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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い
203/262

第202話 VS.《呪王》 - Part7


 セツナの配信を引き継いだ俺、チェリー、そして巡空まいるは、ついに塔の屋上に辿り着いた。

 冷たい風が、ひゅうひゅうと静かに吹き渡っている。

 チェリーが桜色の髪を軽く抑えて、視線を頭上に向けた。


 そこには、1体の堕天使がいた。


 巨大な漆黒の翼を広げ、純白に輝くメタリックな装甲を持つ、巨大ロボットのような堕天使だ。

 背中を丸め、胎児のような姿勢になっているからわかりづらいが、身長8メートルはあろうかという巨躯である。

 今は何かを待つかのように、ただ空中に漂っている……。


「――あ! 皆さん!」


 巡空まいるの声で屋上に目を戻すと、東西南北それぞれに開いた入口から、他のメンバーが上がってくるところだった。

 人数は、……減っていた。

 それぞれ4人パーティを組んで塔に入ったはずだった。しかし、屋上まで辿り着けたのは、いずれのパーティも3人以下……。


「もおーっ! なんでいきなりパターン変えてきちゃうかなあーっ!」


 憤懣やるかたない様子のUO姫には、巨人騎士の火紹が付き従っているが、同じくついていったはずの残り二人の騎士の姿が見えない。


「くらげ……君はあたしたちの心の中で生きているよ……」

「いや、リスポーンに戻されただけですから!」

「……だから前に出すぎだって言ったのに……」


 ろねりあ率いるJK4人組の変化は一目瞭然だった。一番うるさくて目立っていたビキニアーマーのツインテ女・双剣くらげがいなくなっているのだ。


「皆さーんっ! 大丈夫――じゃ、なさそうですね……」

「不甲斐なくてすみません、巡空さん……」

「死亡だけは避けようと考えたのですが、逃げ遅れてしまいました……」


《赤光の夜明け》のパーティは半減。《聖ミミ騎士団》の生き残りと合わせて、主要攻略クランのメンバーはたった5人にまで減ってしまった。


 計10人。

 あまりに心許ない人数で空を見上げる。


 メタリックな純白の装甲に包まれた堕天使が、丸めていた体躯をゆっくりと伸ばした。

 そのお腹に抱えられるようにして隠れていた男が、俺たちを睥睨する。

《呪王》。

 冷たい瞳の男は、白く輝くバリアに包まれていた。


 俺たちは身構え、チェリーたちはスペルブックを開いた。

 直後、メタリックな堕天使――ケセラシファーの胸部装甲が、パカリと外側に開いた。

 内部に見えるのは一人分のシート。

 まさか……コクピットか!?


《呪王》が中に乗り込むと、ハッチがすぐに閉じる。

 そして。

 ブウウン、という振動音と共に、ケセラシファーの頭上に黄金の輪が現れた。


「来ますよ……!」


 ケセラシファーが動く。

 ゴオ、と風を唸らせ、螺旋状に旋回しながら、俺たちのいる塔の屋上と同じ高さまで降りてくる。

 屋上の縁の外側に静止した頃には、その周囲にいくつもの飛行砲台――《ケセラシファー・バッテリー》が侍っていた。


 両手に1本ずつ、5メートルほどもあるビームソードが現れる。

 一対の瞳が、敵意を示すように赤い輝きを放つ。


《堕天魔霊長ケセラシファー》。

 霊長を名乗りながら機械仕掛けのそいつは、真なる世界の支配者は誰なのかを主張するように、2本のビームソードを交差するように振るった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「十字斬撃ですっ!!」


 ビームソードの軌跡が空間に焼きついたかのように、×字にクロスした光の斬撃が俺たちに迫る。

 大きく横に逃れ、あるいは股下を潜るようにして、俺たち10人は1人の例外もなくそれをやり過ごした。


「「「《オール・キャスト》!!」」」


 支援魔法の輝きが全員を覆う。瞼の裏の簡易ステータス画面に幾つものバフアイコンが一気に点灯した。

 俺は魔剣フレードリクを握り締め、向上した身体能力でもってケセラシファーへの間合いを詰める。


 ケセラシファーの純白の装甲は、屋上の縁のさらに外側、すなわち空中にある。

 だが、剣が届かない距離じゃない。

 縁ギリギリまで踏み込み、リアルアクションでの通常攻撃を立て続けに二撃見舞った。

 血飛沫めいたダメージエフェクトが散るが――手応えが硬い!


「《バッテリー》の動きに気をつけてください!」


 チェリーの声が耳に届いた瞬間、俺は床を蹴った。

 ヴィイイン!! と空間そのものが震動するような音が耳朶を叩く。

 同時、目の前でいくつもの光条が交差した。

 ケセラシファーの周囲に侍る天使の翼を有した飛行砲台――《ケセラシファー・バッテリー》が集中砲火を放ったのだ。


 それらは空中で幾何学的な陣形を形作りながら、カッと銃口を輝かせる。

 聞いた話によれば、バッテリーのビーム攻撃は描いた陣形によって性質を変化させる――なら、この陣形は!?


