第41話 2学期スタート
更新が途絶えてしまい申し訳ございません。
生きています。高校2年生ということで、少し勉学の方で忙しくしておりました。
今後とも応援してくださると至上の幸福です。
どうぞよろしくお願いいたします。
いろいろあった夏。
いろいろありすぎた夏が終わって、9月になった。
言わずもがな、2学期も始まった。
まだまだ夏の暑さが残る新潟の町を歩く学生たちの背中には汗と鬱屈さがにじんでいた。
久しぶりの学校までの道のりをたどっていると、これまた懐かしい声が耳に飛び込んできた。
「よっす広哉!元気してたか?」
「泰正!見ないうちに焼けたな、元気だったよ。泰正も元気そうでよかった」
「おうよ、部活漬けの毎日だったけど、まあ楽しかったよ」
泰正とは連絡こそ取っていたが、会って遊ぶということはしていなかった。
1か月以上会わないうちに、彼は野球部のおかげでその肌をこんがりと焼いて再び俺の前に姿を見せた。
二人並んで高校までの道を歩く。
またこの日常が戻ってきたと思うと、嬉しいような、ちょっと憂鬱なような気分にさいなまれる。
「しかしあっついなぁ…いつになったらマシになるんだよ」
「だよなぁ。夏休みは半分くらい家にいたけど、外に出るときはマジで暑かった。あの暑さの中野球してる泰正はもっと大変だったんだろうな」
「マジで大変だった…って、それよりお兄さんよ」
「なっ、なんだよ…」
にやりと笑みを浮かべた泰正は、ぐっとこちらに体を寄せてきて訪ねてきた。
「彼女さんとは、順調かい?」
「うっ…ん…ま、まぁ順調だよ」
「くぅぅぅこの幸せ者…」
「やめてくれ恥ずかしい…」
そう、泰正には唯一柚希との交際を打ち明けていたのだが、伝えたのはあくまでもメッセージアプリ上でのみ。
文面でのやり取りしかしていなかったので、面と向かって伝えたときにどんな反応をされるか内心ドキドキしていた。
まぁやはり、顔を見て自分の口から言ってみると、ただでさえ暑いのに余計に、顔の周りが余計に暑くなる。
ぱたぱたと手で仰いでいると、隣の泰正は矢継ぎ早に質問をしてくるが、俺はそれらに答えるだけの精神力を持ち合わせておらず、テキトーに受け流していた。
教室に入ると、クーラーに冷やされたその空間に、その空間そのものに感謝した。
「涼しいいいいいい」
「生き返るー」
俺と泰正はそろって全身で冷気を受け止め、生きる気力をめきめきと復活させていった。
夏休み明け初日は始業式とホームルームだけで解散となって、午後はフリーだと伝えられていた。
パッとスマホを見れば、数件の通知が。
確認すると、真野先輩と柚希からだった。
真野先輩からは、「放課後部室で文化祭について話したい」というメッセージが。
柚希からは、「放課後一回家に帰ったらどっか遊びに行かない?」というメッセージが。
2学期初日からなんとも忙しいなと感じつつ、俺はまず写真部の方に顔を出し、その後柚希と落ち合うことに決めた。
「じゃあな、泰正」
「おう、また明日なー」
野球部のミーティングがあるという泰正に別れを告げ、俺は写真部室へ向かって歩き出した。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ。悪いね呼び出して、彼女との予定があったろうに」
「え、なんで知ってるんですか…?」
「あ、本当にあったんだ」
「…カマかけましたね」
「ごめんごめん」
笑いながら謝ってくる真野先輩を、カバンを置きつつ軽くにらむ。
流れるような自然さで彼女との予定について言及された時は本当に肝が冷えたが、まさかのカマかけだったとは。油断のならない先輩だ…
「そうか、彼女との予定があるのか。うん。なら早いところこの用事も済ませてしまいたいね」
「すみません、気を使わせてしまって。あと、すみません、彼女がいること黙ってて」
「いやいや気にしないで!自分から進んで打ち明けられる人の方が少ないだろうし、そもそも僕は個人的なことについては、当人が話すまでは聞き出そうとしないスタンスだし」
「助かります…」
先ほどの心臓に悪い発言とは反して、温かい言葉をかけてもらい、俺はありがたく思うのだった。
「さて、文化祭について、だったよね。まぁ例年写真部はどこかの廊下を借りて展示をしてるんだけど、今年もそれでいいかな」
「ん-そうですね…ちなみに、写真のそばに説明文というか、これはどういうコンセプトで撮ったとか、こんなことを感じ取ってほしい、みたいなことを書けるスペースってありますか?」
「去年は写真のタイトルと、撮影者の名前を掲載するだけだったんだけど…そうだね、南條君が希望するなら、それも掲示しようか」
「ありがとうございます」
「うん。それで展示場所なんだけど、どこがいいとか希望ある?まぁ、どこでも大して変わらないんだけどね」
自嘲気味に笑う先輩だったが、人通りの多い位置に展示した方が、より多くの人に自分たちの写真を見てもらえることは間違いない。そう思って少しだけ思案する。
「そうですね…2階の渡り廊下とか、どうですか?」
「あぁ、いいんじゃない?去年は1階の渡り廊下でね、意外とあそこって人が来ないんだよ。だから別の案を提案してくれてありがとう」
「いえいえ。やっぱりいろんな人に見てもらいたいですもんね」
