九十二話 王女再誘拐!
プールウェルは余韻を残さずに飛び去ってしまい、地上には呆けた俺たちだけが残っている。感覚も感情も動いては止まりを繰り返したから、頭の中がちょっと動かなくなっている。ジェットコースターに乗った後の一瞬が続いているような感じだ。
「俺たち、生きてるよな。」
「とりあえず、ゲームオーバーにはなってないですね。」
「いやあ、死ぬかと思いましたよ。」
ヘナっと体の力が抜けて、ぼーっと落ちてきた空を見上げていたが、大事なことを思いだした。
地上にいるはずの二人のことである。カティーヌもリリィ王女も、扉が開いたのだからこっち側に来ているはずである。
「どこにいるんだ?」
見まわしてみても二人は居ない。
「まだこっちには来ていないのか?」
おかしいな。普通は門が開いてたら来るもんだろ。何かあったのかな?
気を取り直して、俺たちは二人を探し始めた。門をくぐったこちら側には来ていない。それに俺たちを置き去りにして行ってしまっているとも……いや、考えられなくはないけど。それでも待ってくれていると思いたい。
なので、いるとしたら門の手前側である。
「向こうに戻ってみます? 何かあったら大変だし。」
三人で戻って、暗い門をくぐる。
「へえ、こんなふうになってたんですね。開くところ見てみたかったですね。」
ミヤビの声が門の内壁に反響した。
門の壁には、苔の生え際があった。おそらくは一度も開いたことがなかったのだろう。
「私たち、もしかしたら歴史を刻んじゃった感じです?」
「さあね、でもとんでもないことをしちゃったのは確かだよ。」
これで、もう俺たちはカティーヌたちと別れたとしても追われる身となる。自分たちだけでこの関所を突破してしまったのだから、俺たち単独で指名手配される可能性が高い。つまり、たとえ今から勝手に逃げ出しても、俺たちは俺たちで個別に追われることになるということである。
もしかして、最初からそれが狙いでカティーヌは俺たちだけで行かせたのか? それで、その彼らは……
いた! しかし、なんなんだこの状況は!
「大丈夫ですか!」
カティーヌは門をくぐって戻った先の壁にもたれていた。それも、傷だらけの状態で。
「何があったんですか!」
「す、すまないな。」
そして、リリィ王女がいないのである。
「どうしたんですか、王女さまはどこにいるんですか?」
息が荒いカティーヌを薬で回復させて、落ち着かせてから彼の話を聞いた。
彼は下唇をかんでいた。
「情けないな。やられちまったよ。全くかなわなかったよ。」
「それは、誰に?」
「ブイモールさ。」
「誰それ? そんな奴知らないんだけど。もっと分かりやすいように説明してくださいよ。」
「ああ、そうだったな。あいつはな、この国の大臣だよ。あいつ、まさかこのタイミングでここに来るとはな。完全にやられちまったよ。」
「へえ、大臣さんなんですね。じゃあ、とりあえずは王女様は無事ってことですかね。」
大臣が連れて行ったのなら、他の賊やモンスターに連れていかれたわけじゃないから、彼女の安全は保証されている。
けれど、やはりカティーヌの顔は渋かった。
「考えようによっちゃ無事とは言えないよ。そのブイモールってのはリリィのことを狙っているんだ。あいつがリリィを助けたみたいになれば、リリィがブイモールに嫁がされるみたいな流れにもなりかねない。」
大問題じゃないか!
よく聞くありがちな展開だな。というか、そんなベタな急展開が、なんで俺たちがいないところで進んでいるんだよ!
「そのブイモールってのはどんな人なんですか?」
「このタイミングで、大勢で囲ってボコボコにしてくるようなやつだぞ? ロクなやつなわけはないさ。」
そりゃあカティーヌの口からきいたらいい話は出てこないだろうが、やっぱりまともなやつじゃないらしい。ここまでお決まりなようだ。
「でも大臣をやってるような人なんでしょ? それなりにスペックは高いんじゃないですか?」
「いや、家柄だけで出世してるんだよ。」
「うわぁ、ボンボンってわけですか。」
「ああ、オレが一番嫌いなタイプの人間だよ、あいつは。」
たぶん好きなやつは一人もいないと思う。
ともあれ、これでもう一つやることが増えてしまった。
「まずはそのブイモールから王女さまを取り返さないといけませんね。」
「ああ、しかし、幸いというか、なんというか、ルートは予定と全く変わらない。」
「へ? それって。」
「この先の三つ目の関所、最終関門にいるんだよ、王女もブイモールも。なんで王国に連れ帰らないかは分からないが、そこに二人とも向かっていった。」
ほうほう、なんか最終局面っぽい雰囲気が出始めたな。この逃避行もいよいよ佳境か。この先の最終関門がどんな風になっているかは分からないけど、おそらくはとんでもない仕掛けになってるんだろうな。今いるこの二番目が規格外だったからな。三番目は単純に考えて、もっととんでもないことになってるんだろうな。
となれば、ここに長居するわけにもいかない。早くしなければ王女さまは王国の城の部屋に連れ戻されてしまうだろう。




