 ホヨテルの城壁が見えてきたあたりで、馬のあおいから降りて歩く。


「ただいまー」


 郊外に買った家に帰ると、出迎えてくれたのは通いの家政婦リタさんと居候兼家政婦見習いのミスト。


「おかえりなさい、トーヤさん」

「おかえりなさい」

「ただいま。ねえ、お腹すいてるんだけど、何かある?」

「あら、じゃあ、すぐに用意しますね」

「お願いします」


 リタさんは日中来て、昼食、夕食、朝食の準備と仕込みをしてから帰って行く。料理しながら家の掃除や洗濯、買い物などの指示をミストに出してくれるので、俺は快適な生活を送っている。


「トーヤさん」

「なに?」

「あのね、リタさんが、裁縫道具と布を用意して欲しいって言ってました」

「布? 何か作るの?」

「トーヤさんの服を縫ったり、服の修繕とかに使いたいって」

「わかった。俺が買って来た方がいいの?」

「うん。裁縫道具を買ってくるのは私でもいいけど、布はトーヤさんが選んだ方がいいんだって」


 確かに肌触りとか色とか好みがあるから、俺が選んだ方がいいだろう。ミストに任せて微妙な色合いの布を買ってこられても困るし。


「じゃあ、ついでに裁縫道具も買ってくるよ」

「はい。じゃあ、リタさんに伝えてくるね」


 5LDKの家の1室をミストの部屋にして、俺の私室は2人とも立ち入り禁止。風呂は俺とミスト共同で使用して、トイレはミストとリタさんが共同。


 私室では錬金術をこっそり使っているので、掃除や片づけは自分でしているけど、寝室は家政婦さんにお願いしている。一応安全のために、俺とミストの部屋には内側からカギがかかるようにしてある。


 錬金術部屋は、外からも中からもカギをかけられる最重要部屋。まあ、無許可の錬金術師だと知られたところで別に痛くもかゆくもないけど、念のため。


 庭には土の妖精ななみが耕した畑があるけど、俺が畑仕事に飽きたので、今ではリタさんとミストの仕事になっている。

 錬金術用の薬草畑として始まった畑は、普通の家庭菜園になって新鮮な野菜やハーブが植えられている。


 念願の朝食は、リタさんがパンの生地を仕込んでくれた翌日は朝食にパンを食べることができるようになった。


 この辺では朝は茹でた芋やあっさりした果物が主流らしく、朝からパンや米を毎日食べたいってのは、朝焼肉や朝パスタくらい主婦にとって驚きのリクエストだったようだ。


 米は水だけで炊くと美味しくないので香辛料たっぷりのチャーハンや味濃いめのピラフが主な料理法だったけど、朝はできるだけシンプルな味付けをお願いしたところ、出汁を入れたりいろいろ工夫して薄味の白米を出してくれるようになった。


 仕事じゃなかったら絶対にやってくれないだろうなぁ、と薄味を研究するリタさんの反応を見てちょっと反省しつつ、朝食のリクエストは撤回しない。それに、実際朝食を作っているのはミストだし。


「お待たせしました」

「おぉ、うまそうですね」


 肉と野菜たっぷりのポトフとパンが運ばれてきた。

 美味しいお米の炊き方研究に俺が金を惜しまなかったので、我が家のキッチンは調味料や調理器具が沢山ある。それとリタさんの料理のスキルが合わさると、最高に美味しい食事が誕生するので大変ありがたい。


 食費もひと月金貨1枚を渡しているので、リタさんが欲しいと思う調味料はいつでも購入可能だ。食費にしては多すぎると言っていたけど、余ったら返してくれればいいし、俺の食が充実するなら好きなように使って欲しいとお願いした。


 ミストもリタさんに鍛えられて料理スキルが芽生えたので、どんどんスキルレベルを上げて欲しいと思っている。


 食用の魔物の鳥を生きたまま持って帰ってきて風呂場でミストにとどめを刺してもらって、ミストのレベル自体を上げてやろうかと、そんなことまで考えている俺はいい兄貴分になったと、自分の内面の成長に感動を覚える。


「明日、布と裁縫道具買ってきます」

「お願いします」

「いえいえ。俺の服になるんですし、こちらこそよろしくお願いします」

「サイズは今の服に合わせて大丈夫ですか?」

「はい。でも、服なんて縫ってる時間ありますか?」

「トーヤさんがお出かけしている間に作るので、ゆっくり仕上げますよ。それにミストちゃんが手伝ってくれますから」


 レベル上げだー、ダンジョン攻略だーっと、数日家を空けることが多い俺。

 ミストの分の食事だけなら手間もかからないだろうし、暇な時間もあるんだろう。


 翌日、馴染みの布屋に行って、布と裁縫道具を購入した。


「あら、お兄さん。今日は仕立てなくていいの?」

「はい。家で縫ってくれる人がいるので」


 嘘は言ってない。

 縫ってくれるのが嫁とか恋人とか家族じゃないだけで。


「あらぁ! よかったわねぇ!」


 楽しそうなおばさんからそっと目をそらし、気に入った数種類の布を抱えて持つ。

 金貨3枚分の布だと言ったら、リタさんにまたお金の使い方についてレクチャーされる羽目になるかもしれないので、金貨1枚だとごまかそう。


「じゃあ、また来ます」


 沢山買ったうちの1枚は淡いピンク色をしている。リタさんに預ければきっとミストのワンピースになるだろう。  


 金があって、帰る家があって、かわいいペットたちがいて、美味しい食事がでてくる生活。


 アルファやロージーみたいに恋人と過ごす華やかさはないけど、これはこれで幸せだ。



 ー完ー




次の話はフランス人形の会話劇です。

青の扉の世界は100年問題を解決して無事に100年と1日目が始まりました。転生者は日本に帰ったり、帰らなかったり。


トーヤの世界が100年後どうなったのか知りたい方は、次のページをどうぞ。



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