四十六話 謎の森です!
船で遭難してしまったところまでは覚えている。まったく、南国に入るときといい、俺たちは無事に次のエリアに辿り着くことは出来ないのだろうか?
横を見ると、ミヤビとトルクの二人も寝ていた。彼らはまだ気を失っているようだ。
「おい! 起きろ。二人とも。」
トルクの体を揺すると、うめきながらも起き上がったので安心した。
「うんあ? おはようございます。」
次にミヤビを起こすと、若干目覚めが悪いようだが、こちらも具合が悪いわけではなさそうだった。
二人もやはり周りの風景に驚いた。
「あれ? 結局着いたんですか? W3。」
「あんな嵐でちゃんと目的地に着いているんですかね?」
そう、そこが問題。嵐に襲われて、漂着したさきが、とても元の目的地であるW3だとは思えないのだ。
第一、南国の近くにあるにしては異質すぎるエリアだ。陸の方を見ると、どこまでも森が続いている。それはいいのだ。それよりも……。
「え! あれ見てくださいよ。雪が降ってますよ!」
森の中に並ぶ針葉樹の葉には、雪が降り積もっていたのだ。
南国の次は北国なんて、いくらなんでも極端すぎるだろう。
でも、引き返そうにもできない。船がもうないからだ。嵐の中で俺たちは転覆する船から投げ出されてしまったので、その後その帆船がどうなってしまったのかは分からない。
つまるところ、俺たちはこのエリアを進んでいくしかないのだ。
「ここにいてもしょうがないですし、とりあえず森の中に入ってみますか?」
「そうですよね。中に行けばここがどこか分かるかもしれないですし。」
「そうだな、マップがないのはちょっと心配だけど、中を進んでみよう。」
マップが更新されていないのを見ても、やはりここはW3ではないようなのだ。にしてもゲームの移動中で遭難するなんて、なんとも不思議な話だ。
森に足を踏み入れると、砂浜とは全くの別世界だった。
「うわ! 寒っ!」
「ほんとですね。鳥肌がたってきちゃいました。」
雪が降るのも頷けるほどの寒さ。
葉もそうだが、地面にも、木の真下以外には雪が積もっていた。それも結構な深さ。歩くとはっきりと足跡がついた。
北国の冬のような寒さだ。砂漠や南国を歩き回るような装備だと心許ない。今だって、俺の体は芯から震えている。
歩いても歩いても、森が続く。木も針葉樹しかないので、本当に景色が変わらない。
「嘘でしょ。まさか何もないとかはないですよね?」
「分からない。何も分からないんだ。」
三人だけが世界に取り残されたよう。このまま立ち往生してしまうのではないかという不安に駆られ始めた。
戻った方がいいのではないかとも思ったけれど、もう手遅れ。どこも同じ景色であるせいで、今自分たちがどこにいるかが分からない。やっぱりマップって大切なんだな。
戻れないことがわかると、ますますパニックになってしまいそう。ミヤビとトルクも不安と焦りがはっきり顔に出ている。
自分の中の不安がどんどん大きくなっていき、ついに口に出してしまいそうなときだった。
傍にあった木の陰から、モンスターが飛び出してきた。
「ホホホホホ。」
この瞬間ほど、敵の出現を喜んだことはない。敵が現れたということよりも、何もないわけではないことが分かり、嬉しくなってしまう。
敵の名前は「ウィッチ」だった。名前の通りの魔女の見た目をしていた。体のシルエットが見えなくなるほど大きい紫の衣なんて特に雰囲気が出ている。
「気をつけた方がいいかもしれない。多分魔法を使ってくるよ。」
ウィッチは素早く、先制攻撃を仕掛けてきた。
「ホホホ!」
魔法陣が現れて、そこから火の玉が飛び出してきた。
「危ない!」
三人ともにそれぞれ火の玉が飛んできたが、みんな避けることができたようだった。
火の玉はそのまま俺たちの後ろまで飛び、木に当たってそれを燃やした。
「あら、あったかい。」
火の魔法の威力は強く、木はたちまち勢いよく燃え上がってしまった。
当たっていたら結構なダメージになってしまっただろうが、かえって周辺が暖かくなったおかげで、寒さが気にならなくなってきた。
「かじかんでいた手がほぐれてきました。」
ミヤビはそれで元気を取り戻したらしく、魔法の打ち終わりで隙ができているウィッチの懐に飛び込んだ。
「そりゃゃあ!」
魔法使いを杖で殴り倒すのはおかしな話だが、ミヤビの杖はウィッチのこめかみを正確に捉えて、振り抜かれた。
ウィッチの体はボールのように勢いよく飛んで、近くの木に激突した。
「これで終わりですね!」
ところがだった。
「ホホホホホ。」
ウィッチは起き上がってきたのだ。
「え! なんで?」
ミヤビの攻撃はいつも通りクリティカルだった。しかし、ウィッチは耐え切ってしまったのだ。
普通の敵で今までそんな奴はいなかった。
「特別指定なんですか、こいつ。」
「いや、そんな表示は出ていない。普通のモンスターだよ。」
ウィッチはまた魔法陣を出した。また火の魔法を打つつもりだ。
「ホホホホ!」
「まずい!」
ウィッチの近くにいるミヤビは避けることができない。
火の玉がまた三方に分かれて放たれた。
「ぐっ!」
「ボシュウ!」
「あ、ありがとうございます、ロータスさん!」
なんとか間に合った。火力はどんなに盛れたとしても、所詮俺たちは盗賊だ。一撃でも敵の攻撃をモロにもらってしまうのは危険……。




