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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い
163/262

第162話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:メイア配信【1】




 そして――事件は真夜中に起こった。


【配信タイトル:メイアだよ!!! みんな見える!?!?】




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 俺たちは翌朝起きてからその事件を知った。


「メイアがストリーミング!?」


 起き抜けに端末を見た俺は、SNSとディスコードが大騒ぎになっているのを見てひっくり返りそうになった。


《呪王》に捕まっているはずのメイアが、真夜中にストリーミング配信を行った――


 デマを疑うレベルの情報だったが、配信ページのURLまで出回っている以上、無視するわけにはいかない。

 俺は急いでチェリーこと真理峰サクラに連絡を取る。


『もう! 遅いですよ先輩! 何回かコールしたんですからね!』


「や、俺にしては早く起きたほうだって……それより、出回ってる話はマジなのか?」


『それなんですけど……詳しく話したいところなんですが、先にこなすべきタスクがあります』


「は? なんだそれ?」


『学校ですよ! 今日、平日ですから!』


「えーーーーーーーーー」


 どうせ期末テストの答案返ししかやらねえんだから行かなくてもいいじゃん、と主張したが、クソ真面目な真理峰は許してくれなかった。

 大体、あんなペラ紙数枚、別に返してくれなくたっていいんだよな。職員室のほうでよしなにやってほしい。


 そういうわけで渋々学校に赴くと、教室がいつもよりざわついていた。

 テストの点数がそんなに気になるのか、と思いきや、


「MAOのやつ知ってる?」

「知ってる知ってる!」

「マジやべーわ。ゲームの話と思えねー」


 ……ほほーん?

 まあ、MAOで大規模なイベントが起こったときは、ゲーム外も巻き込んでの祭りになるのが通例なので、教室で話題になるのも不思議ではない。


「公開ブリーフィングの子、めっちゃ可愛かったよな」

「巫女風の子な! クッソ好みだわ」

「いやいや、あんなのアバターだから。リアルは絶対――」

「うわー、こいつわかってねえわー」

「バーチャルはバーチャルで楽しむんだよ!」


 ……チェリーはリアルもバーチャルも外見ほぼ変わらねえし、なんなら同じ学校に通ってるし、お前らもきっと見たことあると思うんだが俺は黙っておく。


「っつーかさ、あのワイバーンをぶった切った奴、あの子の彼氏じゃねえの?」

「それな。思った」

「ああ、ケージだろ? 有名だぞ、あの二人」


 ぎくり、と身体が固まる。

 ……ええ?

 教室で話題に出るレベルで有名なの、俺ら? ユーチューバーかよ。


 平静を装いつつ自分の席に座り、端末にイヤホンを差した。

 例のメイアの配信を見るのだ。

 本来、アーカイブを見るにはプレミアム会員――つまり《GamersGarden》に課金している必要があるんだが、今回は特例なのか、サイトの公式が録画をアップしていた。


 どうやら、アーカイブの画面をそのままキャプチャーしたもののようだ。

 シークバーが動くにつれ、画面右のチャット欄が徐々に動きを見せていく。


〈本物?〉

〈悪戯だろ〉

〈なんも見えん〉


 肝心の配信画面は真っ暗だった。

 ……いや……よく見ると、かすかに何かが動いているような?


〈音もないな〉

〈無音〉

〈マイク入れ忘れたんじゃ?w〉


 ――ブツブツッ。

 ――ブツッ。

 電波が繋がるような音と同時、囁き声が流れた。


『……ご、ごめん……! 音入ってなかった……! ずっと独り言言ってたよぉ……』


 背筋に電流が走る。

 この声――メイア!


〈本物じゃねえか!!〉

〈メイアちゃあああああん!!〉

〈大丈夫!? そこどこ!?〉


『んっと……どこなのかはわかんない……。目が覚めたら誰もいなかったから、とりあえず歩いてるんだけど――あっ』


 カメラの動きが不意に止まり、メイアもまた息を潜めた。

 ――ガシャン……ガシャン……ガシャン……。

 何か鎧のようなものが歩く音。


『……行ってくれた……かな?』


〈何、今の〉

〈モンスター?〉


『モンスター……だと思う。警備してるのかな……。歩いてたら、たまに会うの』


〈レベルどんくらい?〉


『ううーん……それがよくわかんなくて……。フォーカスしてもネームタグが出ないんだ。なんでかなぁ……』


 ネームタグが出ない?

 メイアはリアルの肉体を持たないこと以外には普通のプレイヤーとほぼ同じ条件のNPCだ。

 当人曰く、ノン・プレイヤー・プレイヤー。

 ネームタグの表示という、極めて基本的なUIが理由なく働かなくなるとは思えないんだが……。


〈っていうか、どこなんだここ〉

〈暗くてよく見えない〉


『建物の中……だと思う。明かりが全然なくて』


 ……《カース・パレス》の中か?

