五十七話 脱獄です!
ダレーメンと名乗るガタイのいい男の指にある鍵は先の方がうねうねと動いている。
「うわ! 何ですかあれ? 気持ち悪いですね。」
うん、正直三人ともが同じ感想を持ったことだろう。
おじさんはダレーメンと何やら話している。少しすると、また俺たちの方に来た。
「ほら、あんちゃんたち。この人がここの地下武器屋の主人、ダレーメンさんだよ。」
地下武器屋? ここも武器屋なのか。
「おたくら、一見さんだね。本当なら入れてやることはできんが、そこのジジイの縁故ってことでオーケーにしてやるよ。」
「ありがとうございます?」
見回すと、たしかに暗い中に沢山の武器が置かれている。どれも、初めて見るような武器ばかりだった。
「それで、リキッドキーが欲しいんだったな。ほら、これが今のところの唯一の在庫だよ。5,200ゴールドだ。持ってるよな?」
「うお! 結構お高いんですね。いやあ、もう少し安くなりませんか?」
おいおい、ミヤビのやつ、ゲームで値切りし始めたぞ5,200くらい持ってるだろう。
そう、あれだけギャンブルで負けておいて、今はもうゴールドが有り余っているのだ。アリーナにそれから魔女との戦闘に、クラウン狩り。5,200くらいわけないくらいのゴールドがあるのだ。
相手はNPCだから、もちろん値切ることなんてできるはずがなく、俺たちは5,200ゴールドを払った。
手渡されたリキッドキーは気持ちが悪いので三人で押しつけ合いになったのだが、結局はじゃんけんに負けたミヤビが持つことになった。
「うへえ、ほんと最悪。」
「ほら、負けたんだから文句言わない。」
「へいへい。」
彼女は鍵をつまんで持っていた。いわく、ポーチの中は逆に入れたくないらしい。
店を出ようと思ったところで、俺たちはダレーメンに呼び止められた。
「せっかく来たんだから、他にも見ていきなよ。もう当分は店に来られないと思うぜ。」
店に来られない? でもまあ色々あるんだったら見て行ってもいいかな。
見ていると、防具もちゃんと売られているようだった。
「ん? これって盗賊用の装備ですよね?」
トルクが目をつけたのは、マント型の防具。
「ああ、そうだよ。『ステルスフライ』、盗賊専用装備さ。スキル『隠密』を使いながらだと跳躍力が格段に上がるって代物さ。防御力もちゃんと高いんだぜ。」
そういえば俺たちは、防具をしばらく変えていなかった。ずっと「盗賊のローブ」のまま。あとは南国で水着を着たくらいだ。
この際だから、防御力強化も図ったほうがいいんじゃないだろうか。
「これ、買わないか?」
「いいんじゃないですか?」
「私も買いたいです!」
「あれ? ミヤビはえらく乗り気だな。」
「だって、これ女用のデザインがあるんですよ!」
彼女が指さしたのは、もう一種の「ステルスフライ」だった。
それは、男用よりもスラっとした、スタイル重視のデザインをしている。
「へえ、そんなのまで用意されてるんですね。」
「私、これ着たいです!」
値段も変わらないし、構わないな。
「これっていくらするんですか?」
「一着3,600ゴールドだよ。」
うお、高いな。防具は武器に比べるといくらか安くなるのが相場なのだけど、それでも3,600ゴールドか。三着買えば10,800ゴールドだ。
俺はパーティーの財布の中身を見た。
「足ります? ロータスさん。」
「うん、割とギリギリ。」
無事に買えたのだが、また金欠に逆戻りしてしまった。
今度こそ武器屋を後にした。もっと見てみたい気もしたが、そもそもゴールドがすでに底をついている。どうせ買えないのなら、さっさと出てしまった方が名残惜しくならなくてすむ。
二度目の井戸の底は躊躇いもなく、迷いもせず、またカティーヌの待つ牢屋の前まで戻ってくることができた。
「おお! 待ちわびたぞ! よくぞ来てくれた。」
カティーヌは俺たちを急かした。
しかし、このウネウネとしたリキッドキーをどう使えばいいのかが分からない。
どうしたらいいか分からずにもじもじしているミヤビに対して、カティーヌはじれったそうにしている。
「ただ差し込めばいいんだよ!」
「え? これを?」
うねうねしていて、形さえ変わるような鍵だから、差せるのか疑問だったが、ミヤビは素直に鍵穴に突っ込んだ。
「あれ? 入った!」
予想とは裏腹に、リキッドキーは穴にぴったりと収まってしまった。
まるでこの鍵穴のために作られたオリジナルのキーのような馴染み方をしている。
「そのまま回してくれ。」
言われた通りに回すと……
「ガチャリ」
「あ、開きましたよ。」
本当に錠は開いてしまった。
カティーヌはそれを見てニヤりと笑った。
「よくやってくれた! 感謝するぞ。」
トルクが牢の扉を開くと、カティーヌは自分で出てきた。
「これも外してくれ。」
と、両手を差し出してきた。
手錠の鍵は扉の錠よりも数段小さい。
「え、これも開くんですか?」
「大抵開くさ。早くしてくれ。」
言われた通り差し込むと
「お! また開いた!」
手錠も難なく外れてしまった。
ついに完全に自由になったカティーヌは両手を広げた。
「やったぞ! 私はまた自由だ!」




