六十七話 合流です!
マナ王妃は指で空中をなぞると、火花のような光を指先から出した。
「あなた、もう行った方がいいわ。」
「今何をしたんですか?」
「わたくしからの、ちょっとした餞別のようなものよ。それで少なくともあなたは安全にこの城を出られるわ。」
何をしたのかは結局教えてもらえなかった。
外がバタバタし始めた。
「ほら、もう行ったほうがいいわ。ここであなたに会えたこと、きっと意味のあることだから、覚えておくわ。盗賊、ロータス。」
彼女の見送りを受けながら、扉の外に飛び出した。
廊下が騒がしくなったのは、このフロアに警備の人間が増えたためだった。
くそ、すでに何人も集まっている。ここは突き当たりだから、逃げ道がない。
「下の階にいなかったんだ。ここにいるはずだろう。くまなく探すんだ。」
ヤバい、もうすぐそこまで来ている。
角を曲がって出てきたのは三人の警備兵。
「おい! あそこ!」
くそ! 見つかってしまったか!
兵士三人はどんどん近づいてくる。もうダメか、戦うしかないのかと、剣の柄に手をかけた。
「そこにいるお前! 新人か? 賊はいなかったか?」
え? は?
「おい! 聞いているのか? お前だよお前。異常はなかったか?」
「え、ああ。特に異常はありませんでした。」
「……そうか。この階にもいないみたいだな。上に行くぞ。」
そういって三人の警備兵たちは立ち去ってしまった。
なんだったんだろうか? 見つかってしまったと思ったのに、彼らは俺のことを警備兵の一人だと勘違いしていた。そんな見た目はしていない。思いっきり盗賊の格好をしている。
もしかして、これがマナ王妃の言っていた餞別のことなのだろうか? 今、俺の姿はこの城の警備兵に見えている。
なるほど、それなら確かに城を安全に出ることができる。
「でもなあ、あいつらを探さないといけないし。」
俺はひとまず、さっきの兵士たちが行った方とは逆の、下の階へとおりた。
3階はすでにマークされていないようで、警備は厳重ではなかった。まあ厳重だろうがそうでなかろうがもう俺には関係ないのだが。
俺は3階のまだ行ったことのなかった部分に足を踏み入れた。
「うお! これまたすごいな。」
3階、2階、1階が吹き抜けになっていた。そして見下ろせば巨大な噴水がある。
「屋内にあんなでかい噴水なんか置いちゃって、蒸さないのかな?」
なんて野暮な疑問が浮かんだが、そんな夢のない話はしないでおこう。
噴水の勢いは凄まじく、水柱はこの3階の高さまで届いていた。水飛沫がさらさらと顔に当たる。
と、噴水を眺めていると後ろが騒がしくなって来た。
「待て! 貴様!」
あれ? バレちゃったのかな?
「待てって言われて待つ盗賊なんているわけないでしょ!」
「盗賊が城の中で暴れるものか!」
あ、俺じゃないわ。
振り返るとミヤビとトルクが多数の警備兵たちを引き連れて走ってくる。
「何やってんだあいつら。」
上手くやるなんて思っていなかったけど、あれは盗賊失格だろう。
彼らは俺のことを見つけた。
「うわ! 前にも敵がいますよ!」
「え?」
……あ! そうだったわ。今俺の姿って警備兵に見えるんだった。
ミヤビは俺のことを睨みつけている。杖を抜き出し、俺のことを攻撃する気満々である。
困った。もう後ろには何もない。
「トルクさん! このまま突っ込んで飛び降りますよ!」
「……仕方ないよね。なるようになるさ!」
二人はどうやらこのまま突進してくるようだ。勢いに乗っているから、避けようにももう遅い。
二人の必死な姿がもう目の前まで迫った。
「くそ!」
「ガシャーーーン!!」
二人は俺を突き飛ばして、一緒に下へと飛び降りた。
置いてけぼりにしなかったのは嬉しいが、そんな乱暴にはしてほしくなかったな。
「ザバーン!」
俺たちは、後ろから追ってきて立ち止まることができなかった追手たちとともに噴水の中へと落ちた。
「ぶはっ! 死ぬかと思った。」
ミヤビは誰よりも早く噴水のふちから這い出ると、水を滴らせながら一階の玄関へ向かって駆け出した。
続いてトルク。彼も体勢を崩しながらビチャビチャとミヤビのあとを追っている。
置いていかれては困るから、俺も二人を追いかけた。相変わらず兵士の姿に見られているようで、俺だとは気づいてもらえなかったが、二人とも逃げるのに夢中で攻撃してくることはなかった。
玄関は噴水からまっすぐ行ったところにある。距離にしておよそ80メートルほどか。全力で走ればすぐに着く距離だ。
ミヤビが最初に正面の大扉にたどり着いた。が、
「ガシャン! ガシャン!」
「えちょっと! 開きませんよ!」
扉は内からも閉ざされていた。普通に閉まってしまっているのか、それともシステム上、いわゆる「不思議な力」のせいでそうなっているのかは分からない。
トルクも着いたが、やはり開く様子はない。
「そうか!」
こういうときにリキッドキーを使うのだ。
リキッドキーならば開けられないことはないはずだ。でも、どうやって渡せばいい? 俺の姿は今は敵兵に見えている。
渡したところで信じてもらえるわけがない。
「くそ!」
とっさの判断で選んだのは、結局いつも通りの展開だった。
「ひらけぇぇ!」
「ドガーーン!!」
俺は思いっきり振りかぶった大剣を扉のど真ん中に振り下ろした。
「ミシミシミシ!」
乱気流が扉を押し開けていく!
「バキン!」
扉はついに飛んでいってしまった。
振り返っても、追っ手はない。三人だけになって、扉の外に出た。
「はあはあ、しんどかったですね。体も少し痛いし。」
「けれど、ロータスさんを置いて来てしまったよ。」
「俺ならここにいるぞ?」
「「ええ!」」




