五十六話 魔法のカギです!
俺たちがリキッドキーを知らないことを知ると、カティーヌは呆れた顔でため息をついた。
「知らないだけなのに、ムカつきますね。」
「ほらほら、すぐに喧嘩腰にならないの。それにしても、名前を聞いたくらいじゃどんなものなのか、見当もつかないな。」
「そなたたち、本当に知らないんだな。仕方ない、少し教えてやるよ。」
カティーヌは牢の奥で、鎖をジャラジャラ鳴らしながら、身振り手振りで説明をし始めた。
「リキッドキーってのは、盗賊にしか扱えない代物だ。だから、それ以外の者どもにとっては何の価値もないようなものなのだが、逆に盗賊にとっては非常に強力な道具となる。」
盗賊専用か。盗賊であるのを強みに出来るのならいいかもしれないな。
「簡単に言えば、武器でもあり、鍵でもある。そんな道具だ。それがどういう意味なのかは、説明が難しいな。実物を見てもらえれば分かるだろう。」
「それがあればここの錠も開けられるんですか?」
「ああ、もちろん。このくらいの錠前だったらわけないだろうな。」
なるほど、イベントを進めるためには、そのリキッドキーが必要になるのか。
「それで、そのリキッドキーっていうのは、どこで手に入るんですか?」
「そんなに珍しいものでもないはずだから、武器屋にでも売ってるんじゃないか?」
そんなもの武器屋で買えるのか。
ということは、一旦地上に上がらなければならないのか。しかし背に腹はかえられない。
地上に引き返すと、街灯の眩しさに目を覆った。
「うわ! こんなに明るかったですっけ?」
「俺たちもすっかり闇の住人だな。」
「そんなのごめんですよ、私は明るいほうが好きですから。」
目が慣れてくるまで、視界の端が緑色のまましばらく過ごした。
さっきの武器屋につくと、客の数はかなり減っていた。
「よかった! 今なら楽に買い物できそうですよ。」
「楽じゃない買い物ってのがパワーワードなんだよな……。」
しかし、そう簡単にはいかなかった。
真っ先に店に入っておじさんのところに行ったミヤビはまた騒ぎ出した。
「ええ! ないって本当ですか! そんなわけないでしょ! ここにあるはずですよ。」
え、ないの?
だって武器屋にあるって言ったじゃん。ないとかありえないでしょ。
「その装備はここにはありません。」
「その装備はここにはありません。」
「その装備はここにはありません。」
検索機能をどれだけ使っても、やっぱり出てこない。
どうしてだろうか?
「名前間違ったりとかしてない?」
「いえ、ちゃんと『リキッドキー』って打ち込んでます。」
ミヤビはムキになって検索機能を連打している。
しかし、そんなことしたって仕方がない。どうやら本当にここにはないらしい。
でもそれならどこにあるというのか? と、そのとき俺たちは後ろから声をかけられた。
「あんちゃんたち、『リキッドキー』を探しとるんか?」
振り返ると、小さめのおじさんが立っていた。
見るからにプレイヤーではない。この人もNPCだろう。
「誰ですか? 凄くあやしいですね。」
目の前で言うのはどうかと思うが、確かに怪しい。
風呂に入っていないだろう、ボサボサの髪を伸ばし、くたびれ切った灰色のコートを着ている。
「あんちゃんたち、こんなところにリキッドキーなんてねえよ。」
「え、そうなんですか?」
いや、素直か!
ただ、無視はできないな、その情報。
「おいら、リキッドキーある場所知ってるから、よかったらついてきなよ。」
またまた怪しい話だな。
怪しいおっさんについて来いなんて現実で言われたら通報案件だろ。
「怪しい……ですけど、現状ついていくしかないんじゃないですか? これもイベントの一部でしょうし。」
「だからメタに考えんなよ。」
でもやっぱりトルクが正しい。
クソほど怪しいおじさんだろうとも、ついていかなければ話が進まないのだ。
「とりあえず……一緒に行ってみようか。」
「……ええ。」
というわけで、おじさんについてきたのだが、今度は違う方角の町外れにやってきた。
「うげ! もっと怪しくなってきちゃったじゃないですか!」
おじさんはどんどん細い路地に進んでいく。
ついに、ネズミが走るような汚い路地裏まで連れてこられた。
「ひい! なんですか、ここ! 私たち身ぐるみ剥がされるんじゃないですか?」
俺もそうなるんじゃないかと思ってしまい、身構えた。
しかし、おじさんはこっちのそんな様子など全く気にしていない。
「さあ、着いたぞ、あんちゃんたち。」
そう言いながら、おじさんは足元の隠し扉を開いた。
扉を開けると、細々と地下への階段があった。
「この下にあるんだ。そこでリキッドキーが買えるよ。」
言われた通り、三人で恐る恐る下に降りると、微かに明かりが漏れていた。
「ここですかね?」
そうみたいだ。
おじさんが扉を開けたので、それについて中に入った。
「おう、ダレーメンさん。客だよ、リキッドキーが欲しいんだとさ。」
奥で煙草をふかしていたロン毛の男がゆっくりとこっちを振り向いた。
「リキッドキーだ? こんなもん欲しがるやつなんて、まともじゃねえな?」
男はそう言うと、指にかけた鍵をくるくると回していた。
その鍵は、先の部分がうねうねと動いていた。




