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ゲームしてたら異世界召喚されました

「食料は3日、いや、1週間分は用意しとくべきだろ……スーパーもコンビニもない場所に連れてくるならさぁ」


 用意された食料支援、わずか1食分。

 これはさすがに神の悪意を疑ってもいい案件だと思う。


「まずスタート地点がおかしいし、これもバグが原因だったら……結局は自業自得ってオチか」


 そもそも、俺が異世界の片隅で強制ソロキャンプデビューする羽目になったのは、1本の動画が始まりだった。


 新作ゲームの告知動画の再生回数はたった半日で数百万回を記録し、ゲーム事業新規参入の企業が出すオンラインゲームとしては異例の注目度だった。

 

 ゲームのクリア報酬が5億円、しかも指定の口座に一括振り込みという宝くじ企画が、普段ゲームをしない層にも受け、話題性だけで連日テレビやネットで騒がれる形になった。ドルやユーロ通貨であっても金額的には同額。


 もちろん、ぶっとんだ宝くじ企画に世間は賛否両論だったけれど、どの国も短期のイベントとして受け入れていた。親会社が5億配っても倒産しない世界的な大企業だったことで、ある程度信用できると投資家たちが判断したのが大きいとニュースで言っていた。


 5億円企画に参加するには、公表された条件をクリアする必要があるけど、その条件も元々ゲームをたしなんでいる層にとって難しい条件ではない。


・1週間限定、無料配信のオンラインゲームをプレイすること

・パソコン、2種類のテレビゲーム機、2種類の携帯ゲーム機でプレイ可能

・ネット回線必須

・16歳以上

 

 まぁ当然、公表された4種類のゲーム機本体は品薄どころか品切れになり、出遅れた人が1週間以内に入手できる可能性は消えた。高値での転売も飛ぶように売れたみたいだけど。


 幸い俺はそのうちの1つをすでに持っていて、大学の学生寮の自室はネット環境も整っていた。


 ゲーム自体は無料で参加できるし、クリアできなくても俺に損はない。お祭り騒ぎが終わった後に、ちょっとしたネタ話として活用できると軽い気持ちでゲームに手を出した。もちろん、ひそかな目標はクリア狙いだったけど。


 ゲーム配信直後から、学生の登校拒否が問題になった。16歳以下だと5億はもらえないけど、ゲーム自体はやろうとおもえばできるからだ。


 社会人の有給取得率が上がる一方で、正社員も非正規社員も無断欠勤、早退、退職、サボり、様々な社会問題が起こった。もちろん、ほとんどの社会人は真面目に仕事をしていたけれど、メディアは悪目立ちする少数派にばかり焦点を当てて、ゲーム運営会社の批判を多く流し始めた。


 俺はというと、どうせたった1週間のこと。

 どうしても出ないとマズイ授業は運よくこの期間を外れていたので、1週間ゲーム三昧の自堕落大学生へと身を堕とした。バイトはまだ面接前だし、完全に自由。親にバレたら確実に叱られる生活だった。



 ゲーム自体はありふれたRPGで、ゴブリンやオーク、スライムなど聞きなれた名前のモンスターを倒し、経験値をゲットしてレベルを上げるもの、だというのはゲーム告知動画を見てだいたい分かっていた。

 

 そして、ゲームをダウンロードして新たに判明したストーリーのメインクリア条件は、繰り返す100年の時間からの脱出。


『アーチェスと呼ばれるこの世界は、同じ100年の違う歴史を何度も繰り返している。選ばれた1人である君は、その勇気で、知恵で、心で、体で、100年後の新しい1日を目指し、時間が繰り返される原因をつきとめ、問題を解決してほしい。そうすれば5億円プレゼント!』


 ゲームのオープニングで突然現実に引き戻される「5億円プレゼント!」という文字。運営の笑いのセンスはともかく、俺はキャラクタークリエイトを始めた。


 性別は男で、キャラクター名はトーヤ。

 アッタマユートピア、にしようとしたけど、万が一最速でゲームクリアしたら公式サイトに載るかもしれない、という謎のかもしれない運転がアッタマユートピアを削除したので、無難な名前になった。


