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第40話 部旅行のおはなし

俺の人生に、間違いなく大きな影響を及ぼした日から数日たって。


あれから俺たちは、彼氏と彼女として生活しているわけですが…

学校もないし、花火大会以来遊びに行ってないから、それらしいことをしたわけではない。

せいぜいメッセージアプリで連絡を取り合う程度だ。


ちなみに俺は母さんに彼女ができたことは言っていなかった。

柚希は既に天音さんに伝えたようだが。


何かの拍子に口を滑らせて母さんに言ってしまえば、茶化されるわ騒がれるわのどんちゃん騒ぎになることは自明だったので、あえて言っていなかったのだ。


(まぁ、バレるのは時間の問題とは思うけど…)


別にやましいことをしているわけではないし、真剣交際なのだから、何らかの事情で母さんの耳に情報が入り、問い詰められた時には素直に話そうと考えている。


夏休み期間中は、理子に会うこともないので、理子にだって伝えていない。

唯一伝えたのは、泰正だ。


彼には何度か相談に乗ってもらったし、一応ご報告ということで…


俺の連絡を見た泰正は、めちゃくちゃ羨ましそうにしながらも、祝福の言葉を送ってくれた。

幸せにしてあげろよ、ではなく、幸せになれよ、と。


とまぁ、そんなこんなで夏休みも終盤に差し掛かり、少しずつ見えてきてしまったこの楽園の出口に目をそむけたくなる頃合いとなった。


で す が 、


今日は写真部の部旅行の第1日目なのだ!

鬱屈とした気分になるこの時期に楽しい予定が入っているのは、めちゃくちゃありがたい。


俺は早朝の糸魚川駅で、あくびを噛み殺しながら新幹線を待った。

真野先輩の最寄りはここから各駅停車で数駅行った駅なのだが、新幹線が通っている駅で最も近いのが糸魚川駅だったため、糸魚川駅に集合することとなったのである。

(俺としてはかなりありがたいけど、先輩は大変だろうなぁ…)

どこか申し訳なく思いつつ、俺は先輩と顧問の到着を待った。


ほどなくして、早朝の駅前に3人がそろい、無事に予定していた新幹線に乗り込むことができた。

流石に田舎の早朝、駅にいる人の数で察していたが、車内はかなり空いていた。


俺たち3人は適当な席を見つけて座り、目的地まで揺られることになった。


道中、先輩と顧問は安らかな寝息を立てており、俺はあくびはするものの、なぜか眠れない、という状況に陥っていた。


(ぐぬぬ…眠いのにねられないのもどかしすぎる…)


仕方なくスマホを見ていると、柚希にメッセージでも送ってみようかと思い立った。

しかし、時刻はまだ7時過ぎ。

夏休みのこんな時間に起床している学生の数など、たかが知れているし、柚希だって寝ているだろうと思い、俺はスマホを自分の前の机に置いた。


そしてこの先の旅路を思いつつ、目を閉じた。


「…君、南條君」

「ん?あぁ、おはようございます…」

「おはよう。ぐっすり寝てたね」

「え?そんな寝てましたか、俺…」

「うん。もう着くから、荷物まとめてね」

「はい」

真野先輩にやさしく起こされた俺は、まだもうろうとしつつも、身の回りの整理を始めた。

といっても、大した荷物も持ってきていないのだが。


敦賀駅で別の特急に乗り換え、京都駅で天橋立駅に直通している特急に乗り換える。

そこからまた揺れに身を任せ、気づけば多くの人であふれる天橋立駅に到着していた。


「暑いっすね…」

「だねー。でも流石は人気観光地、この暑さの中みんなよく来るよ」

「まぁ、僕らもその中に含まれてますけど…」

「2人とも、意外と時間ないから早速行こうか」

「はーい」


暑そうに額の汗をぬぐう顧問に促され、俺たちは天橋立ビューランドへ向かった。


天橋立ビューランドとは、天橋立からほど近い山のいただきに位置する展望台で、「股のぞき」ができる場所として有名なスポットだ。


そこまではケーブルカーで行くのだが、案の定その車内も大混雑。

重さで落下してしまうんじゃないかと怖くなるくらいには混んでいた。

(いや、すげぇな日本三景…)


「うはぁ…もう、疲れた…」

「なかなかきつい道のりだったね…でも」

「わ…」


缶詰から解放され、少し歩き、目の前を見れば──


眼下に広がる大海原。

青々と茂り、穏やかな風に揺れる木々。

そしてその周りを悠々と飛び回る名も知らぬ鳥たち。


「これが、日本三景か…確かにこの景色に惹きつけられる気持ちもわかりますね」

「だね。早速写真撮っていこうか」

「はい」

「じゃー俺はその辺ぶらついてるから」

「あっ、はい」


そう言ってふらふらとどこかに行ってしまった顧問を横目に、俺たちはカメラを取り出し、その絶景をレンズ越しに見て、シャッターを切り始めた。


その日は快晴で、奥に広がる入道雲と真っ青な海が、まさに夏を象徴していた。

広い海を仕切るかのように存在する砂州。

そこだけが別世界かのような雰囲気さえはらんでいた。


「南條君」

「はい?」

「相変わらず君は、楽しそうにシャッター切るね」

「あぁ、そうですか?まぁ確かに撮ってる時は楽しい、です」

「そうかぁ。うん。そうだな、なんと言うか君からは、君の撮った写真を見てもらいたい人がいる、という感じがする。違うかい?」

「えっ!?うーん、確かにいるような…いや、いますね。見せたい人」


俺は脳裏に浮かんだ柚希の顔を空の中に探すようにして言った。

すると真野先輩は穏やかに笑って言った。


「それは大事なことだよ。その人のことも、そういう人がいるっていうことも、大切にしてほしいな」

「わかりました」

先輩の言葉には妙な重さがあって。


気にはなったが、その違和感は、夏のそよ風に流されて消えて行ってしまった。


そのあとは30分ほど周囲を散策したり、ご飯を食べたり、写真を撮ったりして過ごした。


やがて満足そうな顔をした顧問が帰ってきて、俺たちはそろって帰路に就いた。

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