8月20日 拠点
「ちょうどいいわ。警察に全て説明してもらいましょうか」
店員はそう言うとミカの顔を覗き込み、笑った。
絶体絶命だ。全て見透かされている。
ミカが答えられずにいると店員は続きを言った。
「って言ったらどうする?」店員はさっきとは別の種類の笑顔を見せた。
ミカはホッとした。この女は私を警察に突き出すつもりはないらしい。
「見逃してくれるんですね?」
「そんなにすぐに認めちゃうの?私は何の根拠もなしに今の推理をしたのに。もし私の性格が悪かったらその言葉で本当に警察に突き出すわよ」店員は学校の先生のように言った。
まるで説教されているみたいだとミカは思った。幸い店にはミカ以外の客はいなかったので聞かれている心配は無いが、これ以上いると危ないのでミカは店を出ようとした。
「ちょっと待ってて。あと5分くらいで仕事終わるから」店員に引きとめられた。
時計を見るともう十一時になろうとしていた。
「すいません。急いでるので」
「いいじゃない。このまま店を出ると確実にお巡りさんに捕まるよ」
確かにその通りだ。駐車場には新しい情報に飢えている警察官が2人もいる。こんな時間に中学生がコンビニを出ているところを見られたら補導されてしまう。
この女が何を考えているかはわからないがミカはおとなしく待つことにした。
5分後、レジの前で待っているミカの前に私服姿の店員が現れた。
「待たせてごめんね」そう言うと店員はミカの少し前を歩き出した。
「さあ、行こうか」
「スターコネクト」を出るドアの前で店員は自分をサタケと名乗った。
外に出ると案の定、警察官はミカに近づいてきた。
「このあたりに連続強盗殺人犯が潜んでいる可能性があります。この男を見かけませんでしたか?」警察官は指名手配所を見せながら聞いた。
当然ミカは知らないと答えていた。サタケも同様にに知らないと言った。
すると警察官は別の質問をした。
「失礼ですがあなた方の関係はどういったものでしょうか?」
やはり来たか。ミカは少し戸惑った。
どう言えばいいのか。
するとサタケが口を開いた。この一言によってこの状況が救われた。
「この子は私の娘なんです。今日は仕事が終わるまで待っていてくれたんです」サタケはマニュアルを暗記したかのような軽やかな口調で言った。
「そうですか」警察官は納得してくれたようで、ご協力ありがとうございましたと言ってそそくさとその場を離れた。ミカが持っているキャンプに使うような道具が大量に入った袋には気づいていなかったようだ。
「あの、 助けていただいてありがとうございます」ミカはぺこりとお辞儀をし、駆けだした。
「ちょっと待って!」サタケが大きな声で呼び止めた。
「あなた困ってるんでしょ?」
「力になれるかもしれないから話してみて。何があったの?」
サタケに聞かれてミカは迷った。
この人になら話してもいいかもしれない。
この人になら全て聞いてもらいたい。
そう思っていた。
ミカは十メートルほど離れたサタケに背中を向けたまま言った。
「信じてもらえないかもしれないけど」
「警察官がさっき言ってた殺人犯といっしょにいるんです」
言ってしまった。
「誘拐されたの?」サタケは少し驚いたようだが、冷静に問う。
「いいえ」「自分が望んでこうしてるんです」
「その殺人犯は今どこにいるの?」
ミカはコンビニの裏を指差した。店は明るく輝いているが、裏はその対極だ。
「あなたはこれからどうしたいの?」
「私はその殺人鬼を守ります。だから警察から逃げなければいけない」
「そうなんだ」サタケが相槌を打った。
しばらく続いた質問の応酬に決着がついた。
「どうぞこのことを警察に話してください。私たちは逃げるだけですから」
ミカは話したことを後悔はしていなかった。大分気分がすっきりした。
「そんなことしないわよ」
「えっ」
「これから私の家に来て頂戴、あまり綺麗じゃないけれど」そう言うとサタケは笑った。
「そんな あなたに迷惑が掛かります」ミカは思いがけない言葉に戸惑った。
「いいわよそんなこと気にしなくても。泊まる場所がないんでしょ?」
ミカは頷いた。
「ありがとうございます。とりあえず今晩だけ」
ミカは丸井にそのことを伝えに行った。
コンビニの裏で丸井はうずくまっていた。
「遅かったじゃないか」すこし怒っているようだ。
確かに遅くなったがそんなことで怒るなんて中学生かと思った。まあ自分も中学生だが。
ミカは事情を話した。
「そうか。その女は信用できるんだろうな?」
「たぶん大丈夫よ。さっきも助けてもらったし」
「なら泊めてもらうか。もう野宿は嫌だ」
ミカは丸井をサタケに紹介した。周りには警察官はいない。
「へえ~ この人が連続強盗殺人犯なんだ」サタケはひょうきんな声でそう言った。さほど驚いてはいないようだ。芸能人感覚だ。
少し歩いたところにワンコイン駐車場があり、そこから車でサタケが住むマンションに向かった。
車に乗っている間に、何件も携帯に着信が入った。全て両親からだった。もう十一時半だ心配するのも無理はない。だが帰るつもりはなかった。
サタケの住むマンションは五階建てだった。高級マンションで、ロビーは大理石でできていた。駐車場に止めてある車も高級車が多かった。こんなマンションはミカの町にはない。
「すごいですねサタケさん」
「ここはね両親が立てたマンションで、3年まえから住まわしてもらってるの。ただで」
「へえ これはすげーや」
丸井が嬉しそうな顔をする。
「最上階にちょっとした売店があるから、欲しいものがあったら行ってみて」
「はい」
サタケの部屋は四階にあった。
部屋の中は片付けられていて、ホテルの一室のようだった。
本棚にはぎっしりと漫画が詰まっていてミカを興奮させた。
ここに一泊できるなんて夢のようだった。自分の町を出るときには想像していなかった。
「あなたたちご飯は大丈夫?」
「さっき買ったものがあるので大丈夫です」
「じゃあここは好きに使って。奥の部屋に布団を敷いておくから」
「いや それは私たちがやります」
「本当に?助かるわ」
「こちらこそありがとうございます」
「さあ行くわよ」ミカは丸井に催促した。
「えーオレも布団敷くの?」
「あたりまえじゃない。さっき私はわたしたちって言ったのよ」
ミカは丸井の太い腕を引っ張った。
ミカと丸井は案内された部屋に行き、布団を敷いた。
「じゃあオレもう寝るから」
そう言って丸井は3分で寝てしまった。
「寝ちゃいましたね」
「そうね。私たちは最上階に行きましょうか。女同士で話したいこともあるし」
「そうですね」
ミカとサタケは部屋を出た。
第2話です。
いや~ホリミカの話を書いたのは結構前なので思い出すのに苦労しました。
ちゃんと完結できるよう頑張ります。




