第23話 -奇跡-
「それで…、なんか俺も久しぶりに野球やってみようと思って、ケージに入ったんですけど、ピッチングマシンが暴走して…」
「あ!」
そう言われて、俺は思い出した。
確か俺が初めてあっちの世界に行った日の事だ、バッセンに救急車がやってきて、心配そうに眺める北原さんの横顔をボーッと眺めていた覚えがある。
「あの時、救急車に乗ってったのが佐々木君だったの?」
「はい…」
佐々木は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「大丈夫だったの?」
「はい、それで、気づいたら神宮のブルペンに居ました」
「あっちの世界か?」
「はい…、ブルペンキャッチャーからボールが飛んできて、それ受けたら僕、もうすごく怖くなって…。そうしたら、内線が掛かって来て『佐々木、行くぞ!』って」
「で?」
「必死に祈りました、夢なら覚めてくれって」
「で?」
「気づいたら、テレビで自分がリリーフカーに乗ってマウンドに行くのを見てました」
「それが俺か」
「多分…」
俺は絶句した。
野球に人生を掛けていた佐々木が、異世界に転生して諦めかけた野球で大活躍するという【奇跡】が訪れるのなら応援する気にもなるが、何故俺に奇跡が起きるのだろう。
佐々木にしても、せっかく一発逆転であっちの世界に行けたのに、そこで野球をやってるのが俺ではやり切れまい。
「僕、心底ほっとしたんですよ」
沈黙を破って佐々木が喋り始めた。
「ほっとしたと同時に、こんなメンタルの僕がプロでやってくのは無理だなって悟りました」
「でも、佐々木君…」
「いいんです、鈴木さん」
慰めの言葉を掛けようとした俺を制して佐々木が続ける。
「それで、テレビを見たら異様にキョロキョロしてる僕が居て、窓ガラスを見たらそこに映ってるのはバッセンで楽しそうにキャッチボールしてたあなただった」
「俺、そんなにキョロキョロしてた?」
「はい、それはもう」
佐々木はクスクスと思い出し笑いをする。
俺は初登板の時の事を思い出した。
ヤケクソで投げて165km/hを出してハレンディンを三振に切って取った後…。
「あ、ごめんね、初登板で逆転サヨナラ負けなんて…」
「いいんですよ、それよりもハレンディンの時のあなたは凄く楽しそうでした」
「確かに…、あの時はアドレナリン出まくってた気がする」
「なんかもうケダモノみたいでしたよ」
俺と佐々木は声を出して笑い合う。
「でも、佐々木君はそれでいいの?ていうか、向こうでは何やってるの?」
「はい!うまく言えないですけど、強制的に入れ替わった事で新しい事にチャレンジせざるを得なくなって、それが意外と楽しいというか…、向こうでのあなたは球団職員をやってるんですよ」
「え、球団職員?」
「だから、今は公私ともにあなたというか僕というか…とにかく佐々木を応援してます!」
未だに分からない事だらけだが、憑き物が落ちた様に爽やかな笑顔を浮かべる佐々木を見て、俺も自然と笑顔になる。
「ところで、この事を知ってる人って他に居るのかな?」
「さぁ、分からないですけど、多分…」
「多分…なに?」
「吉本さんは知ってるんじゃないかと」
「吉本って、吉本監督?」
「監督というか社長というか…」
そう言って佐々木が視線を送った先では、課長の小島や部長の中山にエスコートされて、目つきの鋭い中年男性が出てくる所だった。
その中年男性を見て俺は幽霊を見た様に固まった。
「吉本監督!?」