 金髪のナチュラルなツンツンヘアーとキリっとした眉を自分で選んで、瞳は青にカラー変更。ほかはデフォルトのままいじらず。


 そうして完成したのが、変顔パーツ一切無しのスタイリッシュなデフォルトフェイス、トーヤ君。


 年齢操作と種族変更の項目がなかったので、プレイヤー全員18歳のヒューマン固定。


 キャラクタークリエイト完了のボタンを押すと同時に、布のシャツとチノパン、木の皮の靴を装備した俺の分身トーヤはどこかの施設に送り出され、そこで戦闘のチュートリアルが始まった。


 正面には身長1メートルもない小柄な緑色のゴブリンが現れ、トーヤが素手で殴って倒す。ゴブリンは気絶し、トーヤの勝利。

 チュートリアルでは経験値はもらえないと説明され、レベルは1のまま。

 再び出現したゴブリンに対して、今度は渡された剣で切りかかる。緑色の血液の描写があり、絶命したと同時に体が消えてなくなった。

 

『これにてチュートリアルは終了です』


 このアナウンスを最後に、ゲーム上でプレイヤーは自由に動けるようになった。ただ、どんなに聞き込みをしても、レベルを上げても、100年の歴史とか繰り返しというワードが出てくることはなかった。


 ネット上では「クリアさせる気がない」「盛大な釣り」「だまされた」「つまらん」「体験版乙」などプレイヤーの批判や八つ当たりが増える一方「のんびり遊べて楽しい」「1週間後もやりたい!」「ソフト発売されたら買う」とハマった人も続出。


 俺もどっちかというとのんびり作業ゲームにハマった方だった。

 それからあっという間に1週間が経ち『アーチェスは0時にサービス終了します』というメッセージが運営から全プレイヤーに届く。


 ただし、世界中の情報が集まるネット社会の力により『0時にサービス終了致します。ありがとうございました』派と『0時に一般公開サービスを終了致します。続きをプレイしたい場合はゲームを起動したまま0時をお迎えください』派に分かれていることがほんの数分で露見した。


 続きをプレイできる可能性があるプレイヤー数は名乗りを上げるアカウントが少なく、嘘だと拡散され、嘘だと指摘されたアカウントが実際に届いたメッセージ画面を送付したものをネットに晒し、加工か事実かプチ論争が起こったりもした。


 そして0時になり、起動したままのゲーム画面に『繰り返す100年を終わらせる旅に出る』というコマンドが出現。



 それを選択した俺は【アーチェス】という異世界に身一つで召喚されてしまった。



「お集まりいただいた紳士淑女の皆様。初めまして。わたくしは案内人のシーと申します。えぇ、えぇ。疑問、質問、不安、怒り、困惑、様々な思いが皆様の頭と心を駆け巡っておられますね。ご安心ください、その全てをわたくしめが解決してみせましょう。ですから皆々様はアーチェスの問題を是非とも解決して頂きたいのです」


 ゴスロリ衣装のフランス人形が空中に浮遊している状況についていけない俺は、それでも何かを言おうとして、そして声がでないことに気付いた。


「落ち着いて、落ち着いて。声はそのうち戻りますよ。えぇ、えぇ。体も自由に動かせるようになりますよ。大丈夫です。わたくしにお任せください」


 そう言われて、手足が動かないことを知る。唯一動かせるのは、首から上。ただし、パクパク動く口から音は何も出ない。


 見える範囲に男女合わせて10人以上がいる。様々な髪色をしているくせに、全員同じ服を着ている。美男美女が着る無地のシャツとチノパンは、白で統一されたオシャレコーデに見える不思議。


「皆様にお楽しみ頂いたゲームは、現実として存在しているのです。えぇ、えぇ。卵が先かニワトリが先か。それと同じように、ゲームが先かアーチェスが先かという世界7不思議……というのは嘘です。あっちの世界にあふれるゲームを参考に、創造神がアーチェスを作り上げました」