 ビームが野放図に撒き散らされた。

 さっきの集中砲火とは真逆。言うなれば拡散砲火だ。

 眩い光条の弾幕が、俺を包み込むように広がる……!


「《マギシルド》!」


 半透明のシールドが眼前に現れ、光条の弾幕を何発か受け止めた。

 振り返るまでもなく、背中にチェリーの声が届く。


「拡散型のビームは威力が低いです! 《マギシルド》で充分に防げます!!」


 オーケー。つまり、敵を殴るのに集中しろってことだな!


「オオォオオッ!!」


 雄々しい咆哮が聞こえたかと思うと、赤い鎧を纏った巨人が猛然とケセラシファーに突っ込んだ。

 2メートル半もある火紹と比べても巨大なメイスが、激烈に純白の装甲を打ちつける。

 真っ赤な光芒が激しく散った。

 効いている。効いているはずだが、火紹のメイスも大きく弾き返される……!


 攻撃力が足りないのか? こんなにバフがかかってるのに!?

 紛れもなくMAO最強のSTRを持つ火紹の一撃さえ跳ね返すなんて……!


「ちょやーっ!!」


 毒気の抜かれる甘ったるい掛け声と共に、オモチャみたいな矢がケセラシファーの胸部に突き刺さる。

 ぽうんっ、というファンシーな効果音とは裏腹に、溢れ出したのは闇色の煙だった。それは瞬く間にケセラシファーの全身を覆う。


「おやおや~? 闇属性が弱点かな、堕天使クン?」


 UO姫が勝ち誇るように言うや、すぐさま動きを見せたウィザードがいた。

 JK4人組(今は3人組)の魔法使い、ショーコだ。

 魔法面のアタッカー役を担うことが多いウィザード職にあって、プリーストめいた搦め手が得意という変わったスタイルを持つ彼女は、杖を掲げながら高らかに詠唱する。


「《ダーストン》……!!」


 杖の先から闇色の雷が迸り、ケセラシファーに命中した。

 だが、ダメージエフェクトはほとんど出ない。代わりに現れたのは、ケセラシファーを淡く包む青の光――デバフエフェクト!


「ぼ、防御力を下げました……! す、すぐに解けちゃいますけど……」


「GぃッJぇええっ!!」


 俺は力強くショーコを讃えながら、ケセラシファーに接近して魔剣を叩き込んだ。

 通る。通る……! 食い込むようなこの手応え! さっきよりずっと強くダメージが通っている……!!


「ちょっと先輩! どうしてショーコさんはそんな簡単に褒めるんですか! 私のことは全然褒めないくせに!!」


「そうだそうだー!! 釣ったミミにエサを与えろーっ!!」


 うるさいなお前ら! 魔法だの矢だのバンバン撃ち込みながら言うことか!!


 デバフに付け込んでケセラシファーの装甲を叩きまくっていると、ヴン、と空気が震えた。

 ケセラシファーが、目の前から消えた。

 残像だけをその場に残し、まるでレールの上を走るかのように塔の縁に沿ってスライド――一気に反対側へ!

 そっち側には、ショーコを含めた後衛がいる。


「ッ――退がって!!」


「えっ――」


 ショーコや《赤光の夜明け》のウィザードたちが振り向いたときには、すでにケセラシファーは右手のビームソードを振り上げていた。

 マズい、闇属性のデバフが使えるショーコを失うわけには……!!


 ヴウン!! と容赦なくビームソードが振り下ろされる。

 それは大きさに比べてあまりに素早く、見てからではとても避けられたものではなかった。

 だから。


「――ぐ。ぐ、ぐ、ぐっ……!!」


 一枚の盾が、光の剣を受け止める。

 ポニーテールの女騎士だった。

 JK4人組の中で最も背が高く、飄々として掴み所のない女騎士――ポニータが割って入り、ショーコを守ったのだった。


「くらげの分は働くよ……! 仇、討たせてもらおうじゃんか!」


「いくらでも受け止めてください、ポニータさん……! わたしがいくらでも回復します!」


 ポニータのアバターからはひっきりなしに赤いダメージエフェクトが散っている。それでも膝が折れないのは、黒髪ロングのプリースト・ろねりあによるバフと回復があるからだ。

 タンクが攻撃を受け止め、そのHPを回復役が管理する。

 古より続く、MMORPGの基本戦術……!!


 ケセラシファーは右手の剣を引くと、左手のビームソードを横ざまに構えた。

 続けざまに振るわれた薙ぎ払いの一撃を、またしてもポニータが盾で受け止める。ショーコには掠りもさせていない!


