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異世界に転生しました

 赤い扉の先は、小石の多い川辺。太陽が昇っているから、今は昼で、薄い半そでのシャツ1枚で寒くはないし暑くもないから、季節は春……と勝手に予測。


 フランス人形いわく、俺たちプレイヤーは自分が操作していたキャラクターの体に心を入れてある状態。つまり、俺の外見、金髪の外人顔らしい。鏡がないのでまだ実感できないけど……。

 

 オッドアイの誘惑に負けなかった先週の自分ありがとう。


 背負っていたリュックの中身は見覚えのないタブレット端末、買った記憶のないコッペパン1本、意味が分からない食卓カバー、ステンレスっぽい素材の水筒1本、そしてお金が少し。


 ゲームプレイ中に新調した装備品一式全て没収されて、初期装備の布のシャツとチノパンと木の皮でできた靴を身に着けているだけ。


 これはレベルもニューゲーム状態を覚悟した方がよさそうな展開だ。俺の一週間……。


「しかし、これが一番いらねぇ……唯一のコッペパンを大切にしろってか」


 リュックの中身をひっくり返し、一番使い道のわからないものを手に取る。

 どうみてもおばあちゃんの家で活躍していた虫除けの小さな食卓カバー。紐を引っ張ると傘のように開いて食材を虫やほこりから守ってくれるやつ。


「いや、似たジャンルで折り畳み傘をくれ」


 開いたままポイっと投げたら、小石だらけの地面にうまいこと着地して、30センチくらいに開いた傘の部分が人が入れるほどに巨大化し、立派なテントへと成長した。


「は!?」


 とりあえず中に入ってみる。


「広い……そして明るい」


 180近いト()ヤの体で、テントの中を普通に立って歩ける高さもある。

 天井から垂れ下がった紐の先にはランタン型のランプがくくりつけてあって、昼でも夜でもテントの中は明るさを確保できるようになっていた。


「あー。ここで調節ね」


 ランプの正面にあるつまみをいじると、光が大きくなったり小さくなったり。ただ、中の光を完璧に消すことはできないし、取り外して持ち運ぶこともできない。


 テントの紐から外そうとしたところ、俺が中にいる状態だったのにも関わらずテントはいきなり消えた。広い空、清らかな川、そして俺の手には畳まれた食卓カバー。


 もう一度カバーを開きテントを設置して、中に入る。


 1人用にしては広すぎるテントの中には、寝袋と四角い箱。

 下は小石がゴロゴロして不安定なはずなのに、ピンっと張られたビニールっぽい素材の床はどれだけ触っても小石の存在を悟らせない。


「これは実家に似たようなのがあった。座れる収納ボックス!」


 ということはつまり、この不思議テントの中にあるこの収納ボックスこそ、見た目の収納力以上の品が入る便利機能搭載のアイテムボックス! と期待してふたを開けると、収納ボックスではなく、簡易トイレだった。ふたの裏にはご丁寧にお尻ふき用のティッシュがセットされている。


「いらねぇ。この気遣いマジいらねぇ……いや使うけど、ありがたいけど、いや、でも、じゃあアイテムボックスは!?」


 すぐ確認できるものは全て確認した。

 残るは時間がかかりそうな黒いタブレット端末のみ。


「電源、電源……」


 タブレットの正面、側面、裏を確認するけど、押せるような突起はなし。


「なんだろ、ランプと一緒で電源オンオフできないタイプとか?」


 トントン、ツーとタブレットの画面をタップ2回、長押し1回。

 長押しが起動の合図だったようで、俺のステータスが表示された。


「レベル1、体力50、魔力30」


 初期装備になっていた段階で覚悟していたけど、レベル1。


「今はアイテムボックス優先」


 ゲームではとりあえず収納、万が一のために回復アイテム常に一定数キープ、普段使うアイテムは安い時に買いまくる、という悪癖がある俺。


 現実でもなんだかんだ荷物が多くなって実際持ち運ぶ時に重くて困る……なんてことが多々ある。まあ、荷物を減らすくらいなら根性で持ち歩くけど。


「ヘルプ発見」


 Q&A方式のヘルプ集を見つけた。

 答えているのはフランス人形のようだ。


 ア行の中にアイテムボックスの文字を発見した俺は、すかさずタップしてそのアンサーを見る。


『ゲーム上のアイテムボックスと同じ役割をするのは、テントの室内です。時間経過がゆっくりなので食材も傷みにくいですよぉ。ただし、生き物を入れ続けると命にかかわります。最長48時間経過したら1度外に出しましょう。プレイヤーの皆様もこれに当てはまります』


「ぃえぁー! ありがとうフランス人形」


 全体をさらっと読み流したところ、簡易トイレはかなり高性能だと判明。飛行機の中にあるトイレのように、シュッと汚物が流れ、文字通り消える。たまった汚物を自分で処理しなくていいなんて、なんてありがたい代物だろう。


 ヘルプを読み終え、ちょっと外を確認するとすでに夕方だった。

 これから移動するのは危ないので、テントを川から少し離れたところに移動して、今度はプレイヤー同士のコミュニケーションツールを起動する。


「グレン君、はっちゃけてるなぁ」


 すでに書き込みがかなりあって、一番最初の発言までさかのぼると、最初の頃はグレンというプレイヤーが1人で実況プレイしている状況が続く。


 ヘルプによると、フランス人形の想定よりもかなり多く赤い扉を選択したため、赤い扉組の平行世界全てをつなぐのはバグを招く可能性が高いという理由で、5人1組のメンバー固定で会話できる小規模チャット機能に落ち着いたらしい。

 

 グレンの冒険も川辺から始まったみたいで、俺と違ってすぐに移動を開始している。


 怪しいブルーベリーもどきを見つけて食べてみたり、リュックに入っていたノートパソコンを空に浮かべて歩きながら操作したり。


 そして、森の中でゴブリンにさらわれた女の子を救出したあたりで、他の3人が続々とコメントを書き込んでいる。どうやら、俺以外は早い段階でチャット機能を使っていたらしい。


 グレンの情報を頼りに西へ向かったロージーは、ゴブリンにさらわれた少女を助けに来た男たちと遭遇しプチパニックになりながらも、なんとか女の子と接触できたっぽいとか。

 

 グレンと逆方向に進んでいたアルファは急いで戻って、西に行き過ぎてゴブリンに襲われた村に到着してポカンとしてたり。


 異世界人の男女4人組パーティーを見つけ、尾行しながらチャットを読みはじめるギュードン。


【こんにちは。今からだともう遅いですかね? 女の子】


 この書き込みでチャットメンバー5人が勢ぞろいし、固定メンバー全員が男性だと判明した。



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