8月20日 告白大会
マンションの屋上にあったのは小さな売店だった。店の名前は富田商店というらしい。そこに置いてあるのは生活必需品やお菓子、雑誌などだった。ここに来れば一通りの物は買える。
ミカとサタケは人柄のよさそうな店主にコーヒーを注文した。なんとコーヒーをその場で焙煎してくれるらしい。2人は店の前に何個か置いてあるテーブルに腰掛け、コーヒーを待った。
「今日は刺激的だったわ。まさか連続強盗殺人犯と家出少女を匿う事になるなんてね」サタケが腕を伸ばしながら言った。
「だから家出はしてないですって」ミカは言い返した。
「だって親に言わず出てきたんでしょ。まあ言えるわけないけどね」
「まあそうですけど」
「いやしかし、ここの景色は綺麗ですね」ミカは宝石のように輝く景色を見て言った。
「そうでしょ。それが自慢なの」
遠くの方にはビルが立ち並び、目がちかちかするほどの光量だ。
「この景色を見ていると今までの事を全て忘れてしまいそう」
「ミカちゃんはどういう経緯で丸井さんと知り合ったの?」突然サタケが聞いてきた。
ミカは丸井と出会った時の事を話した。だがそれもたった四日前の事なのだ。
「そんなことがあったんだ」
「映画みたいですよね」
「ほんと」
そこで店主がコーヒーを運んできてくれた。とてもいい匂いがする。ミカが今まで飲んできたコーヒーとはレベルが違う。
「でも両親が心配してるんじゃない?」サタケが少し顔を近づけてきた。
「いいんです。私実は親があまり好きじゃなくて。思春期なのかな」
「お友達とかは?」
「一人親しい友人がいるんですけど。その子以外には・・・」
「そっか。じゃあ彼氏は?」
サタケの質問にミカは思わず吹き出しそうになってしまった。
「いっいるわけないじゃないですか」
「そう?何で?」
「何でって私あまり男と出会う機会がないんです」
「サタケさんの方はどうなんですか?」ミカが聞くとサタケは少し表情が暗くなった。何か思いつめているみたいだ。
「いるんだけどね。いろいろあって彼の頭がおかしくなっちゃって」サタケはうつむいた。
「そうなんですか」
「私が浮気しているんじゃないかとかわけのわからないことを言い出して。よく殴られるのよ」
この明るいサタケにそんなことが起こっているなんて。衝撃的だった。
「そんなことをするなら別れたらいいのに」
「それがなかなかできなのよ。彼、私がいないと何もできないから」
ミカはそれ以上何も言えなくなってしまった。異性と付き合ったことのないミカにはよくわからなかったが、そんな事を考える人が世の中にはいるのだ。
サタケが可愛そうだと思ったが口には出すことができなかった。
サタケは腕をさすった。
「結構寒くなってきたね。今夜の告白大会はここで終了」
「そうですね」
「何しんみりしちゃってるのよ。さあ行くよ」
「はい」
2人は飲んだコーヒーカップを店主に返した。
ここのコーヒーは本当においしかった。
また明日も来ようとミカは思った。今度は丸井も連れて。
サタケの部屋に着いたミカは丸井が寝ているそばに行った。
そしてしばらく物思いに耽った。
そろそろキクハラから電話がかかってくる時間だな。
彼女は十二時ごろにいつも電話をかけてくる。
すると本当にキクハラから電話がかかってきた。ミカは急いで携帯に出た。何故か彼女としゃべりたい気分だったのだ。
「もしもしミカ。今何やってる?」キクハラはいつもの甲高い声で言った。
キクハラはミカの同級生で唯一の親友だ。小学生の時、親友のシノが転校してしまったときに落ち込んでいたミカを毎日励ましてくれた。
「今連続強盗殺人犯の横であんたに電話している」ミカは唐突に言った。キクハラも驚いているに違いない。
「どういうこと?何の冗談」キクハラは冗談だと思っているらしい。
「本当だよ。もし疑っているなら私の家に電話かけてみて。きっと大騒ぎになっているから」
「マジなの?」
「大マジよ」
「驚いたわ。あの丸井ってやつでしょ?」
「そうよ」
「何があったの?どうしてそうなったの?」
「それを話すには時間がかかるからまた今度」
「えっでも」キクハラは納得していない。だがミカは無理やり話を終わらせようとした。
「とにかくそういうわけだから。このことは誰にも言わないで」
「待ってよ。そんなこと言ったって。今どこにいるんだよ?」
「世果川の橋を渡って一直線に行ったところにコンビニがあって、その店員さんのマンションで一泊させてもらってる」そう言うとミカは電話を強制的に切った。
プープープー と電話の音が鳴る。
しばらく待ち受け画面を見つめていた。どうして全て言ってしまったんだろう。私たちの居場所がばれてしまうかもしれないのに。
ミカはレモンの香りのする布団に横になり、そのまま寝てしまった。
第3話です。
最近めっきり暑くなってきました。冬よりはいいですが早く終わってくれと思ってしまいます。
それでは楽しんで読んでください。