深々とうなずいて同意を示す先輩は、ホワイトボードに「2階渡り廊下・写真の説明文」とメモをする。
(久しぶりに見たな、このホワイトボード)
「まぁ、今日はこんなところかな、うん。文化祭の参加手続きとかはこっちでやっておくから、南條君は楽しんでおいでよ」
「何から何まですみません。よろしくお願いします」
穏やかな笑みを浮かべる先輩に頭を下げつつ、俺は部室の出口へ向かった。
「まぶしいなぁ」
古びたドアを閉める時、窓を眺める先輩の姿が目に入った。
なぜかその姿は、残像のごとく俺の脳裏に強く焼き付いた。
写真部の用事も済んだことで、俺はやっとの思いで柚希のもとへ向かう。
今日彼女は、保健室に顔を出したのち、一度帰宅して俺と合流するタイミングを待っていた。
数件メッセージのやり取りをして、俺が一度帰宅してから、駅で待ち合わせることになった。
学校帰りの足でそのまま遊びに行くこともできたが、柚希が気を使ってくれたのだ。
「お待たせ~」
「俺の方こそ待たせちゃってごめんね、思ったより早く終わったんだけど」
「いいよいいよ、いこっか」
制服から私服に着替えて、最小の滞在時間で家を出た俺は、無事、駅で柚希と待ち合わせることに成功した。
ここから直江津駅まで電車に乗り、そこから乗り換えたり歩いたりして映画館まで向かう。
最寄りの映画館に行くのに上越市まで出ないといけないのは何かと不便だが、仕方ない。
柚希によれば、2週間ほど前に公開された映画で見たいものがあるとのことだった。
アニメーション映画で、東京ドームを満員の観客で埋め尽くすライブをすることを夢見る少年と少女による、バンドの物語だそうだ。
主人公たちは高校生ということで、感情移入がしやすいかもなとも思えた。
「着いたー!平日のこの時間だと割と空いてるね」
「そうだね、早帰りはありがたい…」
「学生の特権だね、早速チケット買おうか」
時刻は16時手前。館内には、老夫婦や小さな子供連れの母親がちらほらいるだけだった。
並ぶことなくチケットを購入した俺たちは、シアターへの入場までまだ20分ほどあったので、物販を覗いてみることにした。
館内の一角に設けられた小さな物販スペースには、現在上映されている作品のグッズが並べられていた。
その中に、今日見る予定の作品の原作小説がぽつりと置かれていたのを見つけた俺は、おもむろに手に取った。
裏には作品のあらすじが記されていた。
見れば──
4万人がペンライトを振る姿を、この4人で見よう。
かつてそう誓った高校生男女によるバンドの物語。
東京の街に、満天の星が降る。
そんな夜を、彼らの音楽とともに。
とあった。
なかなか面白そうな作品だなと思い、もう一度表紙に目をやったところで、横から柚希に声をかけられた。
「買うの?」
「あぁ、うん。面白そうだなと思ってさ。結構人気なんだね、原作」
「そうなんだよ~、私は原作読んだことないんだけど、ネットでも話題になってるし、CMが素敵な雰囲気だったからさ」
表紙の帯に記された「20万部突破」の文字をなでながら、そんな話をする。
本好きな俺としてはぜひとも買いたいところだったが、ひとまず映画を見てから判断することにした。
俺たちはそのまま隣のポップコーンやらドリンクやらを売っているカウンターへ出向いた。
「広哉君は、何か買う?」
「ん-、俺はいいかな」
「そっか、じゃあ私は飲み物だけ買ってきちゃうね」
「りょーかい」
実は俺は映画を見る時、何も飲み食いしない性格なのである。どうでもいいけど。
ちょうどいい時間になって、片手にカップを持った柚希と並んで歩き、シアターまで向かった。
「誰もいないね」
「貸し切りだ」
シアターには先客がおらず、貸し切り状態となっていた。
俺たちしかいなかったが、会話はささやき声で交わす。
きっと映画館の雰囲気が俺たちにそうさせたのだろう。
長ったらしい広告を見終え、シアター内が暗転し、いよいよ本編が始まった。
序盤はみずみずしい青春を描き、その後にメンバーの脱退騒動やら学業不振による退学騒動やらがあったものの、最後には4人の音楽が世界に認められていく様子を見ることができた。
上映中、ちらりと柚希の方に数度目をやったが、彼女も映画に魅了されている様子で、目がキラキラ輝いていた。
「面白かったね~」
「うん、作画もきれいだったし、音楽も好きな系統だったな」
「満足してくれたみたいでよかったよ、そういえば、小説はいいの?」
「せっかくだし、買っていこうかな」
内容的にも満足できるものだったし、文章になった時にどんな表現がされているのか、興味があった。
俺は先ほどの物販スペースで目当ての小説を買い、柚希と一緒に映画館を出た。
その後は、時間的にもちょうどよかったので、近くのファミレスで夕食を食べることにした。
(映画館からのファミレス…ザ・高校生カップルって感じだな…)
少し気持ちの悪いことを心の中で独り言ちつつも、俺は柚希との時間を満喫していた。
「ここでいいよ、送ってくれてありがと」
「うん、じゃあ、また明日」
柚希の家の近くの交差点で、俺たちは別れた。
柚希と出かけた帰りは、幸福感と、満足感に包まれる。
その気持ちを大切に抱きしめて、俺は家路についた。




