第8話 -痛みと喜び-
「痛てぇ!」
俺は痛みと共に目を覚ました。
寝ぼけた目をこすって枕元の時計を見ると、デジタルの表示はAM7:00を示している。
(また、野球の夢か)
欠伸をしながら何気なく頭を掻いた俺の頭部に、ヒリヒリとした痛みが広がった。
(えっ!?)
混乱したまま、痛みの中心にゆっくりと手を当てると、ピンポン玉を小さくした位の範囲が1cm程盛り上がっている。
俺は飛び起きてクローゼットの扉を開けた。
中にあるのは、安物のくたびれた紺のスーツや学生時代から着ている私服だ。
(野球用品はない…よな!?)
部屋の中も見回してみるが、いつもの味気ないワンルームの陳腐な内装に変わった所はない。
安物のデスクに置かれたスポーツ新聞を手に取った。
(やっぱりLoosersなんてチームはないか…)
俺は苦笑いを浮かべながら、デスクの上に置きっぱなしになっている5個100円のクリームパンを口の中に放り込むと、水道水で胃袋に流し込む。
キツネに抓まれたような落ち着かない気分で、手早く身支度を整えると、会社へと急いだ。
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「お早う、鈴木くん!」
会社に着いた俺は、後ろから声を掛けられた。
(北原さんだ!)
「お早うございます、北原先輩!」
振り向いた俺に、北原さんは満面の笑顔を向けていた。
その隣にはアホの小島課長が不愛想な顔で突っ立っている。
(ゲッ、小島かよ~)
「鈴木!」
「あ、はい、お早うございます課長」
「豊島自動車さん、今年のカレンダー、ウチに発注してくれるそうだぞ」
ぶっきらぼうにそれだけ伝えると、小島は自分の席に戻って仏頂面で薄いお茶を啜り始めた。
「えっ!?豊島自動車?」
豊島自動車は、俺が先々週から新規開拓の営業に出ていた所だ。
俺は信じられない気持ちで北原さんを見る。
北原さんは親指を立てると、悪戯っぽく笑って言った。
「すずき~!よくやった~!!」