「いつまでもボコらせてたまるものですかーっ!! 見せましょう皆さん! 《赤光の夜明け》の美しきDPSっ!!」


 魔法の輝きが炸裂した。

 そうとしか言いようがない。バチンッと花火のように炸裂した輝きが、次の瞬間ひとつに溶け合い、オーロラめいた幻想的なマーブル模様になって、ケセラシファーに殺到していく。

《赤光の夜明け》生き残り、MAO最上級のウィザード3人による、トリプル・ダンシング・マシンガンだった。


 もはやマシンガンというより津波に近いような魔法の渦が、ケセラシファーの装甲を削りながらその動きを束縛する。

 その隙に傷付いたポニータやショーコらが下がり、入れ替わりに上がるのが俺と火紹の前衛部隊だ。


「背中! 借りるぞ、火紹っ!!」


「…………!!」


 一言で、火紹は意を汲んでくれた。ケセラシファーの目の前まで近付くと、2メートル半の巨体を少し屈ませる。

 俺はその背中を足場にして跳んだ。

 おそらくは膨大なステータス・ポイントをAGIに注ぎ込んだ俺にしかできない芸当だろう。8メートルもの身長を持つケセラシファーの胸部まで跳び上がり、


「引き籠もってんじゃねえぞ、《呪王》……!!」


 かすかに見えるハッチの継ぎ目を狙って、魔剣フレードリクを突き入れた。

 ショーコのデバフ、そして巡空たちの魔法によって傷付いた装甲は、切っ先を10センチほども食い込ませる。


「触れた……!!」


 感触があった。コクピット内にいる《呪王》の、バリアに触れた感覚……!


 バシュッ!! と圧縮された空気が解放されるような音がした。

 ケセラシファーの背中側から、黒い影が勢い良く飛び出す。

 空高く打ち上げられたのは、純白のバリアに守られた《呪王》だった。

 緊急脱出機能か何かか!? 何でもいい。ヤツを外に引きずり出せたのなら――

《呪王》が落ちてくるのに備え、着地して剣を構えた、そのときだった。


 操縦者を失ったはずのケセラシファー・バッテリーが独りでに動いた。


 いくつもの飛行砲台が素早く集中砲火の陣形を描く。

 その銃口が向くのは、俺たちの誰でもなく……!


「けっ……ケセラシファー卿……!!」


《呪王》が呻いた直後、その純白のバリアが無数のビームでハリネズミになった。


「な、なんだ……!?」


「仲間割れですか……!?」


 いや、そもそも仲間なのか。《呪王》と他の十二剣将は。

 レイドボスとして立ちはだかった十二剣将たちは、その全員が知性めいたものを見せなかった。例外はただひとつ、今際の際のイザカラのみ。

 もし呪竜たちと同じように、十二剣将たちもまた《呪王》の呪いによって支配されているのだとしたら――逆襲なのか、これは。本物が倒されてなお、ケセラシファーの意思のようなものが《呪王》に反旗を翻しているのか。


 集中砲火を受けた《呪王》は、純白のバリアをバキバキにして遥か地上へと落下していく。

 この形態はこれで終わりか――? 

 一瞬過ぎった思考は、しかしすぐに打ち消された。


「我らが魔神は――貴殿の主は、夜空の中天に消えたのだ……!!」


 ケセラシファーの肩に。

 漆黒の輝きを放つ翅を持つ男が這い上ってくる。


「ならば! もはや呪う他にないであろう!! 仕えるべき主が、縋るべき神がいないのなら、もはや!!」


《呪王》が右手をケセラシファーの横っ面に叩きつける。

 そこを中心に、メタリックな純白の装甲がどす黒く染まっていった。

 ――呪転だ。

 呪転している!


「天に見放され、主さえ失った悲しき御遣いよ。ゆえに私が与えてやろう!! 貴殿が戦うべきものを!! 貴殿が振りまくべき呪いを!! ――さあ、目出度(めでた)き終末は近付いているぞ!!」


 黒く染まった胸部のハッチが開く。

 その中に《呪王》が飛び込むと、ケセラシファーの姿に変化が生じた。


 頭上にひとつきりだった黄金の輪が、増える。

 背中に、まるで後光のように、巨大な光の輪がひとつ、ふたつ、二重円になって、さらには高速回転を始めた。


 ケセラシファー・バッテリーが、ケセラシファー本体を囲うようにして陣形を取る。

 そして銃口からビームを放ち、互いを星座のように光の線で繋いだ。

 次いで、膜を張る。

 ビームの網目を埋めるように――真っ白な膜を。


 それはバリアだった。

《呪王》が纏っていたバリアを、黒く染まったケセラシファーが纏ったのだ。


 純白のバリアに覆われた漆黒の機械天使は、両腕を十字架めいて左右へと広げて、ふわりと上空に浮き上がる。

 塔の直上で静止すると、今度は俺たちの足元に変化が起こった。

 複雑な紋様の光がドーナツ状に現れ、そして、俺たちを乗せて宙へとせり上がり始めたのだ。


 光の床は、ケセラシファーと同じ高さで停止する。

 それは、さっきとは真逆のポジショニングだった。

 ケセラシファーを中心とした輪状の足場に、俺たちが立っている――


 黒く呪転したケセラシファーが、右手のビームソードを高く頭上に掲げた。

 その刀身を、幾重もの光のリングが取り巻く。

 キィン、キィン、キィン―――!!

 氷を弾くような高音がどこからともなく聞こえ、


「――いけませんっ! 防御――」


 チェリーの指示は、降り注いだ闇の柱に飲まれて消えた。


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