 遠目に見ただけだが、結界に守られたあの宮殿には、文明的な光が灯っているようには見えなかった。


『今、風の流れるほうに移動してます。そろそろ――』


 言ったそばからだった。

 画面の奥のほうに、ぼんやりとした光が見えた。


『あっ、外……!』


〈脱出成功?〉

〈勝った! 第三部完!〉

〈油断せずに!!〉


『ぅあっ……そ、そっか。そだね。慎重に……』


 俺は胸を撫で下ろす。

 警戒を促してくれた奴に心から感謝したい。


 光がゆっくりと近付く。

 自分でコメントできないのが焦れったかった。

 これはもう何時間も前に終わってしまった出来事なのだ。

 今の俺には、ただ見ていることしかできない……。


 進むにつれて、光の正体がわかってくる。

 窓だ。

 四角く切り取られた窓が、外の風景を見せている。


『……いったん止まるね』


 窓に近寄る前に、メイアは注意深く周囲の気配を探った。

 メイアのプレイスタイルは援護射撃が基本だ。

 だが、俺とチェリーはそれに加えて、レンジャー――斥候としての技術をあいつに教え込んだ。

 安全性を高めるためである。敵の存在に気付くのが早ければ早いほど、生存率は爆発的に上がる。

 教えておいてよかったと心から思った。その技術がここに来て決定的に効いていた。


『……よし。たぶん大丈夫……。行きます』


 メイアは窓に近付く。

 外の風景が見えてくる。


『……ここ……』


 薄紫の、膜のようなものが見えた。

 俺はそれを知っている。

 カース・パレスを囲う結界だ。


 ただし。


〈え〉

〈なんで?〉

〈これマジ?〉




 窓の外に見えたのは、結界を外から(・・・)見た風景だった。




「んなっ……!?」


 叫びかけて、慌てて口を閉じる。

 教室の様子を窺うが、どうやら不審には思われていないようだ。


 メイアは――結界の外にいる!?


 一体……どういうことだ……?

 メイアは《呪王》に連れ去られた。だからその居城であるカース・パレスにいるものだと思い込んでいた。

 だけど、この風景は、メイアがその外――つまり、現時点の俺たちでも行ける場所にいることを示している!


〈もっと見せて!〉

〈風景をできるだけ映してください!! お願いします!!!〉


『え? うん。わかっ――――ああっ!?』


 突然、映像が乱れた。

 ザザッ、ザザザザッ!! とノイズが走り――


 ――プチン。


 真っ暗になった。

 チャット欄が混乱する声で埋め尽くされるが、それもすぐに停止する。

 シークバーが右端に達した。


【この配信は終了しました】




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「――あそこで間違いないんだな?」


 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン。

 どこか粘ついた空気を肌に感じながら、俺は遙か先にある塔を望んだ。


「ええ。配信越しに見えたわずかな風景から、特定班の皆さんが特定しました」


 隣に立つチェリーが言う。

 半ば朽ちた塔だった。外壁の煉瓦はいくつも剥がれ落ち、地震でも起きればすぐに倒壊してしまいそうに見える。


 その手前には、広大な荒野が広がっていた。

 特に目立った障害物はない。砦があるわけでもなければ、深い谷が走っているわけでもない。

 一見すれば、あっさりと通り抜けてしまえそうに見えた。

 しかし。


「特定が終わってからまだ4~5時間といったところですが、すでに数十のパーティが荒野越えに挑戦しました」

「結果は?」

「全滅です」

「だろうな……」


 砦よりも峡谷よりも強大な壁が、この荒野には立ちはだかっている。

 今も見えていた。

 荒野の真ん中に、まるで墨汁をぶちまけたように黒く染まっている区画がある。

 穴ではない。

 黒曜石が顔を覗かせているわけでもない。


 それは、巨大な鳥の影だった。


「《幻影天統領ガルファント》……」


 視線を空に向けても、影の主の姿は見つけられない。

 ただ、影だけがそこにある。

 戦略十二剣将が一角、カース・パレスの封印を守るレイドボスの一体――《幻影天統領ガルファント》。

 この荒野は、あの姿なき怪鳥のテリトリーなのだ。


「《ウィキ・エディターズ》の皆さんに攻略に当たってもらっていますが、未だガルファントに対する有効な策は見つかっていません」

「あのボス攻略のプロ集団でもか」

「はい。ですから、今日の第一次封印攻略戦ではガルファントは対象に入れず、明日に回すつもりでした。けど……」

「ああ――そうも言っていられなくなった」


 この荒野を越えようとする者は、すべからくガルファントのエサになる。

 しかし、この荒野を越えなければ、メイアがいるはずの塔には近付けない。


「可能性があるとしたら、少数精鋭での強行突破しかありません」


 チェリーは決意の眼差しで彼方の塔を見据えた。


「第一次封印攻略戦の開始まで、およそ4時間程度。それまでにこの荒野を突破して、メイアちゃんの安否を確認します」

「ああ。……あれで図太い奴だから、意外とけろっとしてるかもしれねえけどな」

「ふふっ。そうですね――」


 俺たちは連れてきた馬にそれぞれ飛び乗った。

 握るのは剣ではなく手綱。

 これは倒すための戦いじゃない――迎えに行くための戦いだ。


「行くぞ、娘のお迎えだ」

「はい――!」


 俺たちは同時に馬腹を蹴る。

 たった二頭の馬と、たった二人の親が、不可視の怪鳥が牛耳る荒野へと踏み込んだ。


新作『不倶戴天の許嫁』が始まりました。

すでに一応の完結まで全部書けてまして、

28日までの短期集中連載という形になります。


宿敵同士として殺し合ってた男女二人が、

転生したらうっかり許嫁になってしまった、という話です。

要するにまたケンカップルの話です。

なろう版とカクヨム版の両方があるので、

よろしければお好きなほうをどうぞ(あとがき下に直リン)。

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