 くるくると空中をゆっくり回転しながら浮遊していたフランス人形が、一瞬ビタッと動きを止めて嘘をついたと告白した。


「しかし、創造神の手を離れたアーチェスは文明を作り、歴史を積み重ね、そしていつも同じ日、同じ時に壊れるのです。そして創造神が手を離したその瞬間から再び始まるのを繰り返すのです何度も、何度も」


 フランス人形が両手を左右に大きく開く。


「その謎を解明するため、皆様には実際にアーチェスで生活していただきたいのです! 大丈夫、地球での皆様の生活は保障します。心の一部をそっと切り離してここに持ってきましたから、あっちの現(地球)実では皆様ゲームの続きを楽しんでいますよ」


 両手を広げてくるくる俺たちの頭上を人形が飛び回っている。話の内容に集中したいのに、動く人形の姿を目が追いかけてしまう。


こっちの現実(アーチェス)で問題を解決したらあっちの現実(地球)で5億円プレゼントです。その時には心の一部も帰れますし。もちろんどうしても嫌だって人は、今すぐ帰れますよー。さあ、もう足は動けますから、そのまま右の白い扉を通れば、あっちの現実へ戻れます」


 ふらっと動き出した数人が扉の前まで来て、少し立ち止る。

 俺はそれをジッと見守っていたけど、視界に入っているプレイヤーたちの顔が全員同じ方向を向いているから、皆そうなんだと思う。


「説明に戻りますよ。あの扉は最後までありますから、全部聞いて最後に戻っても大丈夫。ここの記憶は消えますけど……5億円手に入れたら記憶もそのままですからご安心ください。わたくし、基本的に嘘をつけない仕様なのです」

 

 それからしばらく無言の俺たちと、しゃべり続けるフランス人形というシュールな展開が繰り広げられた。フランス人形には思ったことが伝わるようで、プレイヤーである俺たちに声は返されなかった。


「ではでは、最終確認です」


 右の白い扉の方へフランス人形がふわりと飛んでいく。


「こちらの扉はあっちの現(地球)実へ戻れます」


 左側の青い扉の前でフランス人形がくるりとターンを決めた。


「青い扉はパーティーを組みたい方向けです。パーティーでクリアした場合、パーティー全員にそれぞれ5億支払われます。パーティーだけ組んで別行動もアリのおすすめコースになりますよー。そもそもこちらが本物の時間軸ですから、こちらで100年の問題が解決されたら万々歳です!」


 その隣の赤い扉の前でもくるんと回る。


「赤い扉はご要望によりたった今作成されたおひとり様専用です。ここにいる皆様と2度と会えませんが、連絡手段は一応用意しておきました。おひとりで旅をされたい方向けです。でも報酬の面では不利ですからお忘れなく! あと、急に増設した並行世界なので、すこーしバグが発生しているかもしれませんので、あしからずぅ……こちらで100年問題が解決された場合、提供された情報をもとに本物の世界軸でわたくしが攻略成功した場合のみ、報酬が支払われますぅ。おすすめしないコースになります」


 俺は、この中の誰かがリクエストしたおひとり様専用の赤い扉の列に並ぶ。

 どうせなら、俺以外全員異世界人の世界に行きたいと思ったからだ。そう思ったのは俺だけじゃないようで、俺の前にも後ろにも大勢プレイヤーがいる。

 青の扉の行列と比べると少し青の行列が長いくらい。


「赤い扉はおすすめしませーん! さっきも言いましたけど、デスペナルティに問題が発生したら心が破損して戻れなくなりますからねぇ!」


 今の俺たちは本体の心の一部だとフランス人形が言ったせいで、死ぬわけじゃないし、という安心感が芽生えた俺はフランス人形の忠告を右から左に聞き流した。


 赤い扉を通るギリギリで青い扉の列へ並びなおす人もちらほらいたけど。

 


 赤い扉を選んだのは俺自身の判断。フランス人形や運営()が悪いわけじゃない。それでも、コッペパン1本という配給に文句を言いたくなるのは仕方がないと思う。


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